〔免税事業者むけ〕10月1日に登録始まる「インボイス制度」なぜ必要?準備もわかりやすく解説
税務ニュース
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インボイス制度の登録申請が今年の10月1日から始まります。本格的な開始は2年後に迫りました。「インボイスでどうなるの?」「何を準備すべき?」今回はそんな不安を持つ方に向けてイチから解説します。
インボイス制度の意味と目的
最初にインボイス制度の意味と目的を確認しましょう。
インボイス制度とは何か
インボイス制度は正式名称を「適格請求書保存方式」といい、消費税の税率や税額が記載された請求書等を発行する制度です。インボイスは「適格請求書等」を意味します。消費税の詳細が書かれたインボイスは「仕入先が消費税を納めていることの証明書」となるわけです。
インボイス制度の目的は「益税問題の解消」
なぜ、インボイス制度が始まるのでしょうか。この制度の目的は、日本の消費税制度がこれまで抱えてきた「益税問題」の解消にあります。
平成元年4月1日に消費税が始まって以降、課税売上高が一定額以下の事業者は、申告・納税の義務が免除されてきました。免税点は創設当初3000万円でしたが、平成16年4月1日から現在まで1000万円となっています。
「免税事業者は、消費税抜きで売上請求するのか」というと、そうではありません。免税事業者でも請求額に消費税相当分を上乗せ請求できます。消費税法が止めていないからです。また仕入れた側も、免税事業者からの仕入分の消費税相当額を預かり消費税から控除できます。まとめると、免税事業者は、納めずにすんでいる消費税の分、課税事業者より得をしているわけです。
こういった益税問題をなくすべく、インボイス制度が設けられました。インボイスで仕入先が課税事業者か否かを判定しやすくすれば、課税の不公平を解消できると見られたのです。
インボイス制度で変わること3つ
インボイス制度が始まるのは令和5年10月1日です。この日以降、次の3つの点で消費税が変わります。
1.インボイスがなければ仕入税額控除ができない
インボイスのない仕入については、原則、仕入税額控除ができなくなります。つまり、買った側が消費税で損をします。このことから、インボイスを発行しない事業者は、取引先から避けられる可能性があります。
2.課税事業者でなければインボイスを発行できない
インボイスを発行するには、事前に「適格請求書発行事業者」として、所轄の税務署に登録する必要があります。ただし、この登録ができるのは課税事業者だけです。
3.少額仕入でもインボイスが必要
現在、次の2つの仕入につき「帳簿の記載さえあれば仕入税額控除ができる」とされています。
- 3万円未満の課税仕入れ
- 請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない事情がある
インボイス制度が始まると、こういったお目こぼしがなくなります。公共交通機関での3万円未満の支払など一部を除き、少額でもインボイスがなければ、原則として仕入税額控除ができません。
適格請求書保存方式で仕入税額控除をする条件2つ
インボイス制度開始後も仕入税額控除を受けるなら、次の2つの条件を守らないといけません。
条件1:インボイス制度が求める請求書等を保管すること
1つ目の条件は「請求書等を保管すること」です。インボイスを発行したり受け取ったりした課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間は保管しなくてはなりません。また、従来通り、一定事項が記載された帳簿の保存も求められます。
ちなみに、この保管のルールは受け取る分だけでなく、発行する分も同じです。
条件2:保管する請求書等にインボイスに必要な事項が書かれていること
2つ目は「保管する請求書等に必要な事項が書かれていること」です。次の6つの事項が書かれていないと、インボイス(適格請求書等)とならず、仕入税額控除ができません。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号(登録事業者でないと発行されない)
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率対象品目ならばその旨)
- 税抜(税込)取引金額を税率ごとに区分した額および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 請求書等を受け取った者の氏名または名称
ただし、上記は、特定の取引先を相手にする事業者に関するものです。
スーパーやレストラン、タクシーなど不特定多数に対してモノやサービスを提供する事業者については、適格請求書の代わりに「簡易適格請求書」を発行できるとされています。
簡易適格請求書に記載すべき事項は次の5つです。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号(登録事業者でないと発行されない)
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率対象品目ならばその旨)
- 税抜(税込)取引金額を税率ごとに区分した額
- 税率ごとに区分した消費税額等または適用税率
なお、仕入側が仕入税額控除をできるようにするには、売手側もこういった事項を記載した請求書等を発行し、控えを保管しなくてはなりません。
免税事業者がインボイス発行に向けてやっておきたいこと2つ
免税事業者は、インボイスを発行できません。「前々年度の課税売上高が1000万円以下」といった理由で消費税の申告・納税をしていないと、適格請求書や簡易適格請求書を出せないのです。もしインボイスを発行したいなら、次の2つを準備しておく必要があります。
準備1:課税事業者になる
1つ目は「課税事業者になる」ことです。実は、課税売上高1000万円以下でも課税事業者になれます。「消費税課税事業者選択届出書」に必要事項を記入して税務署に提出すれば、次の事業年度(課税期間)から納税義務者になれるのです。
消費税の申告・納税の義務が生じますが、同時にインボイスの登録事業者にもなり得ます。
なお、事業1年目の事業者は、最初の事業年度中に届出書を出せば初年度から課税事業者になれます。
準備2:令和3年10月1日以降、登録申請をする
2つ目は「事前に税務署に登録申請すること」です。この登録は令和3年10月1日から申請できます。原則、この日から令和5年3月31日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を所轄の税務署に提出すれば、登録番号の書かれたインボイスを発行できるようになるのです。
ただし、この登録申請は、消費税の申告・納税の対象となる課税期間の初日の前日の1か月前までに行わなくてはなりません。課税事業者選択届出書とタイミングが違うので要注意です。
納税額を抑えたい免税事業者は「準備2」だけしよう
ただし現在、インボイス制度の導入に伴い、免税事業者には特例措置があります。令和3年10月1日から令和5年3月31日までにインボイスの登録申請だけ、つまり「適格請求書発行事業者の登録申請書」だけを提出すれば、インボイス制度スタートと同時に課税事業者にもなれるのです。
個人事業主で考えると、次のようになります。
逆に、課税事業者選択届出書を提出すると、提出した翌課税期間から消費税を納めなくてはなりません。「インボイス導入をきっかけに消費税の申告・納税を」と考えている免税事業者は、登録申請書1枚を期限までに出すようにした方がいいでしょう。
インボイス制度はかなり細かい…今から調べておこう
インボイス制度は、他にも注意すべき点や経過措置があります。そして今年の5月、国税庁のインボイス制度の特設サイトがリニューアルされました。こちらのサイトで制度を調べ、今から登録などの準備を整えておきましょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。
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