13 August

消費税にも関わる!土地と建物の譲渡対価の按分

掲載日:2024年08月13日   
税務ニュース

一括譲渡した土地と建物の区分

実務上、所有する不動産について、土地と建物を一括で譲渡することはよくありますが、その契約書に土地と建物の譲渡金額の内訳が明記されていない場合、税務上は適正に土地と建物の取得価額に区分する必要があるとされています。なぜなら、建物には消費税が課税される反面、土地には課税されませんし、購入する側からすれば建物の取得価額は減価償却という形で経費にすることができる反面、土地は経費にすることができないなど、土地と建物で税務処理が大きく異なるからです。

原則として固定資産税評価額で按分

税務上は時価課税の原則がありますので、このようなケースは、土地と建物の時価を算定した上で、その時価の比で按分するのが原則です。時価と言っても、不動産鑑定士が評価した金額や相続税評価額を割り返した金額などいろいろな時価が考えられます。しかし、この土地と建物の一括譲渡に関しては、過去の判例上は固定資産税評価額で按分するのが妥当とされるケースが多いです。

この理由は、固定資産税評価額は地方公共団体が公開するもので信頼性が高いだけでなく、同一の地方公共団体が公表するものですので算定根拠が同一で妥当性があるとされているからです。このため、契約書で土地と建物の内訳を明記しない場合には、固定資産税評価額で按分しておけば、原則として問題になりません。

契約書で明記されている場合の取扱い

一方で、契約書に土地と建物の内訳が明記されていれば、基本はその金額で区分します。ここで問題になるのは、契約書の建物の金額が、その時価に比して、非常に少ない場合が多く見られることです。

この理由は、建物の消費税課税です。消費税を節約するため、不動産を売る側は、建物の金額をできるだけ少なくし、その反面非課税である土地の金額を大きくする傾向があります。こうなると、消費税の節税につながりますが、税務署は従来、この点について問題視することはありませんでした。

なぜなら、売主が納めた消費税は、買主の消費税の計算で控除されるからです。売主が消費税を少なく納税すれば、買主の控除消費税が減り、両者を合わせれば消費税の節税にはならないと言えます。

実際、不動産の転売業者が仕入先と打ち合わせた上で、仕入時には建物の時価を反映した金額を契約書に明記して消費税の控除を計算し、そして売る時は建物の金額を時価より小さく明記し、消費税の納税額を減らして還付申告をすることもよく見られました。

近年厳しくなっている

しかし、近年、税務署はこのような処理に非常に厳しくなっています。消費税増税により還付金額が大きくなったことに加え、不正な消費税の還付申告が社会問題になったからと思われます。執筆時現在、この問題について最高裁で争われている事件があります。この事例において、税務署は契約書に書かれた建物の金額の算定が合理的ではないとして消費税を追徴課税しており、下級審ではこの税務署の処分が合法とされています。

なお、法律上、契約書に内訳金額が書かれてあれば、土地と建物の金額はその金額で問題ないとされている訳ではありません。正確には、土地と建物の金額が契約書で合理的に区分されている場合には、消費税の計算上、その金額で区分できると定められています。このため、税務署の処分がむしろ法律上は正しいのです。

実務の見直しが必要になるか

このため、私見ですが本件は最高裁でも税務署が勝訴すると考えています。仮に、最高裁で認められれば、実務の見直しが必要になるでしょう。こうなると、納税する消費税が大きく増える企業が多くなると思いますので、この裁判の動向はもちろん、国税庁のホームページの情報なども適宜確認する必要があります。

ABOUT執筆者紹介

元国税調査官・税理士 松嶋洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

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