03 June

ここが知りたい!農業消費税インボイス制度 農協特例、卸売市場特例、直売所を解説!

掲載日:2022年06月03日   
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農業者必見!農協特例、卸売市場特例、直売所を解説!

前回に引き続き農業版消費税インボイス制度について解説する。農業以外の事業者は、取引先の影響により免税事業者から課税事業者へ移行といったケースが多くなるのではないか。一方、農業者の場合、農協等や卸売市場などを通じた委託販売を行う際には、条件があるもののインボイスの発行を求められないため(交付することが困難)免税事業者のまま取引が継続できることになる。

農協等や卸売市場に出荷や直売所と取引している生産者は、本稿をぜひ参考にしていただきたい。記事の記載にあたり国税庁及び農林水産省の公表資料をもとに生産者の方にわかりやすく説明している部分は、著者の個人的な見解も含むことをあらかじめお断りする。

 

農協特例(農協等を通じて取引される農産物に対する特例)

農協等の組合員その他の構成員が、農協等に対して無条件委託方式かつ共同計算方式により販売を委託した農林水産物の販売は、インボイスを交付することが困難な取引として、組合員等から購入者に対するインボイスの交付義務が免除される。

上図から多数の生産者が農協等に販売を委託している。農協等は生産者から集めた農産物を等級別などに区別して出荷するため、購入者から見れば誰が生産した農産物なのか特定することは難しい(免税事業者、課税事業者の区別が困難)。インボイスを交付することが困難な取引として交付義務が免除されている。ここで生産者が誤解されているふしもあるので注意してほしい。農協等に出荷しているすべての生産者のインボイス交付義務が免除されているわけではない。上図のように無条件委託方式及び共同計算方式が条件となっている。

用語解説

無条件委託方式

出荷した農林水産物について、売値、出荷時期、出荷先等の条件を付けずにその販売を委託すること。

共同計算方式

一定の期間における農林水産物の譲渡に係る対価の額をその農林水産物の種類、品質、等級その他の区分ごとに平均した価格をもって算出した金額を基礎として精算すること。

農林水産物を購入した事業者は、農協等が作成する一定の書類を保存することが仕入税額控除の要件となる。

ここがポイント農協等には農業協同組合のみならず、漁協、森林組合、事業協同組合なども特例の対象になっている。生産者が取引している民間会社などすべてが対象になっているわけではない。免税事業者の生産者は、出荷先が特例の対象になっているのか確認する必要がある。
 

卸売市場特例

卸売市場法に規定する卸売市場において、卸売業者が卸売の業務として出荷者から委託を受けて行う生鮮食料品等の販売は、インボイスを交付することが困難な取引として、出荷者等から生鮮食料品等を購入した事業者に対するインボイスの交付義務が免除される。農協特例と同様に免税事業者のまま取引が継続できることになる。

生鮮食料品等を購入した事業者は、卸売市場が作成する一定の書類を保存することが仕入税額控除の要件となる。

ここがポイント特例の対象となる卸売市場
① 農林水産大臣の認定を受けた中央卸売市場
② 都道府県知事の認定を受けた地方卸売市場
③ 農林水産大臣の確認を受けた卸売市場(①及び②に準ずる卸売市場)

卸売市場を通じた生鮮食料品等の委託販売は、出荷者等のインボイスの交付義務が免除される。生産者は市場と表示されていればすべて対象になるように考える向きもあるが卸売市場は限定されている。

さらに詳しく!

卸売市場法第2条

「生鮮食料品等」とは、野菜、果実、魚類、肉類等の生鮮食料品その他一般消費者が日常生活の用に供する食料品及び花きその他一般消費者の日常生活と密接な関係を有する農畜水産物で政令で定めるものをいう。

ここがポイント生鮮食料品等には生鮮食料品だけでなく花きも含まれているので注意。
 

直売所

生産者の農産物なので購入者に対しては本来、生産者が購入者に対してインボイスを交付しなければならない。直売所は生産者を代理して、生産者の氏名又は名称及び登録番号を記載した、生産者のインボイスを相手方に交付することも認められる(代理交付)。

次の①及び②の要件を満たすことにより、媒介又は取次ぎを行う者である直売所が、生産者の農産物販売について、自己の氏名又は名称及び登録番号を記載したインボイスを、生産者に代わって購入者に交付することができる(媒介者交付特例という)。

① 生産者及び直売所がインボイス発行事業者であること
② 生産者が直売所に、自己がインボイス発行事業者の登録を受けている旨を取引前までに通知していること

ここがポイント媒介者交付特例は、委託者である生産者と受託者である直売所どちらもインボイス発行事業者であることが条件。直売所は免税事業者の生産者が多いと思われるため媒介者交付特例をすべての生産者に適用することができない(個別に対応)。そのため購入者に対して商品に課税事業者(インボイス発行事業者)と免税事業者をわかりやすいように区分する(☆印など)対応が必要になる。

農協特例や卸売市場特例のような免税事業者の生産者にはインボイス交付義務の免除はないため直売所との関係で買取りを含め価格について話し合うことになる。購入者がすべて一般の消費者であればインボイスの発行は求められない。しかしレストラン経営など購入者が課税事業者の場合はインボイスを求めてくるため対応は必須だ。

 

最後に

2023年10月にインボイス制度がスタートする。免税事業者の方はインボイス登録が必要か検討することになる。登録後は課税事業者として消費税の申告・納付を行うことになる。

インボイス制度まとめ

免税事業者の生産者
農協特例、卸売市場特例に該当する場合、インボイスの発行を求められないため、免税事業者のまま取引できる。特例に該当しない場合、販売先では仕入税額控除できないため価格含めた取引条件について見直しや、場合によっては課税事業者への転換を考えることだ。

課税事業者の生産者
今までは当然に仕入税額控除できていたが、インボイス制度開始により仕入先が免税事業者の場合には仕入税額控除できなくなるため価格含めた取引条件について話し合いが必要になる。

インボイス制度導入により離農が生じないか案じている。全国には品質の優れた農産物を生産している農家が多いことを忘れてはならない。

ABOUT執筆者紹介

佐藤宏章

公認会計士/税理士
公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所 代表

秋田県農家出身(酪農・メロン・水稲)。東京農業大学農学部農学科卒業後、農業経営者に的確なアドバイスをと一念発起し、公認会計士資格取得。監査法人勤務を経て、「日本初の農業に特化した専門家」として独立開業。

農業経営者に会計・税務・経営をわかりやすく伝えることをモットーに、全国各地で活動中。企業・自治体・大学・税理士会等向けに講演、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「めざましテレビ」(フジテレビ)その他メディア出演も多数。かつてないスタイルで唯一無二の存在と信頼を集める。

日本初の農業に特化した専門家ホームページ

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