13 October

「インボイス」と「税務調査」どこまでチェックする?

掲載日:2023年10月13日   
税務ニュース

インボイス制度の税務調査は?

令和5年10月1日からスタートしたインボイス制度ですが、未だその対応に苦慮していると思います。この制度は、国税庁に登録している課税事業者(適格請求書発行事業者)から交付される所定の要件を満たすインボイスがなければ、消費税の控除が原則として認められないというものですが、その要件である記載事項などが細かく法律に書かれています。このため、どこまで簡略化できるか、などといった点において、専門家である税理士からも多くの質問が寄せられています。

一方で、税務調査においては、インボイスの記載事項について、記載事項を細かくチェックするといったことを税務署は基本やらないようです。一例として、上様名義の領収書が挙げられます。法律上、所定の業者が発行するような場合を除き、上様名義の領収書はインボイスには該当しないとされています。しかし、上様名義の領収書であっても、消費税の控除を認めず課税する、といったことは原則として行われない模様です。

実際のところ、財務大臣がインボイスに係る国会答弁で、「税務調査は脱税などの不正発見のために行われるのが建前であり、細かい記載事項を細かくチェックするような税務調査をインボイス制度がスタートしても目的とはしない」といった趣旨の回答をしたと報道されています。それに止まらず、国税庁の幹部職員も、「インボイスの記載事項が不足していたとしても、他の書類なども確認するなどして柔軟な対応をするように考えている」といった答弁をした模様です。

以前の対応からみる原則

確かに、インボイス制度がスタートする前の税務署の対応を考えれば、インボイスの要件について税務調査で細かくみられるということは基本ないと考えられます。インボイス制度が導入される前、法律上、所定の事項が記載された請求書等を保存していなければ、納税者は消費税の控除が認められないとされていました。しかし、保存がないため消費税の控除を認めないといった指導を、税務署は原則行っていませんでした。

典型例として、クレジットカードの明細が挙げられます。これは、消費税の控除の要件となる請求書等には当たらないとされていました。このため、クレカ明細があっても、実際に店舗で交付されるレシートなどを保存しない限り、法律上消費税の控除は認められないのですが、それを税務署が問題にすることはまずありませんでした。

なぜなら、法律上要件を満たさないとしても、クレカ明細があれば経費を支払った事実関係は分かるからです。確実に経費を支払っているのに、税務署が認めないとなると流石に強硬的ですから、納税者に配慮してこのように取り扱っていた訳です。

なお、保存がないことが問題になった事例としては、請求書の名義が仮名であるような、不正取引を行った納税者や、経理書類を見せないなど、税務調査に協力しない納税者に対する税務調査がほとんどでした。このため、従来と同様、インボイス制度においても、不正がなく、かつ税務調査に最低限協力していれば、強硬的な対応を税務署はしないと考えます。

それに止まらず、国税調査官は、一枚一枚領収書や請求書を見るといった手間が大嫌いです。税務調査の時間は限られるため、少ない努力で多額の税金を取る必要があり、そうなると書類を逐一チェックする時間はないからです。それに止まらず、税務調査を頑張っても国税組織では評価されませんので、調査官はできるだけ手を抜きたいとも考えています。

基本的に問題はないが注意は必要

これらの事情を踏まえると、インボイスの税務調査対策としては、記載事項に神経質になりすぎず、最低限の記載をしているかに注意するとともに、経費を支払った事実を確実に疎明できれば、基本は問題ないと考えます。

ただし、「法律上インボイスの要件を満たさないため、本当は消費税の控除が認められない」ことを交渉材料にして、税務署に有利な譲歩を得ようとする税務調査が増える点には注意が必要です。万一、このような交渉がなされた場合には、本連載で解説しているノウハウを基に、毅然と交渉する必要があります。こういう意味においては、より税務調査の交渉が重要になる、と言えます。

ABOUT執筆者紹介

元国税調査官・税理士 松嶋洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

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