子どもと話したいお金と税金のはなし[第3回]:身近な税金 消費税。もし税率が違ったらどちらを選ぶ?
おんすけと学ぶ税務情報
大人になるために避けてとおれない、けれど難しいお金や税金のこと。本コラムでは、経営者や経理担当者のみなさんが子どもとお話をするきっかけになるように、身近な事例を取り上げて解説します。
最近、インボイス制度で注目されている消費税。第3回では、みなさんの生活に身近な消費税の歴史をふりかえりながら、税金のあり方について考えてみましょう。
生活に身近な税金:消費税
「税金にはどういった種類のものがありますか?」
このような質問のこたえとして、真っ先にあがるのが消費税です。
わたしたちは、コンビニで買い物をしたり、レストランで食事をしたりしたとき、その代金の支払いを通じて「消費税」を負担しています。消費税は、大人も子どもも、みんなが広く負担している税金なのです。
下図は、国税庁から公表されている税収の内訳です(令和3年度)。所得税や法人税を上回る最も高い税収割合(32.7%)を占める消費税は、国にとって重要な税であることがわかります。
みんなが広く負担する消費税は、景気に左右されやすい所得税や法人税などと比べて安定的な財源といえます。この国の歳入構造の安定化にこそ、消費税の主要な目的があるといえるのです。
(図表1)税収内訳(令和3年度)
もし消費税の税率が違ったらどちらを選ぶ?
さて、ここでみなさんにもう一つ質問です。
もし同じような用途につかうもの(代替がきくもの)の消費税率が異なるとしたら、あなたはどちらを選びますか?たとえば、以下のような例を考えてみてください。
- 同じような用途に使うものの一方に税金がかかり、もう一方は税金がかからない場合
たとえば、鉛筆に税金がかかり、シャープペンシルには税金がかからない - 同じような用途に使うものの一方の税率が高く、もう一方の税率が低い場合
たとえば、バターの税率が10%で、マーガリンの税率が8%
租税は中立でなければならない
「租税は中立性が担保されなければならない」といわれます。
「中立(neutrality)」であるとは、「経済に対して中立」であるということです。みなさんが選択や意思決定をするときに、税金がその選択や意思決定に対して、できるだけ歪みを生じさせないようにすべきという考え方です。
前述の例でいうと、税金がかからないシャープペンシルを選ぶ人が多いのではないでしょうか。バターとマーガリンのように税率が異なる場合は、マーガリンを選ぶ人が多いかもしれません。このように、代替の関係にあるものについて両者の税率が異なる場合には、税率が低い方を選ぶ人が多いことが予想されます。
税金のルールを決めるうえでは、このような歪みをできるだけなくす必要があります。これが租税における中立性の要請です。
特に、みんなが広く負担する消費税のような税金については、税金の影響によって消費者の行動が特定の選択や産業にかたよることがないようにしなければなりません。
中立性の要請は消費税と同時期に
実は、この租税の中立性は、消費税の採用と同時期に(1988年)、租税の基本理念として掲げられたものでした。
税負担の公平の確保、税制の経済に対する中立性の保持、税制の簡素化という「公平・中立・簡素」の3つは、戦後、時代の要請を受けて整理されてきた「租税の3原則」といわれています。
「租税の3原則」は、以下のように説明されています。
租税の3原則
社会の構成員として、税を広く公平に分かち合っていくため、「公平・中立・簡素」を原則とした税の制度としています。
公平の原則
経済力が同等の人に等しい負担を求める「水平的公平」と経済力のある人により大きな負担を求める「垂直的公平」があります。近年は、「世代間の公平」が重要となっています。
中立の原則
税制が個人や企業の経済活動における選択を歪めないようにします。
簡素の原則
税制の仕組みをできるだけ簡素にし、理解しやすいものにします。
消費税の軽減税率とインボイス制度
2019年10月からは、消費税が8%から10%に増税されていますが、その際、一部の品目については「軽減税率」が導入されています。
消費税の税率が単一の税率から8%と10%の2本立て(複数の税率)になったわけですが、この税率が複数存在していることが、最近話題になっているインボイス制度導入のきっかけになりました。
インボイス(適格請求書)は、複数税率のもとで、取引にどれだけの消費税がかかっているのか、売り手・買い手の誰がみても正確に把握できるしくみとして設けられたのです。
(図表2)軽減税率制度の対象品目
さて、先ほどの質問に話を戻しましょう。
軽減税率制度のもとでは、たとえば以下のように同じようなものでも税率が異なることがあります。一見すると消費者の選択や行動に影響しそうですが、これを「租税の3原則」からみた場合、中立性に反するといえるのでしょうか。
- コンビニで買う飲食料品は税率8%、コンビニのイートインコーナーで食べたら税率10%
- 定期購読の新聞は税率8%、コンビニで買う新聞は税率10%
また、海外に目を向けると、芸術・文化活動への配慮のために、映画館や美術館の入場料について軽減税率を適用する国もあるようです。どれを軽減税率の対象するのかについて、争いや利権などは生じないのでしょうか。
さらに、軽減税率は消費税増税に伴う低所得者対策と説明されることが多いのですが、消費者の負担を考慮するということであれば、生活必需品を非課税にするという方法も考えられます。そうしないのはなぜでしょうか。
このように、税金のあり方を考えるうえでは、さまざまな視点が求められます。時代背景や社会情勢の変化も影響するため、正解はひとつではないのかもしれませんね。
国の財源としても重要で、みなさんの生活に身近な消費税をきっかけに、税金のしくみやあり方について、さまざまな角度から考えてみてはいかがでしょうか。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。