電子帳簿保存法 令和2年10月1日からの改正内容
税務ニュース
1. 電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、原則として紙での保存が義務付けられた帳簿・書類を電磁的記録(データ)で保存することを容認した法律です。1998年に施行されて以来、時代に合わせて何回か改正が行われてきました。特に近年は、少子高齢化が進むにあたって企業の生産性をあげることが急務であること、新型コロナウィルスによってリモートワークを行うためにはペーパーレスが必須であることから、注目される法律と言えるでしょう。
電子帳簿保存法は、大きく分けて次の2つによって構成されています。
( 1 )国税関係帳簿書類の保存方法の特例
原則として紙での保存が義務付けられている国税関係帳簿書類(仕訳帳、総勘定元帳、契約書、請求書等)について、一定の要件を満たした上でデータでの保存を認める特例です。帳簿の電子保存、書類のスキャナ保存等が該当します。この適用を受けるためには、あらかじめ所轄の税務署長に承認申請を行う必要があります。
( 2 ) 電子取引による取引情報を授受した場合の電磁的記録(データ)の保存義務
電子取引による取引情報を授受した場合の電磁的記録(データ)の保存義務を定めています。電子取引とは、例えば以下のものが該当します。
- EDI(Electronic Data Interchangeの略。企業間でのやり取りを自動化する仕組み)取引
- インターネット等による取引
- 電子メールによる取引(添付ファイルによる場合を含む)
- Webサイトを通じた取引
- FAXによる取引
- クラウドを利用したデータの取引
こちらは(1)と違って、「義務」ですので、あらかじめ所轄の税務署長に承認申請を行う必要はありません。保存措置その他の要件を満たした上で、データのまま保存することが原則です(紙に出力して保存することも認められています)。このデータの保存措置の要件が令和2年10月1日から改正になりました。
2. 電子取引データの保存措置の要件(改正前・改正後)
( 1 ) 改正前(令和2年9月30日以前)
改正前の令和2年9月30日以前までは、下記の保存措置の要件のいずれかを満たした上で、データの保存をすることが必要でした。
- データの受領後遅滞なくタイムスタンプを付与
- 正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理規定の備付け及び運用
1つ目のタイムスタンプとは、ある取引が発生した日時を示す文字列で、オリジナルのデータから改ざんされていないことを証明する技術です。一般財団法人日本データ通信協会が認定するタイムスタンプが必要となります。
2つ目の「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理規定」とは、データ保存を行うに当たり、訂正や削除の権限等を予め定めた社内規定です。自社のみで作成する場合と、取引先との間で作成するものがあります。
以上2つの要件を満たすには、特に中小企業にとってはコスト面、運用面からハードルの高いものでした。
( 2 ) 改正後(令和2年10月1日以降)
令和2年10月1日以降は、上記の保存措置に以下の要件も加えられ、選択肢が増えました。
- タイムスタンプが付与されたデータの授受
- 訂正削除できないシステム等を利用してデータを受け取った上で保存
1つ目の要件追加によって、データを交付する取引先があらかじめタイムスタンプを付与していれば、あらためて受取側でタイムスタンプを付与しなくても良いことになりました。タイムスタンプの導入負担が気になっていた企業にはメリットです。
また2つ目の要件追加によって、訂正削除できないシステム等を利用してデータを受け取った場合には、そのデータを保存することにより保存措置の要件を満たすことになりました。「訂正削除できないシステム等」とは、具体的には以下のものが挙げられます。
- データを訂正又は削除できないシステム
- データを訂正又は削除を行った場合の事実及び内容を確認することができるシステム
例えばクラウドシステムを利用してデータを取り込む場合に、訂正又は削除ができない、又は訂正や削除データが保存される場合に本要件が満たされることになります。
3. 電子データの保存を行うにあたっての注意点
令和2年10月1日に改正した電子データの保存措置について説明をしましたが、以下注意点があります。
( 1 ) 保存措置以外にも保存要件あり
電子取引によるデータをデータのまま保存するには、上記の保存措置の他、以下に掲げる要件も満たす必要があります。
- 保存場所・・・そのデータを作成又は受領した事務所又は納税地で保存(外部のサーバーにて保存も可能)。
- 保存期間・・・書面と同様、7年間(欠損金の繰越控除を行う法人は最長10年間)の保存が必要。
- 見読性の確保・・・ディスプレイやプリンタ等の出力装置、マニュアル等によって整然かつ明瞭な状態で速やかに表示できることが必要。
- 関係書類の備付け・・・データを授受するシステムが自社開発のEDI、クラウドシステム等の場合には、開発にあたって作成された仕様書その他マニュアル等の備付けが必要。
- 検索機能の確保・・・取引年月日や取引金額その他主要な項目での検索、日付での範囲検索、及び2以上の項目を組み合わせての検索が可能であることが必要。
( 2 ) 消費税の仕入税額控除の要件を考慮する
もうひとつ意識したいのが、消費税の仕入税額控除の要件です。対価が3万円以上のものについては、以下の事項が記載された書類の交付が仕入税額控除の要件となります。
- 書類の作成者の氏名又は名称
- 取引年月日
- 資産又はサービスの内容
- 税率ごとに区分して合計した対価の額
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称(小売業等の場合省略可)
今回の改正で追加された訂正削除できないシステム等を利用して受領したデータであっても、以上の項目が受領したデータに含まれていない場合には、仕入税額控除の適用を受けるために別途領収書等を保存する義務があるので、注意が必要です。
( 3 ) 経理の負担を考える
クラウドシステム等から受領したデータは、項目が各社異なっています。なかには、見ただけでは内容を判断しづらいものもあり、経理にかえって時間がかかってしまう事態も想定されます。このようなことを避けるためにも、経費を使ったその人が直接処理する、又は経理が処理するまでは領収書等をデータ等で保存するといったことが必要となるでしょう。
ABOUT執筆者紹介
代表税理士 戸村涼子
一般企業数社の経理・財務部門と税理士法人勤務を経て2016年4月に開業。DX分野に強みを持ち、クラウド会計をお使いの方の税務顧問を主に担当。講演や執筆活動も積極的に行い、2024年10月現在、2冊の共著、8冊の単著(電子書籍含む)を執筆。その他雑誌にも寄稿多数。
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