働き方改革関連法の成立で中小企業にも義務化されるものとは?
社会保険ワンポイントコラム
「働き方改革関連法」が去る6月29日に可決・成立しました。そのうち、雇用対策法(改め「労働施策総合推進法」)については、7月6日の公布日に即日施行されています。実務に影響を及ぼすその他の法律については、2019年4月1日から順次施行されることになりました。今回は、中小企業にも大きな影響を及ぼす重要な改正事項2点について解説していきます。
年次有給休暇を使用者が強制的に取得させることを罰則付きで義務化(2019年4月1日)
長い標題ですが、正確に改正労働基準法第39条の趣旨を表現するとこうなります。本来、年休は労働者の権利ですから、使用者が口出しすることはご法度なのですが、敢えて「労働者に年休を取得させること」が使用者に義務付けられました。対象は、10日以上の年休が付与されている労働者で、毎年5日を時季指定して与える必要があります。もちろん、労働者が自ら時季指定して取得していれば、その日数分の指定は不要です。
使用者が時季指定するにあたっては、権利者たる労働者から意見を聴取、つまり希望を聴くことが必要です。また、労働者ごとに「年休管理簿」を作成して、3年間保存し、適正に管理することが義務化されました。使用者が時季指定したものの、労働者がその時季に年休を取得しなかった場合はどうなるか?残念ながら使用者の法違反となり罰則が適用されてしまいます。
年休取得率が低い中小企業では、まず各社員ごとの年休付与日(基準日)をチェックし、できるだけ基準日を揃えることから始めましょう。そのうえで、従前からの「計画年休」制度の導入を検討してください。また、「年休管理簿」が法定帳簿化されますから、これも既存の勤怠管理システムで対応可能かどうかを確認しておく必要があります。
法定時間外・法定休日労働の上限規制の罰則付き法定化(2020年4月1日)
法定労働時間は、1日8時間かつ1週40時間以内です。これを超えて労働させるには、労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署への届出が必要です。これは従前と変わりません。ただ、従前は時間外労働の時間数の限度が法定されていなかったため、長時間労働を助長していた側面がありました。このため、労働基準法第36条が改正され、原則的な時間外労働時間を月45時間・年間360時間と明記されました。また、臨時的・特別な場合は、年720時間かつ単月100時間未満(休日労働含む)かつ2~6カ月平均で月80時間以下(休日労働含む)とされました。いずれも罰則付きですから、企業としては絶対にこれらの時間を超えて働かせることはできなくなりました。
中小企業は、施行日が再来年4月ですが、直ちに時間外・休日労働の削減に取り組まないと間に合いません。一つの手法として、「時間外・休日労働の事前許可制」の導入が有効です。併せて、「変形労働時間制」の導入についても検討しましょう。また、各労働者の労働時間を逐次管理していかないと、複雑化した労働基準法第36条の遵守が難しくなります。「36協定の上限時間管理簿」を活用するなど、全社的な取り組みが必要となるでしょう。
最後に、忘れてはならないのが36協定締結に至る手続の適正化です。カウントすべき労働者の数や民主的な選出方法など、現状をもう一度見直してみてください。
大曲 義典 株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツABOUT執筆者紹介
社会保険労務士・CFP® 大曲義典