01 September

どうする?クリエイターの確定申告[第1回]:どうする?印税

掲載日:2025年09月01日   
税務ニュース

数字が苦手なクリエイターも、ITに強いクリエイターも、等しく・毎年行わなければならないのが確定申告。

青色申告には帳簿付けが必要?経費になるのならないの?天引きされる源泉所得税の取扱いは?インボイス制度に登録したけど申告はどうする?
本コラムでは、クリエイターにとって悩ましい「どうする確定申告」のトピックをやさしく解説します。

印税とは?

みなさんは「印税」という言葉を知っていますか?

「印税生活」という言葉があるように、漫画家やミュージシャンといったクリエイターの主要な収入源としてイメージする人も多いかもしれません。
第1回では、印税と税金の関係について解説します。

クリエイターの多様な収入源

クリエイティブな活動が多様性を有するように、クリエイターの収入源も多様です。
クリエイターの収入源としては、たとえば以下のようなものが挙げられます。

  • 漫画または小説などの原稿料
  • 動画、映像、またはイラストなどの制作料
  • 出演料、講演料、演奏料など
  • 同人誌やグッズの販売収入(イベントやWebサイトなどで販売)
  • ハンドメイド作品の委託販売
  • 投げ銭やパトロンサイト(pixivファンボックスなど)の収入
  • 印税

クリエイターの収入源は、①原稿料や制作料などのように依頼を受けた制作物やサービスの対価としてもらうもの、②グッズ販売などのように前もって制作した制作物を不特定多数の人に販売するもの、③投げ銭などのようにファンからの応援や支援に起因して生じるものというように、いくつかのカテゴリーに分類することができます。

これらの収入源は、それぞれ異なる特徴をもっているため、会計処理の方法やあてはまる税金のルールが異なる場合があります。

さて、これらのカテゴリーと少し性格が異なるものとして位置付けることができるのが印税という収入源です。印税について、原稿料と比較して整理してみましょう。

印税と原稿料の違い

印税は、制作活動に関連して支払われる報酬という意味で原稿料と似ていますが、その性格や計算方法が異なります。また、印税は、「税」の文字がつくため税金と何らかの関連のあると思われがちですが、税金とは異なるものです。

まず、原稿料とは、執筆などの制作活動の対価として、制作活動ごとに一度だけ作家などの著作権者に支払われるものです。そのため、制作物が転用された場合には、その著作権者に対して新たに原稿料または再使用料の支払いが必要です。

原稿料は、原稿1枚または1編の単価で計算されます。たとえば、400字詰め原稿用紙1枚あたりの税込単価が5,500円で10枚の原稿を依頼した場合には、原稿料は税込55,000円と計算されることとなります。

これに対して印税とは、著作物を複製して販売する出版社やレコード会社などが、発行部数や販売部数に応じて、作家やアーティストなどの著作権者に支払う著作権使用料の通称です。

たとえば、出版社から本を出版する場合、原稿の著作権は著者に、原稿の出版権は出版社に帰属します。そのため、出版社が著者の原稿を本として出版する場合には、著者に帰属する著作権に対する使用許可が必要になり、その著作使用の対価として印税(著作権使用料)が支払われることとなります。

印税の支払方法にはさまざまな方法がありますが、一般的には、販売価格や発行高に基づく一定歩合(著作権者の取り分の割合を印税率といいます)を著作権者に支払うという契約(出版契約書など)を交わしたうえで支払いがおこなわれます。したがって、印税の性格は、出版社などと著作権者が著作物から生じる利益を分け合うというものといえるでしょう。発行部数などによらずに一度だけ著作権者に支払われる原稿料とは、この点が異なるのです。

印税は、たとえば本の場合、本の販売価格×部数(冊数)×印税率の三つの要素で計算されます。

このうち部数については、刷り部数(出版社が本を刷った分)で計算する場合(刷り部数印税)や、発行部数(定められた期間に本が売れた分)で計算する場合(発行部数印税)などがあります。

また、印税率は初版部数や期待値などによっても異なりますが、たとえば本の場合、一般書は10%、児童書が8%という印税率が一般的です。児童書が一般書に比べて印税率が低いのは、児童書は一般書に比べて挿絵の占める割合が大きいためです。

なお、電子書籍の場合には、部数の代わりにダウンロード数などを用いて印税を計算します。また、電子書籍は印刷代や紙代といったコストがかからないため、紙の書籍と比べて印税率が高い傾向があります。

ところで、なぜ著作権使用料が「印税」と呼ばれているのでしょうか?

それは、日本で西洋の出版方式が取り入れられた際に採用された著作権使用料の計算方法が、当時の税金の計算方法に似ていたためといわれています。本を発行する際、著者が各ページの隅に著者検印という印をつけて販売数を管理し、その検印の数に基づいて著作権使用料を計算していました。この方法が当時の徴税方式とそっくりだったのです。

印税は源泉徴収の対象

このように、本の原稿料や印税は、それぞれの計算方法に基づいて算出されますが、算出された金額すべてが著作権者の収入となるわけではありません。漫画家やイラストレーターなどのクリエイターのみなさんは、「当初予定していた原稿料などの金額より少ない金額が銀行口座に振り込まれていた」という経験があるのではないでしょうか?

予定していたより手取り額が減ってしまうのは、源泉徴収されているためです。原稿料や印税については、原稿料や印税が支払われるタイミングで、報酬額の額面から約1割が源泉所得税として天引きされ、残った約9割が手取りとして銀行口座に振り込まれます。この税金のしくみを源泉徴収といいます。

源泉徴収のしくみでは、クリエイターのみなさんが確定申告を通じて国に納めるべき所得税を、報酬を支払う側の出版社などがあらかじめ源泉所得税として天引きし、みなさんの代わりに国に納めています。

温泉が湧き出てくる場所を「源泉」というように、税金のしくみでは報酬が発生した時点を「源泉」と捉え、税金を国が「先取り」しているわけです。

源泉所得税の税率は基本的には10.21%です。ただし、同一人に対して1回あたりの支払額が100万円を超える場合は、その100万円を超える部分については20.42%になります。たとえば支払額が150万円の場合は、20万4,200円が源泉所得税です(50万円 × 20.42% + 100万円 × 10.21%)。

このように、原稿料などの報酬が発生した時点で報酬を支払った出版社などが、クリエイターのみなさんの代わりに報酬の1割程度の金額を仮払いとして納税しているわけですが、最終的にみなさんの税金がいくらになるかは、1年間の所得(もうけ)を集計してみないとわかりません。

そのため、もし本来納めるべき税金よりも多く源泉所得税が天引きされていたら、みなさんは損をしてしまうことになります。この先取りされた税金を精算するのが確定申告の手続きです。

確定申告は多くのクリエイターにとって面倒なものかもしれませんが、多く払いすぎた税金を取り戻すチャンスでもあるのです。

副業クリエイターは雑所得で申告

原稿料や印税については、個人事業主として活動しているクリエイターの場合は事業所得、副業クリエイターの場合であれば雑所得として確定申告を行います。原稿、イラスト、作曲、デザインなどの副業は、その業務の規模内容などから雑所得に該当するとの見解が国税庁から示されています。

参照:所得税基本通達35-2(事業から生じたと認められない所得で雑所得に該当するもの)

ただし、1ヵ所の勤め先から給与を得ていて、勤め先で年末調整もしている、なおかつ副業で漫画を描いて収入を得ている、というような副業クリエイターの場合には、給与所得以外の副業所得の年間合計金額が20万円以下であれば、基本的に所得税の確定申告は不要です。この場合、副業所得の年間合計金額が20万円以下かどうかは、「副業収入マイナス必要経費」の金額で判定します。打ち合わせのためのカフェ代や制作のために購入した資料の代金などが、必要経費として計上できます。

なお、勤め先で年末調整を行わない人(給料が2,000万円を超えるなどで年末調整の対象外の人や個人事業主など)や、ふるさと納税や医療費控除などで確定申告をする人は、副業所得の合計金額が20万円以下であっても、その副業所得をきちんと申告書に記載したうえで確定申告をしなければなりません。

この理由は、この20万円以下申告不要ルールの位置付けにあります。

年末調整だけで完結するサラリーマン(給与所得者)における少額の雑所得についての申告は、税務署の事務処理などの都合で、「本来なら申告は必要だけれども、あえて不要」としているにすぎません。この点、「20万円まで非課税」と誤解している人も多いため、注意が必要です。

また、所得税の確定申告が不要な場合でも、別途、住民税の申告が必要な点にも注意しましょう。

(免責事項)本コラムの内容は、投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令等に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように、原則的な取扱いを簡略化して説明しています。本コラムの情報に基づいて実務や判断を行う場合には、専門家・税務署に相談、または十分に内容を検討のうえ実行してください。本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。なお、当事務所では本コラムに関する個別のご質問は受け付けておりません。予めご了承ください。
ABOUT執筆者紹介

税理士 武田紀仁(たけだのりと)

たけだ税理士事務所 所長税理士
東北工業大学 ライフデザイン学部 経営デザイン学科 准教授

クリエイターや文化芸術団体支援のための税理士事務所を設立し、会計・税務・経営に関するアドバイザリーサービスを行う(たけだ税理士事務所)。大学では、財務会計論、簿記論、租税法実務などを担当。研究では、主に非営利組織体の会計・税務・情報開示に関する実証的な研究に取り組んでいる。

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