06 March

税制改正のしくみは?どんな視点で行われる?

掲載日:2025年03月06日   
税務ニュース

令和7年度税制改正では、数ある「年収の壁」のうち「103万円の壁」の引き上げが注目されました。
税制改正は、どのようなプロセスで、そしてどのような視点で行われるのでしょうか?
本コラムでは、税制改正のしくみについて解説します。

税制改正とは?

税金の制度(税制)の見直しを行うことを、税制改正といいます。
税制改正は、基本的には毎年実施されます。

税制改正が必要な主な理由は、(1)社会変化に対応するため、(2)税制をアップデートするための2つです。

つまり、税制は、税負担の公平確保などの税金のルールに関する理論に沿いつつ、少子高齢化、グローバル化、家族構成や働き方の変化などの社会変化に対応できるよう、そのしくみについて不断に見直すとともに、税金の特別ルールである租税特別措置についても、絶えずそのあり方(制定・廃止・期限延長など)が検討されているのです。

税制改正のプロセス

税制改正は、どのようなプロセスで実施されるのでしょうか?

まず、4月ごろ、政府税制調査会が開催され、内閣総理大臣の税制改正についての基本的な考え方に基づいて、当面または中長期の課題について、秋まで審議されます。

政府税制調査会が中長期的視点から税制のあり方を検討する一方で、具体的な税制改正事項については、与党税制調査会が、各業界団体からの要望が集められ各府省庁によりとりまとめられた税制改正要望等を審議し、「与党税制改正大綱」をとりまとめます。
この「与党税制改正大綱」は、税制改正の素案という位置付けです。

そして、「与党税制改正大綱」を踏まえた「税制改正の大綱」が閣議に提出されます。

その後、閣議決定された「税制改正の大綱」に沿って、国税の改正法案については財務省が、地方税の改正法案については総務省が作成し、国会に提出されます。

国会で可決されると改正法案は成立し、改正法に定められた日から施行されることになります。

このように、社会の変化などを踏まえたその時々の課題を中心に、国民各層や各種業界団体の要望などを踏まえつつ、予算編成作業と並行して、税制改正に関する議論が進められていきます。

また、税制改正は、政治家などが勝手に行なっているのではなく、立法のプロセスを経て進められているのがわかります。

税制改正の視点

税制改正の議論は、どのような視点に基づいて進められるのでしょうか?
ここでは、税制改正に関する主な視点を3つ取り上げてみましょう。

視点1:時代に合わせた見直し

税制は、時代に合わせて見直しが行われます。
たとえば、令和7年度税制改正では、物価上昇などの経済社会の変化や、働き方などの変化をふまえて、「年収の壁」に関する税金のルールの見直しが行われ、「年収の壁」のひとつである「103万円の壁」が「123万円の壁」へと拡大される予定です。

ここで「103万円の壁」とは、給与所得者に対して所得税が課税されないボーダーラインをいいます。

基礎控除48万円と給与所得控除の最低補償額55万円とを足し合わせると103万円となり、年間の給与収入額が103万円以下であれば所得税が課税されません。

また、給与所得者本人が配偶者や扶養者などに関する所得控除を受けるうえでも「103万円の壁」が機能しています。たとえば、配偶者の年間の給与収入額が103万円を超えてしまうと、配偶者控除を受けられなくなります。

令和7年度税制改正では、基礎控除について、合計所得金額が2,350万円以下である個人の控除額が58万円(改正前:48万円)に引き上げられます。

さらに、給与所得控除についても、最低補償額が65万円(改正前:55万円)に引き上げられ、配偶者控除などに関する総所得金額等の合計額の要件も58万円以下(改正前:48万円以下)に引き上げられます。

つまり、「103万円の壁」が「123万円の壁」へと拡大され、20万円引き上げられることとなるのです。

その背景にあるのは、「年収の壁」に起因した「働き控え」の問題や、最低賃金、物価または働き方などが変化しているにもかかわらず、1995年から「103万円の壁」の金額が変わっていないことなどです(図表1)。

税金のルールは時代や社会の変化に対応するように見直される必要があるため、今後も「年収の壁」について、議論される余地があるでしょう。

(図表1)

  1995〜2019年 2020〜2024年 2025年
基礎控除の額 38万円 48万円 58万円
給与所得控除(最低補償)の額 65万円 55万円 65万円
合計 103万円 103万円 123万円

視点2:政策的な見地

税制は、政策的な見地から見直しが行われることがあります。
その代表例が、寄附をすることで税金の負担が軽くなる「寄附金控除」の制度です。

たとえば、ふるさと納税を思い出してみてください。
寄附をすることで税金の負担が軽減されることは、当たり前だと考える人も少なくないのではないでしょうか?

じつは、寄附のような所得の任意処分に関しては控除を与えないというのが、税金のルールにおける基本的な考え方です。寄附は、一般的には他人に対する金銭等の贈与であって、所得の任意処分の性格が強いため、本来は課税対象に含まれるのです。

しかし、現在の税金のルールでは、寄附をすることで税金の負担が軽減される寄附金控除という制度が設けられています。これはなぜなのでしょう?

それは、寄附金控除の制度は、個人が寄附をするための「誘因(インセンティブ)」として政策的に設けられたという経緯があるためです。

文化財の修理などの公益事業は、公費だけではその活動資金を賄いきれず、活動資金を民間の寄附に期待しているところが大きいという実情があります。そこで、寄附金控除の制度を設けることで民間の寄附を奨励し、公益事業を支え、公費の肩代わりとしての寄附に対して税金の優遇を与えるというわけです。

寄附金控除の制度は、何度かの税制改正を経て拡充されています(図表2)。
このことからも、公共事業を支えるための寄附は、ますます重要性が高まっていると捉えることができるでしょう。

(図表2)

  方式 適用下限額 控除対象寄附金の限度額
1968年 所得控除    
1973年     総所得の25%
1974年   10,000円  
1988年 公益の増進に著しく寄与する法人(特定公益増進法人)に名称変更
2005年     総所得の30%
2006年   5,000円  
2007年     総所得の40%
2010年   2,000円  
2011年 所得控除・税額控除選択制の導入    

視点3:災害被害者の救済

税制は、震災などの被災者を救済する見地から見直しが行われることがあります。
ここでは、2つの大震災と震災税制について取り上げてみましょう。

災害被害者を救済する税の制度は、旧来の災害減免法を発展させた昭和22年の災害減免法と、昭和25年に新設された雑損控除の2つが柱となっています。
被災者は災害減免法と雑損控除のうち有利な制度を申請することができます。

阪神淡路大震災と東日本大震災においては、この2つの柱に加えて、震災特例法(阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律、東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律)が制定されました。

この震災特例法では、雑損控除や災害減免法の適用範囲を拡大する規定などが定められました。そのほか、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」や「東日本大震災復興特別区域法」などの法律により、復興財源の確保や復興事業に対して課税の特例が設けられました。

また、所得税だけでなく、法人税・相続税・贈与税などにおいてもさまざまな特例措置が設けられました。

そして、平成29年度税制改正では、この2つの大震災以降も災害が頻発していることを踏まえ、たとえば災害によって住宅に居住することができなくなった場合に住宅ローン控除制度を継続適用できる特例など、これまで災害ごとに特別立法で手当てされてきた対応が常設化され、災害対応の税制基盤が整備されつつあります。

税制のアップデートは立法のプロセスを経る

このように、税制改正案は、税負担の公平確保などの税金のルールに関する理論だけでなく、立法や業界団体の意見も交錯し、あらゆる政策が複雑に絡んだ結果として決定されます。

ときには、租税回避とよばれる、法律の想定外の行動、つまり法の網の目をかいくぐって、通常ではあり得ない方法を使って税金を少なくする方法に対応するため、税制改正が行われることもあります。相続税法の度重なる改正がその代表例です。

社会変化に対応し、税制をアップデートすることが税制改正の目的ですが、政治家などが勝手に税金のルールを変えることができるわけではありません。
税金のルールを見直す税制改正は、必ず、立法の手続きを経る必要があるのです。

(免責事項)本コラムの内容は、投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令等に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように、原則的な取扱いを簡略化して説明しています。本コラムの情報に基づいて実務や判断を行う場合には、専門家・税務署に相談、または十分に内容を検討のうえ実行してください。本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。なお、当事務所では本コラムに関する個別のご質問は受け付けておりません。予めご了承ください。
ABOUT執筆者紹介

税理士 武田紀仁

たけだ税理士事務所

クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。

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