ユーザー目線を忘れない!「売れる」新商品の価格の決め方(応用編)
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新しい商品を売り出すとき、価格をどうやって決めていますか?
このコラムでは、基本編と応用編の2回にわたって価格の決め方を解説しています。
前回の基本編では、市場に受け入れられる、つまり「売れる」価格設定の進め方をご紹介しました。今回は応用編として、価格設定において知っておきたいことを2つ取り上げます。
知っておきたいこと1:価格は随時見直すもの
価格は「一度設定したら変えられない」というものではありません。「価格は随時、柔軟に見直すもの」という認識を持っておきましょう。価格を見直すきっかけになり得ることとして、次の2つが挙げられます。
② 自社商品の原価の動向
この2つのことは、毎月のルーチン業務に組み込むなどして、その商品を扱っている限りずっとチェックし続けたいものです。
<価格を見直すきっかけになること①:類似商品の動向(価格と機能)>
類似商品の価格動向は常にチェックしましょう。例えば、後発の会社が安くて良いものを発売したことなどをきっかけに、低価格競争が起きることがあります。また、ある商品の値下げに各社が追随することがあります。そのような動きに取り残されると、たちまち売れ行きに影響します。類似商品が軒並み値下げをしたら、我が社もできるだけスピーディーに対応を検討しなければなりません。
価格動向だけでなく、類似商品の機能や品質の動向も常にチェックする必要があります。類似商品の機能や品質が向上したら、たとえ価格に変化がなくても我が社の商品は相対的に割高になってしまいます。新しい技術が取り入れられたり、流行の機能が取り入れられたり、操作性に優れたインターフェースが取り入れられたり、デザイン性の高い商品が開発されたり・・・。世の中の商品は日々進化するものです。
前回の基本編で取り上げた価格設定のステップ②では、新商品の価格設定をするときに「我が社の新商品が、すでに世の中に出回っている類似商品の機能(品質)を上回るのか下回るのか」を確認することを解説しました。一度確認したらそれで終わりではありません。各社はたえず機能・品質の向上に取り組み続けますから、その商品を扱う限りはずっと、状況が変わっていないかチェックし続ける必要があるのです。
<価格を見直すきっかけになること②:原価の動向>
原価とは、商品の仕入れや製造にかかるコストのことです。輸送費や加工費も含みます。原価が増大していないか、定期的にチェックしましょう。例えば最近では、新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などの影響を受けて原油価格が高騰し、エネルギー価格や輸入品の輸送コストが上昇しました。これがあらゆる業界に影響して仕入れや製造、輸送のコストを押し上げました。そうしてあらゆるものの物価が上がったことは記憶に新しいところです。原価はこういった世界情勢の動きなどによって悪化することが起こり得ます。そのような兆しが見えたら、早急に価格改定を視野に入れて対応を検討するべきです。原価が増大しているのに何の対応も講じなかったら、程度によっては「売れば売るほど赤字を垂れ流す」ということにもなりかねません。原価が許容範囲を超えたら、価格を見直す、コストを絞る、その商品の取り扱いを中止する、などの対応が必要です。
前回の基本編で取り上げた価格設定のステップ③では、価格設定の最終確認として「その価格で販売しても赤字にならないか」「原価だけでなく固定費も考慮して儲けを確保できるか」を確認することを解説しました。仕入れ値や輸送コストは様々な要因で増減しますから、一度確認したらそれで終わりではなく、その商品を扱う限りはずっと、原価が変わっていないかチェックし続ける必要があるのです。
なお、原価の変化を理由に価格を上げた場合は、その価格の妥当性を、前回の基本編で取り上げた価格設定のステップ①と②に立ち戻って改めてチェックすることを忘れないようにしましょう。
知っておきたいこと2:必要な利益は、商品によって変わる
商品の価格は、どれくらいの利益を確保できれば良しとするべきでしょうか。仮に会社全体の原価率の目標が50%なら、すべての商品で50%の原価率となる価格設定をするべきでしょうか。
そうとは限りません。「利幅が薄くても良い商品」と「しっかり利益を確保しなければならない商品」を区別することもあります。
利幅を薄くしてもよい商品とはどのような商品でしょうか。例えば、自社の商品群の中で広告塔の役割を持つ商品があります。高価な「主力商品」に興味を持ってもらうための「入門商品」という位置づけの商品がある場合、その「入門商品」は多少利幅が薄い価格設定をしても良いでしょう。「入門商品」自体で利益を取れなくても、その後に「主力商品」の販売につながって、そこで利益を取れれば良いのです。
このように、価格設定における目標利益は、商品ごとに分けて設定することがあり得ます。自社の商品構成や販売戦略に応じて目標利益を設定しましょう。
なお、前回の基本編で取り上げた価格設定の3ステップでお伝えしたとおり、価格設定に取り組むとき最初にすべきことはその商品のコストを確認することではありません。価格設定にあたっては顧客像を明確にし、類似商品と比べることが先ですので、そのことを忘れないようにしましょう(コストの確認は、最終チェックとして行う)。
以上、このコラムでは前編と後編を通して、新商品の価格の決め方を解説しました。価格を決める際は、自社の都合だけを踏まえるのではなく、類似商品の動向や世の中の動きを敏感にとらえて、市場に受け入れられる価格設定をこころがけたいものです。ついコストと利幅ばかりに注目してしまいがちですが、「ユーザー目線を考える」というビジネスの基本姿勢を、価格設定のときにも忘れないようにしましょう。
ABOUT執筆者紹介
経営コンサルタント 古市今日子
株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士
外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件
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