18 November

ペーパーカンパニーを利用して不正を行うB勘屋と反面調査

掲載日:2024年11月18日   
税務ニュース

元国税職員さんきゅう倉田です。無人島に何かひとつ持っていくとしたら「帳簿」です。

売上の除外、架空経費の計上。

納税額を減らすような不正はこの二つに大別出来ます。売上の一部を帳簿に記載し忘れてしまうミスは誰にでも起こる可能性があります。だからそのミスが起こらないような仕組みを作り、確認を繰り返します。

「うっかり」を装って売上を除外する人もいますが、それが意図したものなのか客観的な判断が容易でないことは不正の誘引になっていると考えられます。

一方で、経費をゼロから生み出す架空経費の計上は、確実な意図があるという点で、売上除外と一線を画すと言えます。

架空経費の計上、その方法とは

何もないところから唐突に経費を帳簿に記載するような不正は聞いたことがありません。金額が書かれていない領収証に恣意的な記入をしたり、正規の領収証に数字を書き加えたりするような不正は存在するようです。

友達から領収証をもらったり、スーパーのレシート入れからレシートを拝借したりするような人間もいるようです。

仕事と関係ない支払いなのに「領収証ください。宛名は株式会社 凸凹商事で」などとレジで依頼する人もいます。

このような個人で実施できる不正もありますが、不正な取引を提案する業者も存在します。それがB勘屋です。

B勘屋とは架空の経費を計上するための領収証を用意する業者を指します。ぼくが国税職員だった頃は、噂でしか聞いたことがなく、どのような人々なのか想像もできませんでした。

しかし、最近になってB勘屋に税務調査が入ったという話を聞きました。あの幻のような存在に国税職員が接触したと聞いて、胸が躍ります。

無申告のB勘屋と利用客

ある日、大阪で事務所を営む税理士さんのところに、ひとりの納税者がやってきました。その納税者は、「反面調査を受けているんです」と言います。

反面調査とは、税務調査が行われた際に、その対象者の取引先に取引内容などを確認するために行われる調査です。

一般の税務調査は予約して、日程を調整して行われますが、反面調査は予告なく突然行われます。
日中に国税職員がやってきて、話を聞き、資料を見ます。対応しても、誤りを指摘されたり怒られたりはしません。

今回の納税者は具体的な取引の内容について聞かれました。
「株式会社 ◯◯に支払っているコンサル料の500万円について教えてください」

この株式会社がB勘屋で、コンサル料とは名ばかりであることを国税職員は見抜いている。そう思った納税者は正直に話すことにしました。

その後、その日の出来事を顧問税理士に打ち明けると、契約解除を言い渡されます。

納税者は、B勘屋に500万円を支払って法人の損金とし、手数料を引いた400万円を個人口座で受け取っていました。こうすれば法人の納税額は減ります。一方で、役員給与として受け取った場合と異なり、所得税はかかりません。
まごうことなき不正です。

B勘屋は、領収証を発行するような伝統的な方法ではなく、ペーパーカンパニーを利用した方法で、顧客から金銭を受け取っていました。顧客が新たな顧客を呼び、利用者はどんどん増えていきます。納税者も知人に紹介され、B勘屋と知り合いました。

この知人も同時期に反面調査を受けていたそうです。
次に税務調査を受けるのは自分たちかもしれない。納税者は焦っていました。

反面調査にやってきた国税職員が、“資料調査課”の所属だったことも恐怖の一因でした。
経営者仲間の間では、恐怖の象徴として君臨し、大規模な不正があるところに料調ありと謳われ、来たら終わり、絶望の配達人として畏怖される。
その料調がまさか自分のところにやってくるなんて。

反面調査では、実際にどのような取引が行われていたか確認し、B勘屋の不正の認定や所得の把握が行われたと考えられます。

B勘屋が使っていた銀行口座はすでに把握されているはずなので、たとえ帳簿が存在しなくとも売上の把握は容易でしょう。

金額が大きければ、料調から査察部に引き継いで、脱税で告発されるかもしれません。
反面調査ののち、数ヶ月経っても日常に変化がないため、「自分は大丈夫だったのだ」と納税者は安心するかもしれません。

もちろん、大丈夫などということはなく、税務調査は行われます。他の不正も見つかるでしょう。通常は5年の税務調査で、7年遡及されるかもしれません。

どうしてそのようなリスクを計算せず、不正に手を染めたのでしょうか。

負の期待値を計算しないから

法人の税務調査の確率は1/20と聞いたことがあります。しかし、今回のような不正に手を染めれば100%調査があると思います。

B勘屋の顧客が100社だとします。
調査が行われない確率は19/20です。100社すべてに調査が行われない確率は(19/20)の100乗です。この値を1から引くと、100社のうち1社以上に税務調査が行われる確率が分かります。計算すると99.4%です。

税務調査があれば、B勘屋へ支払った怪しいコンサル料は追及されるでしょう。やがてB勘屋に対しても調査が行われ、B勘屋の持つ顧客リストないしは取引記録から、不正を行った者が洗い出されます。
そうなれば、必ず調査を受けることになります。

つまり、通常であれば確率は1/20なのに、ほぼ100%になってしまう。手数料を払って不正をしたのに、それも意味をなさない。

重加算税や延滞税も払わなければならないし、不安で眠れない夜もあるでしょう。税理士さんも見つかりません。

すべては負の期待値を計算しなかった結果です。100%悪いことが起こるのに、後日払う金額は当初に得した金額より多いのに、不正に手を染めてしまう。

脱税がうまくいっている人の話は聞いたことがありません。事業で多くのリスクを取って成功したとしても、納税でリスクを取るなら賢い経営者とは言えないでしょう。

ABOUT執筆者紹介

さんきゅう倉田

吉本興業

大学卒業後、東京国税局に入局。法人の税務調査などを行った後、吉本興業で芸人となる。著書に『お金の貯め方増やし方』(東洋経済新報社)などがある。

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