12 October

明解!農業者はじめ取引先事業者へ!消費税インボイス経過措置・独占禁止法等

掲載日:2022年10月12日   
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消費税インボイス登録に関する経過措置の適用期間延長

2023年10月1日にスタートするインボイス制度、2022年4月に消費税法等の一部が改正された。今回、農業版消費税インボイス制度について、農業者側は法改正された部分及び取引する事業会社側は独占禁止法等について解説するのでぜひ参考にしていただきたい。これから消費税インボイスの準備を検討している方は以前の記事と合わせて確認してほしい。記事の記載にあたり国税庁及び財務省の公表資料をもとにわかりやすく説明している部分は、著者の個人的な見解も含むことをあらかじめお断りする。

インボイス発行事業者の登録については、農業者(免税事業者)が、2023年10月1日の属する課税期間中にインボイス発行事業者の登録を受けた場合は、登録を受けた日からインボイス発行事業者となることができる経過措置が設けられているが、当該経過措置の適用期間が延長され、2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間においても、登録を受けた日からインボイス発行事業者となることができることとなった。

経過措置とは

従来の法律から新しい法律に移行する際に、不都合が生じないようにとられる措置のこと。

ここがポイント

2029年9月30日までの日の属する課税期間なので、個人農業者及び12月決算農業法人の場合、登録する際は2029年12月31日まで経過措置が使えることになる。

 

農業者(免税事業者)の登録手続(経過措置の適用を受けるケース)

それでは、実際に登録手続きを見ていこう。

免税事業者がインボイス発行事業者としての登録を受けるには、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる必要があるが、2023年10月1日から2029年9月30日までの日を含む課税期間中に登録を受ける場合は、上記説明したように登録を受けた日から課税事業者となる経過措置が設けられた。

登録日が2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間の場合(経過措置の適用を受ける場合)登録申請書を提出する。この場合、「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要。

個人農業者や12月決算農業法人が、2023年10月1日から登録を受ける場合

ここがポイント

農業者の場合は免税事業者のまま取引できる特例があるため、前回記載の記事を参考にされたい。もし特例が適用できない場合、登録が必要な農業者も生じる。その際、インボイス制度開始の2023年10月1日が登録日と同時にインボイス発行事業者となるケースもある。登録申請手続の期限は原則として2023年3月31日。登録日以降は課税事業者となり、消費税の申告が新たに必要なので注意!

 

農業者(免税事業者)からの課税仕入れ

ただし農業者(免税事業者)がインボイス未登録でも取引先事業者は仕入税額相当額について2023年10月から2026年9月末まで80%控除、2026年10月から2029年9月末まで50%控除できる制度もあるので確認しよう。

ここがポイント

上記登録の適用期間延長は免税事業者からの課税仕入れにあわせた形だ。農業者(免税事業者)は2023年10月1日のインボイス制度スタート時に合わせる方、様子を見てこの6年間で課税事業者への転換をするか検討する方もおられよう。

 

経過措置の適用を受けないケース

登録日が2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間以降の場合(経過措置の適用を受けない場合)「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者を選択するとともに、課税事業者となる課税期間の初日の前日から起算して1月前の日までに登録申請書を提出する。

個人農業者や12月決算農業法人が、課税事業者となる課税期間の初日である2030年1月1日から登録を受ける場合は、「消費税課税事業者選択届出書」を提出するとともに、登録申請書を2029年11月30日までに提出する。

ここがポイント

経過措置の適用を受けない場合は、「消費税課税事業者選択届出書」だけでなく、1月前までに登録申請書が必要だ。免税事業者は、課税事業者となる課税期間の初日(2030年1月1日)の前日(2029年12月31日)から起算して1月前の日とルールが決められている。

 

登録の取消手続(事業者免税点制度の適用制限期間)

次に取消手続を確認する。

経過措置の適用を受けてインボイス発行事業者となった場合、登録を受けた日から2年を経過する日の属する課税期間の末日までは、免税事業者になることはできない(登録を受けた日が2023年10月1日の属する課税期間中である場合を除く)。

個人農業者又は12月決算農業法人が、経過措置により2024年2月1日に登録を受け、2025年9月30日に取消手続を行った場合

この場合、2026年 12 月末までは免税事業者とはならないので、登録の取消手続(「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」提出)を行ったとしても、基準期間の課税売上高にかかわらず課税事業者となる。したがって取消後、基準期間の課税売上高が1千万円以下となり、免税事業者となれるのは2027年以降となる。

経過措置の登録と異なり、取消届出書を提出後、すぐに免税事業者とはならないので注意が必要だ。2025年9月30日に取消10月1日から免税事業者とはならない。また2024年2月から2年経過後の2026年2月にも免税事業者とならない。2年を経過する日の属する課税期間の末日になるので、本事例では2024年2月1日から2026年12月31日まで課税事業者となる。

ここがポイント

経過措置の適用を受ける場合、登録を受けた日から2年経過する日の属する課税期間の末日までは、免税事業者となることはできない(登録を受けた日が2023年10月1日の属する課税期間中である場合を除く)ため、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出し、登録の効力が失われても、基準期間の課税売上高にかかわらず、課税事業者として消費税の申告が必要だ。

 

農業者の取引先事業会社と独占禁止法等

農業者との取引相手方を解説する。

事例1

農業者(免税事業者)の農業愛子は食品会社と「報酬総額1,080,000円」で契約を結んだ。
取引完了後、インボイス発行事業者でないことが、請求段階で判明したため、農業愛子が提出した請求書に記載された金額にかかわらず、会社は消費税相当額の80,000円の一部又は全部を支払わないことにした。

下請法違反になる。

発注者(食品会社)が下請事業者(農業者)に対して、免税事業者であることを理由にして、消費税相当額の一部又は全部を支払わない行為は、下請法第4条第1項第3号で禁止されている「下請代金の減額」として問題になる。

事例2

継続的に取引関係のある農業者と、免税事業者であることを前提に「単価100万円」で発注を行った。
その後、今後の取引があることを踏まえ、農業者に課税転換を求めた。結果、農業者が課税事業者となったにもかかわらず、その後の価格交渉に応じず、一方的に単価を据え置くこととした。

下請法違反となるおそれがある。
農業者が課税事業者になったにもかかわらず、免税事業者であることを前提に行われた単価からの交渉に応じず、一方的に従来どおりに単価を据え置いて発注する行為は、下請法第4条第1項第5号で禁止されている「買いたたき」として問題になるおそれがある。

事例3

食品会社(課税事業者)が、取引先である農業者(免税事業者)に対して、課税転換を求めた。
その際、「インボイス事業者にならなければ、消費税分はお支払いできません。承諾いただけなければ今後のお取引は考えさせていただきます。」という文言を用いて要請を行った。また、要請に当たっての価格交渉にも応じなかった。

独占禁止法上問題となるおそれがある。
課税事業者になるよう要請すること自体は独占禁止法上問題にならないが、それにとどまらず、課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、それにも応じなければ取引を打ち切るなどと一方的に通告することは、独占禁止法上問題となるおそれがある。また、課税事業者となるに際し、価格交渉の場において明示的な協議なしに価格を据え置く場合も同様だ。

 

最後に

インボイス発行事業者になると基準期間の課税売上高が1,000万円以下となっても、登録の効力が失われない限り、消費税の申告を行わなければならない。また取引の相手方(課税事業者に限る)から求められたときは、インボイスを交付しなければならない(交付義務)。

登録を受けるか否かは、あくまでも農業者の任意だ。インボイス発行事業者の登録を受けない場合、当然インボイスを交付できない。

2023年10月の制度施行に向けて、農業者の方は準備万端で臨んでいただきたい。登録が済んだ農業者の方は前回記事、消費税インボイス記載ルールの再確認をお勧めする。また農業者の方に限らないが不利益を被らないために独占禁止法等がある。農業者と取引している集出荷団体、小売業者、食品製造業・外食産業等は注意していただきたい。事業会社の都合のみで著しく低い価格を設定し、農業者(免税事業者)が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題になる。農業者は事業会社から促され事例のように登録がなされる可能性もあるので価格交渉は慎重に制度を理解し備えていただくことを望む限りである。

ABOUT執筆者紹介

佐藤宏章

公認会計士/税理士
公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所 代表

秋田県農家出身(酪農・メロン・水稲)。東京農業大学農学部農学科卒業後、農業経営者に的確なアドバイスをと一念発起し、公認会計士資格取得。監査法人勤務を経て、「日本初の農業に特化した専門家」として独立開業。

農業経営者に会計・税務・経営をわかりやすく伝えることをモットーに、全国各地で活動中。企業・自治体・大学・税理士会等向けに講演、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「めざましテレビ」(フジテレビ)その他メディア出演も多数。かつてないスタイルで唯一無二の存在と信頼を集める。

日本初の農業に特化した専門家ホームページ

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