09 July

事前確定届出給与の判断と定めの通りに支給されたかの判断は別物

掲載日:2025年07月09日   
税務ニュース

事前確定届出給与の意義と要件

法人がその役員に支給する賞与は、原則として経費として認められませんが、例外として、事前確定届出給与に該当する賞与は経費として認められます。

事前確定届出給与は、予め支給時期と支給金額を株主総会などで確定させて、その旨を税務署に事前に届け出た賞与のうち、その確定させた通りに支給したものを意味します。このため、税務調査では届け出た支給時期に、届け出た支給金額の通りに支給されたかチェックされることが通例です。

定めの通りの支給の判断と職務執行期間

これらが正しいかどうかの判断ですが、原則として今回の定時株主総会から次回の定時株主総会の前日までの「職務執行期間」全体で判断されることになっています。このため、職務執行期間の中で、一回でも届出の通りの支給がなされていなければ、原則として事前確定届出給与は認められません。

具体例を申しますと、3月決算法人が、5月の定時株主総会で7月25日と12月25日にそれぞれ100万円の賞与を支給するとして事前確定届出給与の届出をしているとします。その上で、7月25日は届出の通りに100万支給したものの、資金繰りの都合で12月25日は50万しか支給しなかった場合には、12月25日の50万の賞与はもちろん、定めの通りに支給した7月25日の100万の賞与も事前確定届出給与には当たらず、両方とも経費にならないとされます。

職務執行期間である5月の定時株主総会から、次回の翌年5月の定時株主総会までの期間全体で見るため、12月25日の支給が要件を満たさないなら、届け出た通りに支給したはずの7月25日の支給も要件を満たさないとされるからです。

事前に予定等されていない賞与の支給は問題ない

職務執行期間全体で判断する、という点は私たち税理士の中でもよく知られており、複数回の支給を予定している場合には、クライアントに例外なくその通りに支給するよう注意喚起しています。ここで問題になるのは、その職務執行期間中に、事前に予定しておらず、届出もしていない賞与を支給した場合の取扱いです。

業績が好調だったので、届出もしていない3月末に決算賞与を200万支給することとし、その他の賞与は届け出た通りに賞与を支給したとします。この場合、職務執行期間全体で見れば、3月に届け出ていない賞与を支給したため届け出た通りの支給にはなっていません。しかし、この場合には3月の決算賞与は経費なりませんが、その他の賞与は事前確定届出給与に当たり、経費として認められます。

この理由は、3月の賞与はそもそも予定されていないものですから、事前確定届出給与になりようがないからです。事前確定届出給与は予め確定させて届け出た賞与のうち、その定めの通りに支給されたものを意味します。すなわち、予め確定させて届け出た賞与については、職務執行期間で判断し、そうでないものはこの判断には含める必要はないのです。

結果として、複数回届け出た場合の判断においては職務執行期間が重要になり、届出庭内賞与は全くの別物ですので、両者を混同する必要はありません。この点、非常に分かりにくく、往々にして混同し、誤った結論を導いてしまうので注意が必要です。

法律の不備はあると言わざるを得ない

なお、事前確定届出給与は、その制度ができた時から法律上不備がある制度ではないか、といった指摘が専門家からなされていました。

先の取扱いも、職務執行期間で見るという事前確定届出給与の原則的な仕組みからすれば問題が残る制度と言わざるを得ませんので、法改正などの対応が必要と考えます。

ABOUT執筆者紹介

元国税調査官・税理士 松嶋洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

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