介護と仕事の両立制度について 法改正のポイントを解説!
社会保険ワンポイントコラム
毎年4月は法改正が多く施行される時期でもあり、令和7年度の法改正の一つに「育児・介護休業法」があります。
今回の記事では「介護と仕事の両立」にクローズアップします。介護と仕事を両立している労働者が増えている中で、会社としては離職防止のための措置を講じ、労働力を確保する取り組みも必要です。
基本的な制度を押さえた上で、法改正のポイント及び両立支援のポイントを解説します、
1 介護休業等の基本制度~6つの制度内容~
最初に介護休業などの基本制度の概要をあらためて確認していきます(詳しい内容については、厚生労働省ホームページでご確認ください)。
なお、介護休業制度に関わる「要介護状態」とは『負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態』としています。
まずは「6つの制度」があることを押さえていきましょう。
介護休業
労働者が要介護状態にある対象家族を介護するための休業です。対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。
介護休暇
労働者が要介護状態にある対象家族の介護や世話をするための休暇です。対象家族が1人の場合は、年5日まで。対象家族が2人以上の場合は、年10日まで取得できます。
所定外労働の制限(残業免除)
労働者が要介護状態にある対象家族を介護するために申請した場合、会社は所定外労働(就業規則などで定められている勤務時間を超える労働)を免除しなければなりません。
時間外労働の制限
労働者が要介護状態にある対象家族を介護するために申請した場合、会社は、1か月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。
深夜業の制限
労働者が要介護状態にある対象家族を介護するために申請した場合、会社は深夜に働かせてはいけません。
短時間勤務等の措置
労働者が要介護状態にある対象家族を介護するため、以下のいずれか1つ以上の制度を設ける必要があります。
- 短時間勤務の制度
- フレックスタイムの制度
- 始業又は終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げる制度(時差出勤の制度)
- 労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度
2 介護休業等に関する法改正~令和7年4月より~
次に、介護休業等に関して、令和7年4月より法改正をされる4つの内容を確認していきます。
なお、今回の法改正では介護休業等に関するものの他に「育児休業に関するもの」も数多くありますので、厚生労働省ホームページでご確認ください。
~法改正①~介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
労使協定による「継続雇用期間6か月未満除外規定」が廃止されます。労使協定を締結している場合は就業規則等の見直しが必要です。
~法改正②~介護離職防止のための雇用環境整備
介護休業等の6つの制度について、労働者の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下のいずれか1つ以上の措置を講じなければなりません。
- 6つの制度に関する「研修の実施」
- 6つの制度に関する「相談体制の整備(相談窓口設置)」
- 自社の労働者の6つの制度の利用の「事例の収集・提供」
- 自社の労働者へ6つの制度の「利用促進に関する方針の周知」
~法改正③~介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
「介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認」と「介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供」の2つを実施することが必要です。
介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認
介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する以下の事項の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を、個別に行わなければなりません。
(周知事項)
- 6つの制度の内容
- 6つの制度の申出先(例:人事部など)
- 介護休業給付金に関すること (個別周知・意向確認の方法)
「① 面談」「②書面交付」「③FAX」「④電子メール等」のいずれかの方法(①はオンライン面談も可能。
③④は労働者が希望した場合のみ)
介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供
労働者が介護に直面する前の早い段階で、介護休業や介護両立支援制度等の理解と関心を深めるため、事業主は介護休業制度等に関する以下の事項について情報提供しなければなりません。
(情報提供期間)
「労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)」または「労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間」のいずれかの期間。
(情報提供事項)
- 6つの制度の内容
- 6つの制度の申出先(例:人事部など)
- 介護休業給付金に関すること (情報提供の方法)
「① 面談」「②書面交付」「③FAX」「④電子メール等」のいずれかの方法(①はオンライン面談も可能)。
~法改正④~介護のためのテレワーク導入(努力義務)
要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されます。
3 介護と仕事を両立する上でのポイント
~ポイント①~「ビジネスケアラー」の離職防止に向けて
仕事をしながら家族の介護に従事する、いわゆる「ビジネスケアラー」が問題化されています。
経済産業省では、ビジネスケアラーの数は増加傾向であり、2030年時点では約318万人に上り、経済損失額は約9兆円と試算されています。
特に働き盛りを迎える40代に入っていくと、介護に直面する労働者も増えていきます。
会社は介護と仕事の両立を支援し、離職防止をすることで、労働者の確保をすることがより一層求められていきます。
経済産業省では「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表し、企業が取り組むべき介護両立支援のアクションなどを示していますので、ぜひご参考ください。
~ポイント②~早い段階での周知を通じて、会社としてのメッセージを
今回の法改正のポイントの一つに「介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供」を求めています。会社としては、介護休業などの制度を従業員が知らないで離職をすることを防止することにもなりますし、従業員としても介護に直面する前に、介護を他人事と捉えずに意識を高める機会ともなります。
周知の際に、ぜひ会社として制度内容を伝えるに留まらず、介護と仕事の両立を支援するメッセージ(経営方針など)を伝えていきましょう。
実際に、40代になる前の若い年齢から介護に従事している労働者もたくさんいます。
従業員同士でも、介護と仕事の両立を尊重できる職場風土づくりが大切であり、そのためには会社としての主体的なメッセージが不可欠です。
~ポイント③~「介護の両立制度」と「育児の両立制度」で相乗効果を
一方で、毎年、労務に関する法改正がある中で、その対応に向き合うことは会社も大きな労力を伴います。できる限り、効率的に取り組むことが求められます。
「介護の両立制度」については、やはり「育児の両立制度」と両輪で取り組むことが効果的です。
育児・介護休業法に基づき、介護と育児は同じような枠組みなので、今回の法改正をきっかけに改めて整備することが大切です。
また「介護との両立に取り組む従業員」と「育児との両立に取り組む従業員」が増えることで、多様なワークライフバランスを尊重する職場風土へもつながっていきます。
【参考】
- 厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
- 経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
ABOUT執筆者紹介
社会福祉士・社会保険労務士 後藤和之
昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの様々な業務に携わり、特に福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。現在は厚生労働省委託事業による中小企業の労務管理に関する相談・改善策提案などを中心に活動している。