知っていますか?買換特例の恐ろしい改正
税務ニュース
買換特例の意義
税務上、買換特例という特例があります。この特例は、会社の所有する不動産などを売却し、その売却金額で新しい不動産などを購入するような一定の要件を満たす買換えを行った場合に認められる特例です。このようなケースで、売却した資産(譲渡資産)について税金をかけると、買い換える新しい資産(買換資産)を取得することが難しくなるため、税負担を先延ばしにできるようこの特例が設けられています。
その反面、この特例は非常に怖い制度でもあります。なぜなら、節税額が非常に高額になるだけでなく、要件が非常に複雑だからです。この点、専門家である税理士も同様で、適用を誤ると即損害賠償請求に繋がるため、買換特例に対しては神経を使います。
期中届出制度の創設
更に困ったことに、この買換特例について、令和6年4月1日から非常に大きな改正が実現しています。それは、期中届出制度の導入です。
具体的には、買換特例を予定している場合、その対象になる譲渡資産を譲渡した後、その譲渡をした4半期ごとに、その末日から2か月以内に税務署に買い換える予定の買換資産などについて届出をする必要があるとされたのです。
ケアレスミスのリスク
この制度が怖い理由は大きく3つあります。一つは、届出をしなければアウト、という非常に単純明快な基準で適用が否認されるリスクがあることです。
次に、期中に届け出るという仕組みが、税務ではイレギュラーであることです。税務の手続としては、事業年度がスタートする前に届出書を提出したり、事業年度終了後の申告期限までに申告書を提出したりするなど、年度開始前や終了後の処理が多く、期中処理は多くありません。このため、税理士や経理担当者など、税務に詳しければ詳しいほど、この期中届出を失念してしまう可能性があります。
とりわけ、税理士に税務を委託している会社は要注意です。税務の手続の流れは上記の通りですから、税理士は決算日前後や申告期限あたりで顧客と打ち合わせを行い、期中はあまり接触しないことが通例です。実際、その決算日前後の打ち合わせで、会社が期中に税務上問題になる処理を行っていたことを税理士が把握する、という事態も散見されます。このため、買換を予定しているのであれば、皆様方から税理士に連絡する必要があります。
計画的な買換えの必要性
最後に、買換えのための特例と言いながら、買換資産を決めてから売る、という処理は現状多くないことです。買換特例は、たまたま不動産が高額で売れたため、節税するために買換資産を探して使う、というケースがほとんどでした。つまり、節税のために後付けで買換特例が適用されていた訳です。
買換特例は買換をサポートするための特例ですから、買換資産は予め決めておくべき、という趣旨で期中届出制度が設けられています。このため、買換資産を決めずに譲渡資産を譲渡してしまうと、買換資産が見つからず期中届出ができない、といった事態が生じる可能性があります。このため、買換特例は計画的に適用する必要があり、従来とは実務が大きく変わることになります。
この点、「特別勘定」という買換特例の特例を適用する場合も問題になります。特別勘定とは、買換資産の取得が遅くなる場合、所定の届出を行うことで取得期限を延長できるというものですが、この届出には取得を予定している資産を記入する必要があるとされています。
この取得予定資産の記載ですが、「予定」という点で従来はかなりざっくりとした内容でも問題にされることはなかったと思われます。しかし、期中届出制度ができたことにより、今後は特別勘定を使う場合も取得予定資産についてかなり具体的に計画しておくべきとされ、記載内容について厳しく税務署から審査される可能性があります。
計画段階から連絡を
ちょっとしたケアレスミスが命取りになり、かつ緻密な計画を要請するのがこの期中届出制度です。高額な不動産などの売却を予定している場合には、実際に売却する前の計画のタイミングで、顧問税理士などに相談するようにして下さい。
ABOUT執筆者紹介
元国税調査官・税理士 松嶋洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。