15 November

経営相談の現場から[シリーズ第5回]これから創業する私にも融資してもらえますか?

掲載日:2024年11月15日   
起業応援・創業ガイド

筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。今回はこれからお店をオープンするEさんからいただいた、融資に関するご相談を取り上げます。

創業の必要資金を自己資金だけでまかなえないケースは多い

Eさん 「韓国食材のお店のオープン準備をしています。キムチや韓国海苔、韓国で人気のお菓子などを扱います。韓国の友人に協力してもらって国内外の仕入先を確保しました。店舗物件は、ちょうどよいコンビニ跡の物件を見つけました。」

筆 者 「順調そうですね。コンビニの居抜き物件なら工事費も比較的抑えられるのではないですか?」

Eさん 「いやぁ、物件の初期費用と内外装工事、最初の仕入れ費用、それらの見積を集めてみたのですが、なんと総額600万円でした。お店が軌道に乗るまでの赤字や広告費も足したら、必要な資金総額は800万円くらいでしょうか・・・こんなにかかるなんて。自己資金は300万円なので、あと500万円も足りません。」

筆 者 「お店を構えるとなるとやはりそれなりにかかりますね。全額を自己資金でまかなうのは大変ですから、足りない分を金融機関からの借入で補う方は多いですよ。」

未創業で融資の相談に乗ってもらえるところはある?

Eさん 「まだ創業していないのに、融資の相談に乗ってもらえる金融機関があるのでしょうか?」

筆 者 「未創業や創業したばかりの方は信用力が乏しいので、融資相談できる先は確かに限られますが、それでも低金利で借りられる公的な融資があります。公的な融資の相談先は次の2つです。」

  • 日本政策金融公庫(創業融資)
  • 地方自治体(地方自治体・金融機関・信用保証協会が連携して提供する「制度融資」)

Eさん 「日本政策金融公庫は聞いたことがあります。」

筆 者 「中小企業や創業企業のために国がつくった金融機関として、よく知られていますよね。民間の金融機関を補完する役割を担っていますから、信用力が乏しい創業者への融資にも積極的に対応しています。Eさんのケースももちろん相談に乗ってもらえますよ。」

Eさん 「もうひとつは地方自治体ですか。役所からお金を借りるのですか?」

筆 者 「いいえ、地方自治体には融資をする機能はありません。地方自治体、民間金融機関、信用保証協会という公的機関、この三者が連携して、民間金融機関が融資をするしくみです。信用力が乏しい事業者や創業者が資金調達しやすくするためのしくみで、“制度融資”といいます。自治体によって制度の内容が異なるので、お住まいの自治体の役所に問い合わせてみましょう。Eさんのような創業前の方も問題なく相談に乗ってもらえます。」

決算書がないのに、どうやって審査されるのか

Eさん 「事業資金の融資では決算書を提出するものですよね。私はまだ創業していないので決算書を出せません。どうやって審査されるのですか?」

筆 者 「決算書の代わりに事業計画書で審査されます。未創業の方だけでなく、創業して間もない方も事業計画書を求められます。事業計画書には、事業内容の説明文と、向こう1年程度の収支計画と資金調達計画といった数字の計画を記載します。」

Eさん 「難しそうですね。私にも作成できるでしょうか。」

筆 者 「事業計画書は所定の様式がありますが、専門家に相談しながら作成するとスムーズです。税理士さんや、自治体の経営相談窓口などで相談に乗ってもらえますよ。」

創業者向けの融資の審査は、やさしい?厳しい?

Eさん 「公的な融資ということは、審査はやさしいのかしら。申し込めば誰でも借りられますか?」

筆 者 「いいえ、公的な融資であっても、事業計画書などから返済能力をきちんと審査されますので、否決されることもあります。ですがやはり公的な融資には“出来る限り前向きに創業支援しよう”というスタンスがありますから、堅実で具体的な事業計画書をしっかり作成すれば、成功率は決して悪くありません。日本政策金融公庫も自治体の制度融資も、審査の考え方や難易度は同じです。」

Eさん 「どれくらい借りられるものでしょうか。」

筆 者 「日本政策金融公庫の『新規開業実態調査』によると、創業者への融資金額は平均800万円前後となっています。自治体の制度融資もあまり変わらないと思います。私が実際に見た事例では、100万円程度から1000万円程度まであります。Eさんのようにお店の内外装工事を伴うケースだと600万円から1000万円くらいの融資を申し込む方が多いですね。」

公庫と自治体(制度融資)、どちらを選ぶ?

Eさん 「日本政策金融公庫と自治体の制度融資、どちらを選べばよいでしょうか。」

筆 者 「急いでいる場合は、日本政策金融公庫がおすすめです。金利などのコスト負担を抑えたい場合は、自治体の制度融資がおすすめです。」

筆 者 「まず、コスト負担については、日本政策金融公庫の金利も低めですが、自治体の制度融資では、自治体によっては実質負担ゼロになることもあります(自治体によって制度内容は異なります)。多くの自治体では、金利や保証料の一部を補助するなどして創業者の負担を軽減する仕組みがあります。その補助のおかげで金利や保証料の負担がかなり軽くなるんです。」

筆 者 「次に、審査にかかる期間ですが、自治体の制度融資では数か月ほどかかることが多いようです。私が実際に見た事例では、短くても1か月程度、長いと3か月程度、平均的には2か月程度といったところです。自治体・金融機関・信用保証協会と関係者が多い分、手続きが多いのです。一方、日本政策金融公庫の場合は日本政策金融公庫の中で手続きが完結しますから、数週間程度とスピーディです。」

Eさん 「多くの自治体が利息を補助してくれるというのは知りませんでした。私の住んでいる自治体ではどうなのか、調べてみます。」

臆することなく公的な創業融資に挑戦を

創業を後押しするための公的融資は、ぜひ積極的に活用したいところです。しかし「公的融資はしくみが分かりにくい」という声をよく聞きます。情報が一か所にまとまっていないので全容をつかみにくいこと、相談先が分かりにくいこと、などが要因ではないでしょうか。

創業者でも借りやすい融資として、ネット銀行や都市銀行などが提供している「ビジネスローン」と呼ばれるハードルの低い融資商品もあります。分かりやすい広告でアピールされており利便性も高いので手を伸ばしやすいのですが、一般的な融資よりも金利が高く、金額も小さいものです。創業期の資金需要は実際のところ満たせないことが多いでしょう。実際、本記事で取り上げたEさんのように数百万規模で調達が必要なケースは、ビジネスローンでは対応できません。

本記事をきっかけに公的な創業融資の理解を深めていただき、創業前でも臆することなくぜひ挑戦してみてください。

ABOUT執筆者紹介

経営コンサルタント 古市今日子

株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士

外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積み、2016年独立。
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営指導員などを務める。
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件

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