法人成りとは?個人事業主が自分で手続きするときの流れを解説①概要決定~登記
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「そろそろ法人成りしたい」。そんな風に感じるタイミングが個人事業主に訪れることがあります。個人事業主として行ってきた業務を法人に移す「法人成り」はどんな手続きが必要なのでしょうか。2回にわたって解説します。1回目の今回は登記までの流れです。
登場人物
よっちゃん(以下「よ」):まゆこの夫。行政書士。仕事はできるが税金はくわしくない。特技は料理と釣り。夢は釣り三昧の日々。
まゆこ(以下「ま」):税理士・税務ライター。「こむずかしい税金をいかに分かりやすく表現するか」ばかり考えている。趣味は、よっちゃんのごはんを食べること。
法人成りで多い「株式会社」「合同会社」の違いとは
よ「わりと多い法人形態は2つ。株式会社と合同会社」
ま「どう違うの?」
よ「一言で言うと『所有と経営が分離されているかどうか』。株式会社は分離されている。『所有は株主、経営は取締役』という具合にね。合同会社は分離されていない。他にも、こんな違いがある」
法人成りの手続き
よ「法人を作るときの手続きを株式会社の場合で説明していくね」
1.会社の概要を決める
ま「最初に会社の概要を作るって…定款じゃないの?」
よ「どういう事業をするのか、会社名をどうするのか、細かいことを決めておかないと定款を作れないでしょ。こんな内容を決めるよ」
会社概要のポイント
よ「ポイントはこんな感じ」
よ「会社の代表者は2名以上でもいい。株式会社も合同会社も。いわゆる『共同代表』だね」
ま「『商号』『本店』って何?」
よ「『商号』は社名、『本店』は本社住所のこと。どっちも法律用語だよ」
ま「他に気にした方がいいことはある?」
よ「印鑑の大きさかなぁ。制限があるんだよ。一辺が10mmの正方形を全て塗りつぶせる大きさで、一辺が30mmの正方形の中に納まるものでないとダメ。はんこ屋さんで『法人の代表印がほしい』と言えば、ちゃんとしたのを用意してくれるよ」
会社の事業に必要な条件にも注意
よ「いろいろ言ったけど、イチバン大事なのは『事業を行うのに必要な条件をぜんぶクリアしているかどうか』」
ま「どういうこと?」
よ「酒の販売なら税務署の許可が必要。定款の目的に酒販売の決まった文言が必要。取締役の経営者としての経験も問われる。こういう条件を無視して会社を作って登記すると、後日、定款や登記を変更しないといけない」
法人成りの手続き②定款作成
ま「定款って何?なんで必要?」
よ「定款は会社の基本的なルールを定めたもの。『会社を作ろう』と決めた発起人全員の同意の下に作られる」
ま「さっき決めた会社概要を見て作るのね」
よ「そうだけど、定款の作り方にも決まりがある。必ず書かなきゃいけないことがあるし。わからなければ、専門家に相談した方がいい。」
ま「サンプルがあるといいね」
よ「法務局や公証人連合会のWEBサイトにあるから、それを見るといいんじゃないかな」
よ「合同会社は、定款を公証人に認証してもらう必要がない。だからこそ注意しないといけない」
ま「なんで?」
よ「自分たちで作った内容がそのまま会社の正式な定款になるからだよ。間違いがあったら大変だよ」
ま「そうか」
【株式会社の定款サンプル】
〇×▲株式会社 定款
第1章 総則
(商 号)
第1条 当会社は、〇×▲株式会社と称する。
(目 的)
第2条 当会社は、次の事業を行うことを目的とする。
1.衣料品の販売
2.食料品の販売
3.飲食店の経営
4.前各号に附帯する一切の事業
(本 店)
第3条 当会社は、本店を〇〇県▲▲市に置く。
法人成りの手続き③定款認証(株式会社のみ)
よ「定款認証は、公証役場で定款が正当な手続きにより作成されたことを証明すること。株式会社には必要だよ」
ま「なんで合同会社は不要なの?」
よ「株式会社は所有(株主)と経営(取締役)が分離されているからだよ」
ま「?」
よ「定款がもし法律に則らず、あやふやだったりしたらどうなる?」
ま「所有(株主)と経営(取締役)との間でトラブルになりそう」
よ「そう。設立自体が無効、ということもあり得る。そうすると会社の取引先が困るでしょ」
ま「うん」
よ「トラブルを防ぐために株式会社は定款認証が必要。でも合同会社は会社の所有と経営が同じでトラブルの可能性が低い。だからいらない」
よ「定款認証には費用と添付書類が必要だよ」
【紙の定款認証に必要なもの】
- 印鑑証明書(発起人全員分)
- 定款(紙で認証してもらう場合。清書したものを3部用意)
※公証役場によっては、身分証提示を求めることも
【電子の定款の認証に必要なもの】
- 印鑑証明書(発起人全員分)
- 定款(PDF)
- マイナンバーカード
よ「電子定款を使うと印紙代を節約できるけど、ソフトの準備が必要なので専門家じゃないと難しいかもしれない」
法人成りの手続き④設立書類の準備
よ「次は登記。登記は社会に『こんな会社がありまーす!』と知らしめるために必要なんだよ。登記の前に、次の書類を作らないといけない」
よ「ちなみに書類のサンプルは、法務局のWEBサイトにあるよ。でも心配なら司法書士など専門家に頼んだほうが良い。登記も含めてね」
ま「どうして?」
よ「作成した書類の通りに登記されるからだよ。間違えないように気をつけないと」
法人成りの手続き④登記申請
よ「こういった書類が揃ってから登記申請をするよ。さっきの書類が揃ってから行う」
ま「登記も電子申請はあるの?」
よ「オンライン申請がある。でもあまりメリットがないから紙でもいいと思う」
注意点
ま「法人成りならではの注意点について教えてもらえる?」
現物出資は評価が難しい
よ「設立そのものは、ゼロから法人化と同じだけどね…あるとしたら現物出資の評価かな」
ま「事業用の固定資産そのものを出資するというものね」
よ「出資の金額をどうするかが難しいんだよ。5年前に30万円で買ったノートパソコンを現物出資すると、そのときの時価がいくらなのかが客観的に分からない」
ま「間違えるとどうなるの?」
よ「取締役がお金を出さないといけないことがある。出資の内容を確認するのは取締役の仕事だからね。定款に書いてある金額より実際の価格が低くて資本金が足りなかったら弁償しないといけない」
事前相談した方が安心
ま「定款も登記も書類が細かいよね。なんでだろ」
よ「すべての会社が共通の基準で手続きされていることが重要だからだよ。でも会社っていろいろあるでしょ。だから書く内容も書類も細かくせざるを得ないんだよ」
ま「ひゃああ」
よ「めんどうだけど、商取引の安全のためには仕方ない。心配なら事前に相談した方がいい。法務局とか公証役場とか」
ま「そうね。手続きそのものはシンプルだけど、大変だしね」
よ「独特の言い回しも難しいだろうから、事前相談をしておいた方が安心だよ」
2回目は、税務・労務の手続きについて説明します。
ABOUT執筆者紹介
行政書士 鈴木良洋
1974年生まれ。1996年行政書士試験合格、1998年中央大学法学部政治学科卒業。2002年行政書士登録。建設業、司法書士事務所、行政事務所勤務を経て2004年独立開業。20年超、外国人の在留手続を専門に外国人の起業・経営支援を行う。これまでの取扱件数4000件超。元ドリームゲートアドバイザー。
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。