電子申告の義務化に向き合う
税務ニュース
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経理システムの電子化のすすめ
みなさんの会社では、経理をどのように進めているでしょうか?
経理担当者の社員さんは、会社に何人いるでしょうか?
きちんと毎日記帳しているでしょうか?
会計ソフトを利用して経理処理を行っている会社が、多くなっています。経営資源が限られている中小企業では、経理担当者ひとりないしは他の業務と兼務というパターンが少なくなく、経理処理については効率的に行いたいと考えている経営者が多いと思います。経理システムの電子化という課題に最初に取り組むべきことは、会計ソフトの導入です。今まで紙ベースで起こしていた伝票なども会計ソフトの導入にともなって段階的に廃止していくと、業務の効率化が図れます。さらには、銀行口座・クレジットカードからのデータ連携、ほかの業務系システムとのデータ連携などをすることで、経理作業の時間を大幅に短縮できるようになりました。電子帳簿保存をあらかじめ所轄の税務署長に届け出ることによって、紙での会計帳簿の保存が不要となり、電子データのみの保存が可能になるなど、会計の電子化を進めることで業務効率化が実現することができる時代なのです。
電子申告の義務化の流れ
経理処理を電子化することによって、業務の効率化を図る動きは民間企業であれば当然取り組むべき課題ですので、自然と普及しつつあります。しかし、電子化の流れは経理処理だけに限りません。税務申告についても、電子化の流れが急速に進みつつあります。それを象徴する税制改正の一つが、個人所得税の確定申告における青色申告控除の金額についてです。事業所得、不動産所得などの所得金額を計算する際に、正規の簿記の原則により帳簿を作成した場合、65万円または10万円の青色申告特別控除が認められています。しかし、平成30年(2018年)度の税制改正で、2020年分以後の個人の青色申告では、55万円または10万円が基本となりました。つまり、現在65万円の控除金額が10万円引き下げられたのです。ただし、一定の要件を満たしたときには、現在と同額の65万円の控除が受けられます。
その要件とは次のいずれかです。
(1)電磁的記録の備付けおよび保存をしている場合
その年分の事業にかかる仕訳帳および総勘定元帳について、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律に定めるところにより電磁的記録の備付けおよび保存を行っていること。
(2)e-Taxにより電子申告をしている場合
その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表および損益計算書等の提出を、その提出期限までに電子情報処理組織(e-Tax)を使用して行うこと。
同じ、青色申告で申告をしても、紙で帳簿を作成し保存している、または紙で申告する場合と電子で申告する場合では10万円の控除額の差が出ることになります。当然、電子帳簿を備え付け、または電子申告を行った方が税金的には有利になります。
法人の申告に目を移してみると、大法人の申告についても税制改正がありました。すなわち、大法人については、電子申告が義務化されることになったのです。具体的には、2020年4月1日以後開始する事業年度(課税期間)から適用されることとなります。また、対象となる法人は次のとおりです。
【1】法人税及び地方法人税の場合
内国法人のうち、
- 事業年度開始の時において資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人
- 相互会社、投資法人及び特定目的会社
【2】消費税及び地方消費税の場合
【1】に掲げる法人に加え、国及び地方公共団体
(注) 地方税の法人住民税及び法人事業税についても電子申告が義務化されます。
資本金1億円以上の大法人に対する電子申告の義務化は、単に義務が課されるだけで、個人申告のようになんらかの税務上のメリットがあるわけではありません。“電子申告はもはや当たり前”という思想が透けて見えます。これら一連の税制改正の流れは、中小企業にとっても他人事ではありません。時代の流れが電子化になっていることに、抗うことはできないのです。
しかし、これらの流れを否定的に捉える必要もありません。生産性の向上が喫緊の課題と言われる昨今。生産性とは時間当たりの成果の増加をいいます。帳簿作成に代表される経理業務から申告業務については、その企業の成果とは直接関係のない間接業務です。重要なことは、その業務を行うこと自体ではなく、その業務の成果物である帳簿や申告書の“質”なのです。それら業務時間の短縮は、最終的には生産性の向上に結び付くものと考えられます。そのため、中小企業においてもこれら電子化に取り組むことが望まれるのです。
税理士 出口 秀樹 出口秀樹税理士事務所 会社の整理・清算・再生手続きのすべて 再建、廃業、事業承継……、あらゆる会社の終局に必要となる「会計」「法務」「税務」「労務」の知識を網羅。ABOUT執筆者紹介
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