11 March

農業者必見!消費税インボイス制度が農家にもたらす影響を徹底解説!

掲載日:2022年03月11日   
農家おすすめ情報

農業者必見!消費税インボイス制度とは?

農家の方は「インボイス」という言葉を頻繁に耳にするのでは?2019年10月の複数税率導入に次ぐ消費税の新しい制度(インボイス制度)が2023年10月にスタートする。農家の方は自分には関係ないと思っている方が多いようなので、本稿を読んで少しでも参考にしていただきたい。記事の記載にあたり国税庁及び農林水産省の公表資料をもとに農家の方にわかりやすく説明している部分は、著者の個人的な見解も含むことをあらかじめお断りする。

なぜ今、農業者の消費税インボイス制度が重要か?

2023年10月1日から消費税のインボイス制度が実施される。インボイス制度は全国の農業者に一番影響があると言われているのはなぜなのか?農林業センサスによると販売農家103万戸の約9割が売上1,000万円以下の免税事業者なのでインパクトが大きいことがわかる。これまで所得税の申告のみで済んだがインボイス導入で消費税の申告納税が必要になる農家が増えるのではないかと話題だ。

 

農業者のインボイス制度が実務に与える影響

複数税率の影響

2019年10月から複数税率導入(標準税率10%、軽減税率8%)により農業以外の事業者の場合、標準税率10%が主体で消費税の計算がされている。農業者の場合は、農産物の販売は軽減税率8%、種苗・肥料などの仕入れや農業機械・設備などの購入費は標準税率10%といったようにどちらの税率も影響が大きくなる。インボイスが導入された際には適用税率及び税率ごとに区分した消費税額が求められるため、正確な記載が必須だ。交付したインボイスに誤りがあった場合には、修正したインボイスの交付が必要となる。

免税事業者の取扱い

農業以外の事業者の場合、取引先の影響により免税事業者から課税事業者に移行が多いと思われる。しかし農業者の場合、卸売市場や農協、漁協、森林組合、事業協同組合などに委託販売を行う場合にはインボイスの発行を求められないため(交付することが困難)現状のまま取引が継続できることになり、取り扱いには注意が必要だ。

これが農業版インボイスだ!

上記が花(観賞用)とコメ農家のインボイス記載例である。

インボイス(適格請求書)とは、「売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」であり、登録番号のほか、一定の事項が記載された請求書や納品書その他(領収書、レシート等)これに類するものをいう。様式は、法令又は通達等で定められておらず、必要な事項が記載されたものであれば、名称を問わず、また農家の手書きであっても、インボイスに該当する。

インボイスの交付に代えて、電磁的記録(インボイスの記載事項を記録した電子データ)を提供することも可能だ。

①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

まず、インボイス発行には登録番号が必要になる。課税事業者が登録を受けることができる。

農業法人の場合 T+法人番号
個人農業者の場合 T+13桁の数字

 

2021年10月から登録申請手続き(税務署)が開始されている。インボイススタート(2023年10月1日)から登録を受けるには、原則として2023年3月31日までに登録申請手続を行う必要がある。ただし2023年3月31日までに提出することが困難な事情がある場合は、2023年9月30日まで(「困難な事情」については、その程度は問わない)。

②取引年月日

③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)

④税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率

適用税率が重要になるので、取引先と食い違いが生じないように。インボイス導入に向けて農産物等の適用税率に誤りがないか再度確認する必要がある。

軽減税率(8%適用)米、酒米、野菜、果物、花(食用)、製菓材料の種子、食肉、農家レストランの弁当の「持ち帰り販売」、送料(農産物価格に含まれている場合)、包装代(農産物価格に含まれている場合)、観光農園などで採った果物を土産用に販売
標準税率(10%適用)飼料用米、種もみ、日本酒、花(観賞用)、栽培用の種子、苗木、肉用牛などの生きた家畜、農家レストラン内での飲食(外食)、ケータリング(相手方が指定した場所において行う役務を伴う飲食料品の提供)、送料(農産物と別に請求する場合)、包装代(農産物と別に請求する場合)、観光農園などの入園料、販売手数料

軽減税率対象の飲食料品は、人の飲用又は食用に供されるもの(食品表示法に規定する食品)。

⑤税率ごとに区分した消費税額等

インボイス記載に必要なので確認を。

⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

注:不特定多数の者に対して販売等を行う小売業、農家レストラン、直売所等に係る取引については、記載事項を簡易なものとした適格簡易請求書を交付することができる(本記事では省略)。

免税事業者とインボイス制度

上記の図を使ってインボイス制度を説明する。レストラン側(課税事業者)農家側(免税事業者)を例に、事例を簡単にするため消費税と地方消費税を合わせた税率で計算。

レストランはお客さまから外食10%で1,000円の消費税を預かっている。一方、レストランは農家から農産物を仕入れ8%で400円の消費税を支払っている。消費税の計算は預かった消費税1,000円から支払った消費税400円を差し引いた600円をレストラン側で納める。インボイス開始された場合には農家側でインボイス登録されていない場合には400円を差し引くことができず、レストラン側で1,000円の消費税を納めることになる。レストラン側としては、インボイスを登録している農家と取引することが考えられる。

ポイント解説(仕入税額控除)

①2023年9月30日までは100%全額控除。
上記事例では農家側(免税事業者)からの仕入れについては、 400円仕入税額控除できる。

②2023年10月1日から2026年9月30日まで80%控除可能。
免税事業者からの影響を考慮して農家に支払った400円の80%(320円)を仕入税額控除できる。

③2026年10月1日から2029年9月30日まで50%控除可能。
免税事業者からの影響を考慮して農家に支払った400円の50%(200円)を仕入税額控除できる。

②③制度開始後6年間は、免税事業者からの課税仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置が設けられている。

農家側(免税事業者)の視点

レストラン側で仕入税額控除(支払った消費税)ができないということは、今まで取引している販路先を失う可能性がある。免税事業者のまま取引を考えている場合は、価格含めた取引条件など話し合いが必要となる。

農家でインボイスを登録すればと考えている方もいるだろう。インボイスを登録するということは、消費税の申告・納付が必要となり、農業者の税負担が増えるということだ(インボイスの登録番号が重要とはこういうことか…。今まで所得税の計算だけでよかったのに…)。

用語解説でさらに理解を深めよう!

課税事業者

その課税期間※1の基準期間※2の課税売上高が1,000万円を超える農業者は消費税の納税義務者となり、消費税の申告・納付を行う必要がある。

※1原則として、個人農業者は暦年、農業法人は事業年度
※2原則として、個人農業者は前々年、農業法人は前々事業年度

免税事業者

基準期間の課税売上高が1,000万円以下の農業者は、原則として消費税の納税義務が免除され、消費税の申告を行う必要はない。免税事業者でも、課税事業者となることを選択することができる。

上記で説明したように免税事業者のままではインボイス発行事業者になれないため、課税事業者へ転換を検討する農家も増えてゆくだろう。

最後に

上記の説明で農業者もインボイス登録が必要と検討する方もおられるだろう。しかし登録を受けるか否かは農業者の任意であることは忘れずに付け加えておく。次回では免税事業者のまま取引できる農協等を通じた委託販売、卸売市場等を通じて取引される農産物に対する特例、媒介者交付特例(直売所)など農業特有の事例を紹介する予定だ。

ABOUT執筆者紹介

佐藤宏章

公認会計士/税理士/農業経営アドバイザー
公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所 代表

秋田県農家出身(酪農・メロン・水稲)。東京農業大学農学部農学科卒業後、農業経営者に的確なアドバイスをと一念発起し、公認会計士資格取得。監査法人勤務を経て、「日本初の農業に特化した専門家」として独立開業。

農業経営者に会計・税務・経営をわかりやすく伝えることをモットーに、全国各地で活動中。企業・自治体・大学・税理士会等向けに講演、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「めざましテレビ」(フジテレビ)その他メディア出演も多数。かつてないスタイルで唯一無二の存在と信頼を集める。

日本初の農業に特化した専門家ホームページ

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