中小企業にとって「新卒採用」は戦略的投資です
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会社が人を採用する目的は、「人手不足」や「欠員補充」への対応といったことが多いと思います。いわば、現在の事業や組織を前提として、それを維持するための手法だといって良いでしょう。一方で、今すぐ何かが起こるわけではありませんが、その人が入社することで、何か大きな変化が起こること、何か新しいことが生まれること、を期待した採用もあります。これは、いわば「投資」だと言えるでしょう。
中小企業が新卒を採用することは、後者の「投資」に近いことではないかと思います。中小企業にとって、人を増やすことはそれだけでリスクの高いことです。従って、できるだけ人を増やさずに生産性を向上させて利益を上げたり、人を採用する場合も、経験者を中途採用するなど、成功確率の高い経営を目指すのが常道ではあります。しかし、経営にはリスクテイクしなければならない場面もあります。特に、昨今のように先行き不透明な時代ではなおさらです。筆者は、中小企業でも新卒採用をルーティン化して、新入社員が起こしてくれる組織内の化学反応という可能性に期待したいと思います。
小さな会社が新卒採用を続ける効果
中小企業が新卒採用を続けることには、デメリットもありますが、次のような多くのメリットがあります。既存の組織に新しい風を吹き込み、企業文化を活性化させる力は、会社の未来を左右することになりますので、十分に理解しておきたいところです。
1. 組織の活性化とイノベーションの創出
新卒者は、既存の社員とは異なる視点や価値観を持っています。社会や業界の常識に染まっていないため、既存のビジネスモデルや業務プロセスに対して、新鮮な疑問や意見を投げかけてくれることが多いものです。素朴な「なぜ?」という問いかけは、組織に停滞感がある場合に、新たな気づきや発想の転換をもたらし、結果的にイノベーションの創出につながる可能性を高めます。また、若い世代のデジタルネイティブな感性や、SNSを駆使した情報発信力は、古い体質の会社では思いつかないような新しいマーケティング手法や商品開発のヒントを与えてくれることもあります。最近では、生成AIの活用もこのカテゴリーに入ってくるでしょう。
2. 企業文化の継承と刷新
新卒採用は、会社の理念やビジョンを次の世代に引き継ぐための重要な手法のひとつでもあります。会社のDNAを最もフレッシュな状態で受け継ぎ、未来を担う人材が育つことは、会社の持続的な成長には不可欠です。また、新卒者は単に文化を「継承」するだけでなく、「刷新」する力を持っています。会社にある古い慣習や風土に固執するのではなく、新卒者の新しい考え方を取り入れることで、時代に合った柔軟な組織へと進化することができます。これは、会社の社会的なプレゼンスを高めるうえでも重要です。
3. 人材の育成と長期的な戦力化
新卒者を一から育てることは、即戦力の中途採用に比べて時間とコストがかかります。しかし、会社の文化や業務内容に深く精通した「真の戦力」を育成できます。会社の理念やビジョンを共有し、長期的に会社を支える幹部候補として成長してくれる可能性も高くなると思います。また、新卒者の成長を支援する過程で、既存社員のマネジメント能力や指導力も向上します。人を育てる経験は、社員自身のスキルアップにもつながり、組織全体のパフォーマンス向上に貢献します。
4. 採用ブランドの確立と優秀な人材の確保
「毎年、新卒採用をしている会社」というイメージは、会社の安定性や成長性を外部にアピールするうえで強力なブランディングとなります。特に、採用活動が困難な中小企業にとって、新卒採用を継続することは、社会的な信用を高め、優秀な人材が集まりやすい土壌を作ることにつながります。中途採用ではなかなか出会えないような、ポテンシャルの高い若者と接点を持てることも大きなメリットとなるでしょう。
新卒採用を継続していくために
このように、小さな会社が新卒採用を継続することは、単なる人員補充ではなく、会社の未来への先行投資です。新卒者ならではの新しい視点や可能性は、既存の組織に化学反応を引き起こし、イノベーションを生み出す原動力ともなります。しかし、その一方で、育成コストや早期離職のリスクなど、乗り越えるべき課題も多く存在します。これらの課題を克服するためには、単に新卒を採用するだけでなく、「育成する体制」や「定着を支援する文化」を会社全体で築き上げることが不可欠です。新卒採用は、小さな会社にとって、自社の魅力を再認識し、組織全体を活性化させる絶好の機会でもあります。綿密で戦略的な計画と、新卒者一人ひとりを大切に育てるという強い意志を経営者が持っていれば、小さな会社でも新卒採用を継続していくことで、会社の持続的な成長を実現できるでしょう。
ABOUT執筆者紹介
大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役
大曲義典 社会保険労務士事務所 所長
関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。