中小企業こそグーグルの採用手法に学ぼう
社会保険ワンポイントコラム
人事労務コンサルタントとして、口酸っぱく「人材育成」の必要性を説く機会が多くなりました。「組織は人なり」とも言われますから、当然と言えば当然のことなのですが。しかし、よくよく考えたら、会社の仲間に加える段階、つまり「採用」の段階で人材をしっかり見極めることができていれば、それが一番効率的なわけです。従って、「採用」ほど重要なことはない、と言えるのではないでしょうか。しかしながら、前例踏襲で「採用」が通過儀礼となってしてしまっている会社が大半でしょう。わが社は「採用」に一切妥協してないと胸を張って言える会社は少ないと思います。これから述べるグーグルは、その数少ない稀有な会社の一つです。
ところで、アメリカ(カリフォルニア州)のシリコンバレーでは、「Aクラスの人材は、自分よりも優れた人材を求める。Bクラスの人材は、Cクラスの人材を求める」と言われているそうです。これは「一流の人材は、より優れた競争相手を求め、自己の成長を目指す。二流の人材は、自分のポジションを脅かされないために、自分より劣る人材を求める」ということだそうです。アマゾンを創業したジェフ・ベゾス氏も「誤った人間を雇うくらいなら、50人を面接したとしても1人も雇わないほうがましだ」と言っているくらいです。さもありなんでしょう。
このような余裕の対応は、天下の人気企業だからなせる技だろう。我々のような中小零細企業ではあり得ないよ、という声が聴こえて来そうです。しかし、冷静に考えたら、小規模な企業ほど、このことは肝に銘じておかねばならないことです。なぜなら、規模の大きい企業よりも一人当たりの比重が重いからです。少なくとも、人を採用するときには、ぜひこの話を思い出していただき、慎重な上にも慎重な選考を心掛けて欲しいと思います。
「グーグルでは人材の採用基準として名門大学卒は不要だ。大学での成績は何の役にも立たないし、価値もないと考えている。IQで判断するのももう古い。採用担当者は、名門大学だけでなく、あらゆる人に対してアンテナを張らなければならない。なぜなら、大学を出ていなくても成功する人はたくさんいる。こうした人材を探し出すため、企業は全力を尽くす必要がある・・・」
この一文は、もう随分前にForbes電子版に掲載されたグーグルの採用担当者のインタビュー記事です。本当にそうなのか、と思ったくらいですから、筆者にはかなり衝撃的な内容でした。と同時に、グーグルは「無難なことはしない」会社なんだと納得している自分がいました。
グーグルは、次のような4つの採用基準を持っているとされています。
① GCA(General Cognitive Ability)
直訳すれば、「普遍的認知能力」ということになります。平たく言えば「地頭の良さ」という意味です。知識が豊富よりも、解がないような問いに対する論理的思考能力があるか、ということに重きを置いているということです。
② RRK(Role Related Knowledge)
これは採用するポジションの業務知識や経験のことですが、これだけに限定した基準とすると視野狭窄な人材を採用してしまうことになります。従って、「優秀なGeneral Athlete」つまり未経験であっても自分で答えを組み立てられる人材を採用する、ことに基準を収束させているようです。
③ リーダーシップ
グーグルではあらゆる組織やレベルで従来の尺度では測れないようなリーダーシップを重視しています。そこで必要な資質は、担当する仕事や役職名にこだわることなく自ら先頭に立って必要な結果を出すことだ、とされています。
④ グーグリーネス
これは、グーグルの組織風土にフィットするか、ということです。グーグルは、グループで仕事をすることが多いので、なかでもコミュニケーション能力を重視しているようです。
これらの採用基準のなかでも、③のリーダーシップと④のグーグリーネス(コミュニケーション能力)は、どのような組織にも必要不可欠な人材の要素です。組織構成人員の少ない中小企業にはベストマッチな採用基準ではないでしょうか。リーダーシップは自分のポジションに関係なく自分が思うことを周囲を巻き込んで行動できる能力ですが、会社やチームはリーダーの発揮能力次第でどうにでも変化するものです。また、コミュニケーション能力の重視は、グーグル生まれの組織活性化のキーワード「心理的安全性」を担保する手段として極めて重要です。まずは、この二つの採用基準を借用してみましょう。
最後に、グーグルで特徴的なのは、入社した社員すべてに人材採用への貢献が求められる点でしょうか。即ち、グーグルに入社して欲しい人材を採用部門に推薦したり、自分自身が採用面接官となって応募者の採用面接を行ったりさせられるようです。さらに、これらの採用活動にどれだけ貢献したか、が人事評価の項目ともなっているようです。
このなりふり構わぬグーグルの採用手法をも中小企業は絶対に真似るべきだと思います。社内のあらゆるリソースを活用できるだけ活用するのです。そうすることで、社員の様々な切り口でのスキルマップを集積することもできます。さらに、社員が成功体験を重ねることでモチベーションアップにもつながるでしょう。
グーグルと言えば手の届かぬ高嶺の花だと思いがちです。しかし、個別具体的に行われていることを分解すれば、私たち中小企業でも活用できる方法は満載なのです。
ABOUT執筆者紹介
大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役
大曲義典 社会保険労務士事務所 所長
関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。