メンタルヘルス不調の社員を早期発見するコツと対策
社会保険ワンポイントコラム
1960年代に日本は第3次産業が最も多い割合を占める国となりました。以来第3次産業の割合は増え続け、それとともに労働者のメンタルヘルス不調が産業衛生の大きな問題となっています。今回はメンタルヘルス不調の社員を早期発見するコツについてお話しします。
ストレスチェックは目的が違う
最初に強調しておきたいのは、ストレスチェック制度はメンタルヘルス不調の早期発見のためにあるわけではないということです。同制度の目的は二つです。まず受検した方が自分自身にストレスが溜まっているかどうかを確認すること。ストレスは自分自身で気づいていないことも多いからです。第二に、ストレスの高い従業員が多く存在する部署等があれば、これをきっかけに原因の解明や改善につなげることです。
着目点はKAPEや「2週間ルール」
ではどうやって早期発見すればいいのでしょうか。産業保健の世界ではKAPEを重視するべきだとされています。
A:安全=職場で安全行動をとっているか
P:パフォーマンス=パフォーマンスが低下していないか
E:影響=周囲への悪影響を及ぼしていないか
勤怠の乱れ、特にわずかな遅刻は要注意です。例え電車の遅れであっても。そこには職場に行きたくないという気持ちが現れています。もし仕事に積極的であれば、1,2本前の電車に乗っており遅刻していないはずだからです。またパフォーマンスが急に、あるいは徐々に落ちてきたという従業員も要注意です。多くの場合彼/彼女は何らかのメンタルヘルス不調を抱えています。
周囲への影響も大事です。何らかのメンタルヘルス問題を抱えていると、急に怒りっぽくなることが多いです。上司がこの状態になると部下が困ってしまいます。多くの場合、当の上司本人は自分が怒りっぽくなっていることに気づいていません。むしろ周りの方が雰囲気やうわさから気づきやすいです。
KAPEの他に、服装の乱れ(もともと乱れている従業員を除く)なども不調を見抜くコツになります。また、「2週間ルール」というものもあります。2週間前と比べて従業員が落ち込んでいるように見えるかどうかを2人以上で判定するものです。2人ともが変だなと思っていたらメンタルヘルスの問題を抱えている可能性が高くなります。
メンタルヘルス不調の主な原因
こういったメンタルヘルス不調に陥る原因にはどういったものがあるのでしょうか。
大きく分けると次の6つが挙げられます。
②仕事の質
③職場の人間関係
④プライベートな問題
⑤大きなミス
⑥自分や会社の将来性
この中で特に問題になるのは①~④です。
①仕事の量に関しては残業時間が一番参考になります。少なくとも月45時間以上の残業はストレスや突然死の原因になります。
②仕事の質についてわかりやすいのは例えば飛び込み営業です。向かない人をここに配置した場合あっという間につぶれます。逆に向いている人は生き生きと働きます。最近はコロナ禍の影響で在宅ワークが増えましたが、それにも向き不向きがあることがわかっています。
③職場の人間関係はおそらくもっとも多い悩みです。ほとんどの場合直属の上司がこの原因なので、斜めの関係(隣の課の課長など)のサポートが重要になります。また社外で支えてくれる人、具体的には家族や友人などがどのくらい存在するかというのも大切なポイントになります。
④プライベートな問題。大きな借金を抱えたとか、自分や家族が大病をしたなどです。プライべートな問題は職場からの介入は難しく、また職場に知られたくない人も多いため、守秘義務を負っている産業保健職(産業医・保健師)等に任せたほうがベターでしょう。
発見したらどう対応する?
さてメンタルヘルス不調に陥っている従業員を早期発見したら、どう対応すればいいのでしょうか。
産業保健スタッフがいる職場でしたら、「僕には心配に見える。一回、産業医(保健師)の面談に行ってみないか」と伝えるのがお勧めです。
相手の悩みを直接聴いてあげるのもいいでしょう。その際のコツは、こちらの判断を挟まずただ聞くことに徹することです。「傾聴」と呼ばれる技術ですが、訓練無しにやるのは結構難しいです。つい口をはさみたくなります。管理職以上の方はこういった傾聴技術を身に着けることも有効です。傾聴の研修をやっている会社は複数ありますので利用するのも一法でしょう。
ABOUT執筆者紹介
神田橋 宏治
総合内科医/血液腫瘍内科医/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルタント/合同会社DB-SeeD代表
東京大学医学部医学科卒。東京大学血液内科助教等を経て合同会社DB-SeeD代表。
がんを専門としつつ内科医として訪問診療まで幅広く活動しており、また産業医として幅広く活躍中。
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