2025年以降、DX化を推進しない企業が生き残っていくのは難しい時代になる
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日本企業のDXが進まないと、2025年以降は毎年12兆円の経済損失が生じる
経済産業省は2018年に「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」を発表し、これまでの非効率なビジネスのやりかたを続けた場合、2025年以降に毎年最大12兆円の経済損失が生じると予測しました。これを「2025年の崖」と呼び、経営者の中でも「DX」という言葉がバズりました。
経済産業省は企業が自己診断できる「DX推進指標」を2019年に策定したところ、日本のDXは諸外国と比べ想定以上に遅れていることがわかりました。その後コロナ禍に突入し、テレワークやビデオ会議などが普及しIT化が進んだように見えたのですが、2020年の自己診断でも9割以上の企業がDXに未着手でした。
2020年に経済産業省が発表した「デジタルガバナンス・コード2.0」ではDX化を推進するため、経営者に求められる対応をまとめています。ここで、DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。
DXという言葉の提唱者である、スウェーデンのエリック・ストルターマン教授は「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる概念」と定義づけています。他にも、「AIやIoT、ビッグデータを活用して、ビジネスモデルを根本的に変革すること」と紹介されることもあります。
これらの定義を耳にして、AIやIoTという聞いたことがある単語に飛びついた経営層が、DXの理解をしないまま動き出すケースがあります。デジタルに詳しい中間管理職をDX担当に任命し、AIやIoTを使って「何か」するように指示するのです。これではほとんどの場合、失敗します。明確な目標がないのですから当然です。
企業の状況に応じて、DXを推進するにあたり、段階を踏む必要があります。まずは「デジタイゼーション」、そして「デジタライゼーション」。その後に、DXがあります。下準備ができていない状態で、一足飛びにDXを実現することはできないのです。
DXへ向けての最初の一歩「デジタイゼーション」
「デジタイゼーション」はアナログ・物理データのデジタルデータ化です。業務で扱うデータが物理的な媒体であったり、ワークフローにアナログ的な手段が入っていると業務効率はいつまで経っても変わりません。
とは言え、デジタイゼーションは大仰な物ではなく、私たちの生活にすでに入り込んできています。例えば、紙の手帳で管理していた予定は、スマホのカレンダーに置き換えられます。毎朝、経理の担当者が通帳を持って銀行に行き、記帳や振込みを行っていたルーチンも、ネットバンキングで処理できればスマートです。
今までは必ず会議室で顔を合わせていた打ち合せや会議も「Zoom」や「Meet」などのビデオ会議ツールで行えるようになりました。コロナ禍で減少したオフィスでの雑談も「LINE WORKS」や「Slack」などのビジネスチャットツールでコミュニケーションできるようになっています。
ずっと昔から言われ続けていて、まだまだ対応できていない企業が多いのが「ペーパーレス化」です。業務フローの中に紙が入ると、そこで様々なデメリットが発生します。物理的にその紙が手元に必要だったり移動させる必要がある、紛失の可能性がある、業務が属人化する、セキュリティが弱い、紙や印刷・廃棄・保管に関するコストがかかるなど、デメリットはとても大きいのです。
紙の情報を電子化できれば、従業員にタブレットやPCを渡して情報の共有やアップデートが可能になります。紙代や印刷代はかからず、保管場所に頭を悩ませる必要もありません。
ちなみに、Excelにデータを記録しているからといって、「デジタイゼーション」されているとは限りません。見た目を重視してセルをデザインし、データとして使いものにならないような形で入力しているケースが散見されます。「神Excel」(神を同音異義語の紙とかけたネットスラング)と揶揄されていますが、いまだに自治体などでも利用されています。この場合は、再利用できない、という点で紙と似たような状況になります。
「デジタライゼーション」で業務効率化を実現する
「デジタライゼーション」は個別の業務・製造プロセスをデジタル化することです。例えば、契約書では、今まで紙に印刷し、収入印紙を貼り、押印していましたが、これは大きな手間が発生しますし、コストもかかります。電子契約であれば、すぐに契約処理を進められるうえ、コストも抑えられます。「クラウドサイン」や「Adobe Sign」といった電子契約サービスが有名です。
これまでの企業は社用車や支店を持っていましたが、カーシェアリングやシェアオフィスといった形も広まっています。借主が所有することなくサービスとして利用できる「シェアリング・エコノミー」という仕組みを賢く使うことで、コストの削減や弾力的な運用ができるのが特徴です。
人が行っている単純作業を自動化するというのもデジタライゼーションです。例えば、申請された交通費を人の目でチェックし、判定結果をExcelに書き込むといった作業です。他にも、毎朝、競合製品・サービスの価格を調べて書き出したり、毎月、複数の部門から吐き出されるCSVをまとめる、といった作業に時間を取られているケースがあります。そんな作業を「RPA(Robotic Process Automation)」というツールで自動化することで、人の手による作業量を大幅に削減できます。その分、人間は付加価値の出る作業に集中できるようになります。
「IoT(Internet of Things)」はモノのインターネットと呼ばれ、今後爆発的な普及が見込まれています。スマホやPCをはじめ、冷蔵庫やレンジ、車、建物までがインターネットにつながり、様々なサービスが利用できるようになっています。
ビジネスシーンでも、業務プロセスにIoTを採用するシーンが増えてきました。例えば、従来は人が訪れて確認していた水道やガスの検針をIoT化し、データを自動的にアップロードすることで、人の手をかけずに集中管理できるようになりました。
ロボットもすでに活用されています。例えば、ビルの警備員には人手不足という課題があるのですが、ここにロボットを導入することで解決した事例があります。センターにいる一人のオペレーターがロボットからの映像を見ることで、同時に複数のビルを監視できるのです。
広告も新聞・雑誌・ラジオ・テレビというマスコミ4媒体から、インターネットへ軸足を移しています。2021年にはなんとインターネット広告費が、マスコミ4媒体の広告費の合計を超えています。
「DX」で新しい価値やビジネスモデルを生み出す
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革を指します。
例えば、タクシーです。以前は配車してもらうならタクシー業者に電話する必要がありました。路上で捕まえたいなら通りがかるまで待って手を挙げなければいけません。しかし、「GO」のようなタクシー配車アプリを利用すれば、いつでもどこでも自分のいる場所にタクシーを呼べます。行き先もアプリで入れれば、ドライバーに指示する必要もなく、キャッシュレス決済をすれば到着時にお金を支払う必要もありません。以前とは次元が違うタクシーの乗車体験ができるようになっているのです。
Amazonは世界に先駆けてDXを実現して、巨大企業に成長しました。「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」という理念を掲げ、顧客ファーストのサービスを構築しました。買い物に行く、というアナログ行動をデジタライゼーションしたのです。さらにECサイトでの面倒な購入処理を撤廃し、1クリックで注文できるようにしています。また、「地球上で最も豊富な品揃え」をスローガンとして、今ではありとあらゆる製品を購入できます。関連の高い商品を提示してくれるレコメンド機能も早くから導入していました。
コンサルティングファームのマッキンゼーはDXを「Winner Takes All(勝者独り勝ち)の競争」であり、DXのリーダーとその他企業との間で会社のパフォーマンスに3~4倍の差が出てしまう、と述べています。その通り、Amazonは世界最大のEC企業となっています。
経済産業省と東京証券取引所、情報処理推進機構(IPA)は経営革新や収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業を「DX銘柄」として選定しています。「DX銘柄2022」は2022年6月に発表され、33社が選ばれており、そのうち中外製薬と日本瓦斯の2社がDXグランプリを獲得しました。
中外製薬はバイオ医薬品などの研究開発を行っている製薬企業です。2021年2月に成長戦略「TOP I 2030」を発表し、2030年には世界のトップイノベーターを目指すことを提示しました。DX推進のためのデジタル基盤として「Digital Innovation Lab」を用意し、社員のアイディアを具現化。400件以上のアイディアが集まり、10件以上の本番開発を実現しました。デジタル人材も体系的に教育する仕組みを構築し、データサイエンティストを100名以上を育成するなど、DXの王道を歩んでいます。
これから企業が生き残っていくためにはDXは必須です。そのためのデジタライゼーションが遅れれば、変革の時期は遅れていくだけです。デジタイゼーションさえできていない場合、コロナ禍でリモート勤務が拡大している現状では、業務が滞ったり、大量離職するというリスクがあります。
冒頭にも紹介したように、AIで何かしたい、といった手段と目的を取り違えた状態でDX化をスタートしないようにしてください。自社や社会の課題を解決したり、ユーザーのニーズに応えるため、ITの力を使って、新たな価値創造をするのがDXです。経営層がしっかりとDX戦略のビジョンを持ち、十分な人員と予算を確保し、そしてある程度のスパンを見て取り組む必要があります。
DXは一日にして成らず、です。しかし、何もしなければ消え去るのみです。最初の一歩は、今すぐにでも踏み出しましょう。
ABOUT執筆者紹介
柳谷智宣
ITライター/NPO法人デジタルリテラシー向上機構 代表理事
ホームページ
1998年からIT・ビジネスライターとして執筆活動を行っており、コンシューマからエンタープライズまで幅広い領域を手がけている。2018年からは特定非営利活動法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を立ち上げ、ネット詐欺や誹謗中傷の被害を減らすべく活動している。
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