01 September

withコロナ時代の美容サービスのDXとは? 美容サービス業の経営管理にどのような変化をもたらすのか?

掲載日:2021年09月01日   
税務ニュース

beforeコロナの美容サービス業(美容院・ネイルサロン・エステ等)は、都市部での高い賃料支払いの対価として、その都市に集まる顧客を獲得してきました。そしてその商圏に対して集客広告を行うことで新規客を獲得し、その獲得した新規客の中で一定のリピート化を図ってきました。しかし、リモートワークなどwithコロナの新しい生活様式によって、平日の昼間人口は、都市部から郊外部へと大きく流出し、従前の集客・収益モデルの維持ができなくなり、都市部では減収、郊外部では増収という現象が生じています。

これらの収入モデルの変化は、今後の美容サービス業の経営管理にどのような変化をもたらすのでしょうか。

withコロナ時代の美容サービスのDXとは?

業種により減価償却費や仕入れ商材の売上原価の多寡はあるものの、主な美容サービスは売上高人件費率が6割程度の、売上高と人件費を中心とした収益モデルになっていると思います。経営管理モデルに当てはめて考えると、顧客管理(カルテ等)とその取引履歴(施術、物販他)の管理が中心です。このコアとなる管理モデル自体は、コロナ前後でさほど変化していないと思います。一方で、従来どおりの方法では集客ができない訳ですから、売上高比率で10%を締めていた販売促進費(集客広告やクーポンなど)の使い方には大きな差が生じてくると思います。すなわち、新しい生活様式は、まず最初にに案件管理に変化をもたらすことになります。また、美容サービス業においての案件管理とは、「顧客」が「サービス」を利用するに至る集客や取引の経緯の管理ですから、その構成要素としての顧客管理は一層その重要性を増し、同時にサービス開発管理などの開発領域の重要性も増加していきます。

リモートワークの影響でそもそものマーケット自体が縮小しているという考え方もあるようですが、美容消費係数※1 を見る限りでは、2000年以降の上昇傾向は途絶えていないため、マーケット全体に対する懸念はないように思います。

※1美容消費係数とは、ホットペッパービューティーアカデミーが独自に算出した『世帯消費における美容消費の割合(総務省 家計調査)』のこと。

顧客管理と案件管理のDX

美容サービス業の顧客管理というとサロンボードなどのカルテサービスや、それと連携するPOSレジなどのツールがイメージされます。しかし、現場では様々な問題が起こり、実際には活用できているとは言い難い状況にあります。例えば、顧客の嗜好や悩みなどの心理的ニーズが管理できていなかったり(住所やメールアドレスなどは登録できていることが多いのですが)、お友達や家族などの見込み客情報が管理できていないなどはよくある事象です。これらは、それ単体では軽視されがちですが、案件管理と組み合わせた場合に大きな問題になり得ます。

美容サービスの儲けの重要なポイントの一つに”リピート率”がありますが、再来店を促す時に「来店ください!」というプッシュ型のメールや、文脈の無い値引きメッセージなどが標準となっていることがよくあります。

コロナ禍で商圏が狭くなったことは、顧客側にとっても、特定店舗とのより高濃度の関係を望むという変化も生んでいます。広い行動範囲から薄く情報を集めるような行動が望ましくないためです。その時にそのようなメッセージで心が動くでしょうか? 顧客は美容サービス業の店舗に、時に悩みを解決しに、時により美しくなるために行く訳ですから、その個人にフォーカスした、以下のようなメッセージが効果的ではないでしょうか。

  • 前回の施術から2ヶ月経っていますが、あなたの髪質の場合、来週くらいにもう一度薄めにカラーを入れると、強い日差しの下でも良い髪色が維持できますよ。
  • あなたが気にしていた下腹部の脂肪に効く施術を発売しました。効果が出るまでに2週間くらい必要ですので、来週くらいにご来店いただくと、夏に行くと伺った沖縄旅行に間に合いますよ!

これらの下地になるのは、お客様へのヒアリングやカウンセリングという接客の基本の徹底です。ツールではなく、接客の仕方の変革がDXのトリガーを引くのです。その上で、カルテサービスやPOSレジの顧客管理機能に記録し、メール配信サービス等で心理的ニーズのセグメントを考慮した配信を行えば、そのリアクションを案件として管理できるようになります。メール配信サービスは安いものだと月額1万円未満でも利用できますし、お知り合いにJavaScript や VBAが書けるエンジニアがいれば、gmail や Outlookなどのメールクライアントソフトをカスタマイズしても十分に使えます。

また、リピート率を高めるためには、失客管理も重要です。これは失客したときのメニューと来店回数によるリピート率を分析し、失客原因を明らかにすることを目的とした案件管理です。この失客管理もツールがあることによってできるようになるのではありません。大切なことは、「目の前のお客様を大切にする」という企業文化や経営者の描くビジョンであり、コロナ禍で商圏が狭くなったという経営環境の変化をどう認識し活かすかということだと思います。その上で、どういうニーズのお客様に、いつ、誰が、何のサービスを、いくらで、いくつ販売したのか、という情報が価値を持つようになります。

顧客管理とサービス開発管理のDX

美容サービス業では、新しい商品やサービスが次々に発売されます。競合店にない全く新しいものを導入することもあるでしょうが、戦略的に特定の顧客を意識した商品・サービスの提供など、確実性が高いものから着手することが多いと思います。

※難易度の高さと、収益性や成功率の高さには相関性はありません。

この表はアンゾフのマトリクスを読み下したものですが、難易度の低い戦略の共通点は、”顧客管理を下地としたサービス開発”であることが読み取れます。つまり商品やサービスを、”技術サービス”、”物販商品” などの一般的なプロダクト軸の属性だけで管理するのではなく、”くせ毛”、”痩身”、”ウェディング” などの顧客ニーズに対応させたマーケット軸での管理が必要になります。そして、その開発期限や予算の進捗を管理しながら進めることがサービス開発管理のDXだと思います。

実務の現場では、仮にPOSレジを使っているお店であっても、これらの情報の活用がまったくできていないケースが多く、結果的にニーズの乏しい新サービスの開発に過剰なリソース(時間やお金)が割かれているようなこともあります。効果の低い設備投資がされることもよくあります。案件管理と同様に、これらの下地になるのは、「どういったことでお困りですか?」「どういうご希望がありますか?」というお客様へのヒアリングやカウンセリングという接客の基本の徹底です。接客の仕方を変えて、ツールを変える、という順序で検討してはいかがでしょうか。

まとめ

美容サービス業はどこまで行ってもヒトがヒトにサービスを提供するビジネスです。ただ、そのヒトの関わり合い方がコロナ禍で大きく変化した以上、経営管理もそれを前提としたものに変化すべきでないでしょうか。そんな変化の前提は顧客管理であり、そこから派生した案件管理とサービス開発管理がキーになってくるのではないかと思います。

ABOUT執筆者紹介

小泉直哉

株式会社ミッドランドITソリューション 取締役
一般社団法人 日本業務効率・情報安全研究機構 執行役員

士業事務所のデジタル・トランスフォーメーション(DX)について、事務所個別の最適化だけでなく、全ての事務所が使える理論体系への整理とその活用のための手法を研究・実践している。セキュリティや経理業務の領域等では特許等も複数有している。

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