09 December

会社は新卒社員の「配属ガチャ」否定に屈してはならない

掲載日:2022年12月09日   
社会保険ワンポイントコラム

「配属ガチャ」とは何でしょうか?

「○○ガチャ」という言葉に不案内な方もおられると思うので、まずこの意味を簡単に説明しましょう。そもそも「ガチャ」というのは、カプセルトイまたはカプセルトイの販売機のことです。「ガチャポン」「ガチャガチャ」といったほうが馴染みのある方も多いかもしれません。「ガチャ」の特徴は、この自動販売機に入っている数多くの商品の中から何が出てくるかは、購入してみないと分からないことです。

ここから派生した使われ方として、親を選べない「親ガチャ」とか、子を選べない「子ガチャ」、遺伝子を選べない「遺伝ガチャ」などなど、個人の努力ではどうしようもないものが「○○ガチャ」という言葉で表現されているようです。

このように、「出てくるものがランダムで選べない」というのが「ガチャ」の大きな特徴です。「配属ガチャ」というのは、新卒社員が入社予定の会社の希望する勤務地や職種に配属されるかどうかを「ガチャ」になぞらえた言葉です。今の若者はなぜ配属先を気にするのか。そして会社はこのような若者にどう対応すべきなのかを考えてみましょう。

「配属ガチャ」はなぜ敬遠されるのでしょうか

昔を経験している「オジサン」たちにとっては、自分の希望どおり配属される人事などあり得ませんでしたから、「今どきの若者は何を考えているのか」と否定的な答えが返ってきます。オジサン側の筆者も、ついついそう考えてしまいがちです。以前はゼネラリストとして生涯一企業で働くことが社会の前提となっていましたから、どんなにエリートと見られている新卒社員でも、まずは最前線に配属されることがほとんどでした。そして「現場を知る」「人を知る」「地方を知る」ことにより、会社の抱える課題を考える機会を与えられました。そこには、スキルアップを図って有利に転職するなどの考えは微塵もなかったと思います。つまり、その会社で社長や役員に上り詰めることしか考えていなかったわけです。

ところが、最近の新卒社員は、未知の会社に入る前から配属先を気にするといいます。若い世代は、なぜ「配属ガチャ」という言葉で、これを否定するようになったのでしょうか。

昔に比べると、学校教育の現場で「合わない人とは付き合わなくて良い」という空気が広がっているそうです。そうすると、就職する会社を選ぶまでは進路や人間関係を自由に選んできた若者たちが、初めて自分で選べないものに直面するのが就職後の配属になります。日ごろ、価値観や属性が似通った人たちと付き合い、慣れ親しんだ場所で生活してきた若者にしてみれば、新しい場所や価値観が異なる人との人間関係は不安そのものに違いありません。この不安心理が会社が普通に行ってきた「配属ガチャ」への否定につながるのでしょう。また、将来への道筋が見えず不安が大きいことも、「早く自分の力を付けて、市場価値を高め、どこでも働けるようになること」が最優先すべき自身の安心安全策なのかもしれません。

会社は「ぬるま湯企業」であってはなりません

それでは、会社の側はどうでしょうか。働き方改革にみられるように社員の権利化が推し進められてきました。様々な事情を抱えた社員のために活躍の場を用意したり、配慮することは望ましいことです。ただ、「働きやすさ」ばかりに目が向き、個人の「働きがい」への配慮が足りないと、「ぬるま湯企業」となってしまうだけです。「ぬるま湯企業」では、仕事での責任を果たさずに権利だけを主張する勘違い社員が増えてきます。

終業時刻になると、仕事がまだ残っているにもかかわらず「もう時間ですから」と切り上げてしまう無責任社員、厳しい成果を求められることなく就業時間がなんとなく過ぎていく「お客様状態」の新入社員などなど。そのような就業環境は、個人の成長はもちろん、会社の成長をも妨げる大きな要因となります。ですから、「ぬるま湯企業」からは一刻も早く脱却しなければなりません。

会社は「配属ガチャ」の否定にどう対応すべきでしょうか

多くの会社に共通して言えるのは、「配属ガチャ」などという若者の入社意識に惑わされることなく、自社の経営理念や人材育成方針をしっかりと確立することです。普通に社員は「幸せ」を求めていますが、それは金銭欲や物欲、名誉欲といった「地位財型の幸せ」ではなく、社会的・身体的・精神的に良好な状態、つまり「非地位財型の幸せ」だと思います。

換言すれば、「働きがい」を求めているのです。「働きがい」のために「働きやすさ」が配慮されていれば、多様な価値観や事情を抱える社員が、それぞれに目的意識を持って自分なりの役割を果たし、努力や成果を周りから認められながら充実感を持って働くことができます。そうすることによって、会社の業績も成長も好循環を生んでいくのです。

そうであれば、会社は「配属ガチャ」を人材育成の重要なツールとして位置付けていることを、しっかりと認識してもらう必要があります。そして、若者の「配属ガチャ」否定を恐れることなく、彼らと積極的にコミュニケーションをとることです。そこに阿吽の呼吸など存在しないと観念しましょう。

転勤や異動の意味、会社の経営方針や将来への道筋、社員に身に付けてもらいたい能力や人材育成方針などをしっかりと面談で伝え、納得感をもってもらうことが肝要です。加えて、社員が希望する生き方、働き方に適合する多様な選択肢を可能な範囲で用意することも効果的だと思います。あまりにも採用時に「幻想としての優秀な人材」にこだわり過ぎるのもいかがなものかと思います。採用後の育成にこそこだわるべきではないでしょうか。

ABOUT執筆者紹介

大曲義典

株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役
大曲義典 社会保険労務士事務所 所長

関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。

原稿提供元株式会社ブレインコンサルティングオフィス「かいけつ!人事労務」

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