14 November

農業者必見!知っておくべき消費税インボイス制度開始後の疑問点!

掲載日:2023年11月14日   
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農業者必見!消費税インボイス制度開始後のポイント

2019 年 10 月の複数税率導入に次ぐ消費税の新しい制度(インボイス制度)が 2023 年 10 月ついにスタートした。インボイスを登録したとはいえ制度の内容についてさまざまな疑問を抱く農業者も少なくないのが現状である。そこでぜひ本稿を読んでさらなる知識を深めていただきたい。記事の記載にあたり国税庁の公表資料をもとにわかりやすく説明している部分は、著者の個人的な見解も含むことをあらかじめお断りする。

なぜ農業者と取引する消費税インボイス制度が重要なのか?

2023 年 10 月 1 日から消費税のインボイス制度が開始された。農林業センサスによると販売農家の約9割が売上 1,000 万円以下の免税事業者のため、いかにインパクトが大きいかがうかがえる。農業者の全てがインボイス登録しているわけではないので、未登録の免税事業者との取引には考慮が必要である。

農業者のインボイス制度が実務に与える影響

2019 年 10 月からの複数税率導入(標準税率 10%、軽減税率 8%)により農林水産業以外の事業者の場合、標準税率 10%が主体で消費税の計算がなされている。農業者の場合は、農産物の販売は軽減税率8%、種苗・肥料などの仕入れや農業機械・設備などの購入費は標準税率10%といったようにいずれの税率も大きな影響を受ける。インボイス制度開始により適用税率及び税率ごとに区分した消費税額が求められるため、今まで以上に正確な記載が必須だ。交付したインボイスに誤りが見受けられた場合、修正したインボイスの交付が新たに必要となるからだ。

インボイス発行事業者以外の者からの仕入れ

仕入れ(税抜経理) 

(株)ソリマチ食堂

年月日 摘要 借方 貸方
2023年11月1日 (株)林業 箸 20,000  
  (仮払消費税等) (2,000)  
2023年11月3日 (株)漁業 鮭 ※ 20,000  
  (仮払消費税等) (1,600)  
2023年11月5日 (株)農業 米 ※ 30,480  
  (仮払消費税等) (1,920)  
・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・

※は軽減税率対象

★は80%経過措置対象

上図が仕入れ(税抜経理)の帳簿記載例である。経過措置対象仕入れについてみていこう。
インボイス発行事業者以外の者からの仕入れについて、経過措置(80%控除)の対象となることを踏まえ、税抜経理においては、インボイス制度導入前の仮払消費税等の額の80%相当額を仮払消費税等の額とし、残額を仕入れ等の価額に算入して所得税や法人税の所得金額の計算をする。

期間 割合
2023年10月1日から2026年9月30日まで 仕入税額相当額の80%
2026年10月1日から2029年9月30日まで 仕入税額相当額の50%

具体的にインボイス導入前と後とを見比べてみよう。

インボイス制度導入前 インボイス制度後
税込対価の額:32,400円
本体価額:30,000円
仮払消費税: 2,400円
税込対価の額:32,400円
仕入れ:30,480円
仮払消費税: 1,920円

ここがポイント

インボイス導入前と後では税込対価の額は変わらないものの、仮払消費税の金額が2,400円×80%の1,920円となるため、全額計上できないので注意が必要だ。したがって差額を本体価額(仕入れ)に算入するのがポイントとなる。経過措置を適用する場合の帳簿の記載を確認していただきたい。

この経過措置の適用を受けるためには、上記の帳簿だけでなく請求書等の保存が必須だ。

請求書等

区分記載請求書等と同様の記載事項が必要となる(区分記載請求書等に記載すべき事項に係る電磁的記録を含む)。

具体的には、次の事項である。

① 書類の作成者の氏名又は名称
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額
⑤ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称

ここがポイント

適格請求書発行事業者以外の者から受領した請求書等の内容について、③かっこ書きの「資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨」及び④の「税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額」の記載がない場合に限り、受領者が自ら請求書等に追記して保存することが認められる。

なお、提供された請求書等に係る電磁的記録を整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面に追記して保存している場合も同様に認められる。経過措置により2つの項目のみが追記できるようになっているため注意が必要だ。

出張旅費等特例

従業員等に支給する出張旅費、宿泊費、日当等(出張旅費等という)のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、帳簿のみの保存による仕入税額控除が可能。出張旅費等に係る社内規程や基準の有無にかかわらず、また概算払いによるものか、実費精算によるものなのかにかかわらず、通常必要であると認められる部分は特例の対象となる。

ここがポイント

通常必要であると認められる部分の金額は、所得税基本通達9-3非課税とされる旅費の範囲の例により判定する(=所得税が非課税の範囲で特例の対象となる)。なお通常必要であると認められる部分の金額を超える部分は使用人等に対する給与として、仕入税額控除の対象外となる。

例えば農業法人の社内規程で、「1回の旅行当たり3,000円」とある一方、所得税非課税の範囲は10,000円と認められる場合に、8,000円支給したときは、8,000円が特例対象となる。また何らの規定もないが、社員が出張にかかった交通費10,000円を実費で請求してきて支払った場合は、 10,000円が通常必要と認められるのであれば特例対象となる。

ここがポイント

実費精算が用務先に直接支払っているものと同視しうる場合、通常必要と認められる範囲か否かに関わらず、インボイスの保存により仕入税額控除が可能。その場合3万円未満の公共交通機関など、他の特例の対象になるものであれば、帳簿のみの保存で仕入税額控除可能だ。

インボイス記載税額と帳簿の消費税等とに生じるズレ

売上げ(税抜経理)※軽減税率対象 税額は切り捨て 

農業愛子

年月日 摘要 借方 貸方
2023年11月2日 ポインセチア   1,289
  (仮受消費税等)   (128)
  新之助コメ ※   1,935
  (仮受消費税等)   (154)
  おけさ柿 ※   2,561
  (仮受消費税等)   (204)
2023年11月24日 ポインセチア   1,289
  (仮受消費税等)   (128)
  新之助コメ ※   1,935
  (仮受消費税等)   (154)

上記金額はわかりやすいように少額に設定している

インボイスの端数処理ルールにより帳簿の消費税額等の記載金額にズレが生じる場合を確認しよう。上図を見てスマホなどで計算を試みてほしい。

インボイスに記載すべき消費税額等の額は、1インボイス当たり税率ごとに1回の端数処理というルールがある一方、税抜経理を行った場合の仮受消費税額等の計上については、消費税法上、そのタイミングも、端数処理方法にも何らルールはないため、ズレが生じる可能性がある。

売上税額の積上げ計算をしている場合には、ズレが生じたとしても強いて調整する必要はないものの、割戻し計算をする場合には、調整を行う必要がある。

帳簿上では、標準税率税額256円、軽減対象税額512円、総額9,777円。
請求書では、標準税率税額258円、軽減対象税額514円、総額9,781円。

ここがポイント

割戻し計算をする場合は、仮受消費税等(10%対象)2円、仮受消費税等(8%対象)2円、ズレの4円を税率ごとに調整。課税期間における課税売上げに占める軽減税率と標準税率の比率で按分するなどの方法も合理的と認められる。

最後に

2023 年 10 月にインボイス制度が実際にスタートして新たな問題を抱え多数の相談が寄せられている。農林水産業者の免税事業者と取引される方は、経過措置の取扱いを確認していただきたい。また旅費規程及び帳簿と請求書の消費税金額のズレもあわせて今一度確認していただき、スマートな制度の理解を深め農業経営に役立てていかれたら幸いである。

ABOUT執筆者紹介

佐藤宏章

公認会計士/税理士
公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所 代表

秋田県農家出身(酪農・メロン・水稲)。東京農業大学農学部農学科卒業後、農業経営者に的確なアドバイスをと一念発起し、公認会計士資格取得。監査法人勤務を経て、「日本初の農業に特化した専門家」として独立開業。

農業経営者に会計・税務・経営をわかりやすく伝えることをモットーに、全国各地で活動中。企業・自治体・大学・税理士会等向けに講演、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「めざましテレビ」(フジテレビ)その他メディア出演も多数。かつてないスタイルで唯一無二の存在と信頼を集める。

日本初の農業に特化した専門家ホームページ

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