従業員が休職したいと言ってきたらどうする?押さえておきたい手続きを解説
社会保険ワンポイントコラム
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この時期は、公私共に様々な環境の変化が訪れます。五月病という言葉もあるように、これからの時期は急な環境の変化に対応しきれず、メンタル不調を起こしてしまう方も少なくありません。そもそも、メンタル不調に関わらず、病気はいつ誰の身に起こってもおかしくないことは言うまでもありません。そんなとき、社員から「病気休職したい」と言われたら、どのような手続きが必要でしょうか。今回は、病気休職時に必要な手続きを解説いたします。
休職に関する説明は、労使間で認識の齟齬がないようにする
就業規則に休職の規定がある場合には、まずは規定を確認しましょう。
どれくらいの期間休職可能なのか、どのような社内手続きが必要なのか、休職期間中は有給なのか無給なのか、休職期間中や復職時に必要な手続きは何か等、それらを改めて該当従業員に説明し、会社と従業員の間で、認識の齟齬がないようにしておきます。特に、休職から復職の一連の手続きに際して医師の診断書の提出を求める場合、その診断書作成費は労使どちらの負担なのかは明確にしておくことを推奨します。
休職時に気をつけたいことは、従業員への説明方法です。従業員は休職を申し出るような体調なわけですから、説明は本人に口頭で行うだけでなく、いつでも読み返せるように説明事項を書面でも交付しておいたり、場合によっては、ご家族同席の上で説明をする等の配慮も必要です。
休職中の所得補償として健康保険の「傷病手当金」を使う
休職する従業員が社会保険に加入している場合には、健康保険から「傷病手当金」が支給される可能性があります。傷病手当金とは、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されるものです。
傷病手当金は、以下の条件を満たす被保険者に支給されます。
- 業務外の病気やケガで療養中であること
- 労務不能であること
- 4日以上仕事を休んでいること
- 休んでいる期間中に給与の支払がないこと(給与支払いがある場合は傷病手当金から減額されます)
申請手続きは会社が行います。申請方法や必要書類は保険者によって異なりますので、何が必要か事前に保険者へ確認しておきましょう。また、申請には、医師の証明、事業主の証明、従業員の証明と、三者による証明が必要です。医師の証明が必要になるため、申請書の作成や必要書類の取得に時間がかかる場合もあります。そのため、申請書の作成は早めに開始すると良いです。
復職時の対応は慎重に行う
従業員が復職するときのことも考えておく必要があります。従業員から復職についての申し出を受けた際には、復職時にはどんな証明書類を提出してもらうのか、リハビリ勤務の有無や制度について等の説明をします。また、復職後に仕事が原因で病気の再発を起こさないよう、復職後の働き方や、そもそも本当に復職可能なのかは慎重に判断しなければなりません。そのため、復職の申し出後には、従業員から現在の体調や制限事項の有無等のヒアリングをすることが重要です。場合によっては、従業員の同意をとった上で、主治医へ意見を聞くことを検討します。
また、復職したからといって、急に100%の力では働けない場合もあります。医師から復職後の制限事項を提示されていたり、しばらくは通院が必要になるケースも少なくありません。このような場合には、復職先の上司や同僚の理解が必要不可欠です。本人だけでなく周囲への説明も行い、該当労働者が復帰しやすい環境を整えておくことも大切です。
自社で判断できないことは専門家への相談を検討する
復職させるのが正しいのか、休職中の対応や復職プランをどうすればいいかわからない等、社内だけでは判断が難しい場合には、専門家に相談するのも一つの方法です。該当従業員の主治医以外の医師の意見を聞きたい場合、まずは自社の産業医に相談するのが良いでしょう。産業医の設置義務のない小規模事業者は、各地に設置されている地域産業保健センターでの無料相談を利用することができます。
会社での安全衛生や労務管理という観点での不安や悩みの相談は、社会保険労務士や弁護士へ。また、復職後に治療と仕事の両立が必要な従業員への対応は、両立支援コーディネーターという資格を持つ専門家への相談も有用です。
スムーズな対応をするために手続きの整備を
休職時の手続きは、社内の手続き、傷病手当金等の公的な手続き等、多くの手続きや説明が発生します。抜け漏れがないよう、チェックリストを作成しておくとスムーズな対応が可能になります。休職対応は、適切に、迅速に行うことで、従業員の不安を取り除くことができます。休職を申し出る労働者が現れる前に、社内規則、各種手続き、使用できる公的機関等を確認しておき、いざという時に備えておきましょう。
統計によれば、労働力人口の3人に1人は何らかの疾病を抱えながら仕事をしているといい、病気休職は珍しいことではなくなりつつあります。休職制度がないという会社はこれを機会に制度設計を、既に制度がある会社は制度を見直してみるのも良いかもしれません。
参考:地域産業保健センター https://kokoro.mhlw.go.jp/health-center/
ABOUT執筆者紹介
内川真彩美
いろどり社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 / 両立支援コーディネーター
成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。
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