何かと話題になることが多い「育児休業」を取り巻く実務のあれこれ
税務ニュース
世界中のどの国もいまだかつて経験したことのない急激な人口減少、超高齢化に直面している日本。65歳以上人口の割合が25%を超え、4人に1人が高齢者という時代です。現在の出生率を元に人口を予測すると、2060年までに65歳以上の人口の割合は39.9%を占め、総人口は2060年には9,284万人にまで減少するという試算が出ているそうです。驚きの数字ですね。そんな時代にあって、少子化対策、子育て支援というのは、国の最重要施策のひとつ。
今回は、何かと話題になることが多い「育児休業」をテーマに、関連実務を深く掘り下げてみたいと思います。
そもそも産休と育休の違いって?
“産休”は出産予定日の産前6週間(双子などの場合は産前14週前)から産後8週間までの期間のことをいいます。それに対し、“育休”は、産休が終わった翌日から子どもの1歳の誕生日の前日までの期間をいいます。“産休”は出産する女性従業員だけが取得できるものであるのに対し、“育休”は男女ともに取得できます。男性従業員の場合は、子どもの出産日=育休開始日です。
出産を予定している方は、まずは自分がいつから産休に入り、いつから育休に入るのかを知ることが重要です。最近では、出産予定日を入力すると自動的に産休開始日、育休開始日を計算してくれるサイトもあります。
育休期間は原則子どもが1歳の誕生日を迎えるまでですが、保育園に入れない等の事情がある場合は、1歳半まで延長することが可能です。また、1歳半時点でなおその状況が続いている場合は、最長2歳まで延長することができます。
従業員はどんな手当がもらえる?
産休中にもらえるのが「出産手当金」です。ざっくりですが、社会保険料の等級の3分の2を1日単位で受け取ることができます。原資は健康保険です。国保の場合は対象外です。
育休中にもらえるのが「育児休業給付金」です。2か月に1回ハローワークに申請します。育休開始から最初の6か月間は日額67%、6か月経過後は日額50%となります。原資は雇用保険です。これを子が1歳になるまでもらうことができます。ただし、あくまでも復帰予定が前提です。職場復帰する意思がない人が育児休業給付金を申請することはできません。復帰する予定だった人が結果的に復帰しなかったとしても、遡って返還を求められることはありません。
【育児休業給付金】https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_continue.html
産休、育休中の社会保険料はどうなる?
所定の手続きをすることで、従業員側の社会保険料負担のみならず、会社側の社会保険料負担も免除になります。さらに産休に入る前の従前の等級で厚生年金を積み立ててくれます。誰も社会保険料負担をせず、将来の厚生年金にも反映してくれるという大変手厚い内容となっています。
また、時短復帰(1日8時間労働だった人が、1日6時間労働で復帰…等)した場合、社会保険料が下がります。それによって、通常であれば、将来の厚生年金の積み立ても少なくなってしまう訳ですが、「養育特例」という制度があり、所定の手続きをすることで、社会保険料の負担を減らしながらも、産休に入る前の高い等級で厚生年金を積み立ててくれます。
なお、社会保険料免除、養育特例ともに、子が3歳になるまで対象となります。
【社会保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)】https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/20140122-01.html
育休延長の場合の注意点
育休を延長する場合、保育園の利用申込をするところから始まります。その際、保育園の利用開始希望日を育休期間終了日以後の日付にしないよう注意が必要です。
例えば、3月15日生まれのケースで、保育園の利用開始希望日を“4月1日”と書いてしまうと、1歳以降の「育児休業給付金」がもらえなくなりますので、くれぐれもご注意ください。
会社側にはどんな助成金がある?
比較的使いやすい助成金は以下の3つです。
① 両立支援等助成金(育児休業等支援コース)
育休を取得させた企業に対し、「開始時」と「復帰時」に分けて、中小企業の場合で各285,000円ずつ申請することができます。(「有期契約労働者」と「正社員」で1名ずつ、1企業につき1回限り申請可能)
② 両立支援等助成金(代替要員確保時)
育休取得者の為の穴埋め人材の人件費補てんとして、中小企業の場合で475,000円の助成金を申請することができます。
③ 両立支援等助成金(出生時両立支援コース)
いわゆる“男性育休”助成金です。産後一定の期間内に連続5日間の育児休業を取得させた企業に対し、中小企業の場合で570,000円の助成金を申請することができます。
【両立支援等助成金】https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html
会社側の負担って何?
年次有給休暇については、育休中であっても通常の出勤と同等にみなして、勤続年数として加算され、有給休暇が当然に発生します。また、産休、育休については、従業員側から取得希望の申し出があれば、基本的にその申し出を断ることはできません(入社1年未満の者からの申出等、一定の例外もあり)。また、本人が希望する限り、原職復帰が原則です(罰則規定は特にありません)。おそらく会社側の一番の悩みの種はここだと思います。その間の人員の穴埋めをどうしよう?すぐに必要な人材が採用できるとは限らないし…仮に採用できたとしても、復帰後にその人に辞めてもらうことなどできるのだろうか…と。
この問題にどう対処できるかが一番のカギです。これについては、会社としてどこまでサポートしてあげられるか、よく話し合いをする他ありません。原職復帰をあくまでも原則としながらも、会社側、従業員側、それぞれが一方的に自分の要望を押し通そうとするのではなく、それぞれに歩み寄りのスタンスが必要かと思います。“多様な働き方“は時代のトレンドです。時短社員という復帰のさせ方も選択肢のひとつです。また、上記にあげた各種制度、給付金、助成金等を知ることは、双方にとってメリットがある方法、負担が少ない方法を探る手助けになるかもしれません。
今は、妊娠したら肩たたき…という時代ではありません。「取らせて元取れ」の時代です。安心して産休、育休を取れる会社というのは、長期的には従業員の定着率を高め、将来的によい人材を採用しやすくなる土壌を作ることでしょう。
ABOUT執筆者紹介
中山卓
社会保険労務士 キャリアコンサルタント 社会福祉士 保育士
社会保険労務士法人オフィスALPACA 代表社員
株式会社エンパワーメント・ジャパン 代表取締役
一般社団法人さくらキャンプ 代表理事
静岡県三島市出身。静岡県東部の会計事務所にて、主に福祉関係の顧問先を数多く担当。2013年より障害福祉事業に特化した社会保険労務士事務所として独立開業し、北は北海道、西は九州まで、オンラインと対面によるサポート体制により、全国の顧問先約200社超。2017年より放課後等デイサービス『さくらキャンプ』を立ち上げ、発達に課題を抱える児童の通所支援事業にも携わる。また、社会保険労務士による日本初の法律系ロックバンドWORKERS!のリーダーとしても活動中。「ロックで伝える社会保険」をテーマに社会保険、労働法をわかりやすく伝えるための活動を行っている。
社労士バンドWORKERS!と弁護士倉重公太朗氏と法政大学キャリアデザイン学部松浦ゼミの学生たちとのコラボ企画により「キャリア自律の歌 制作プロジェクト」が目下進行中。現在、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科在学中。
社会保険労務士法人オフィスALPACA
株式会社エンパワーメント・ジャパン
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社労士バンドWORKERS! オフィシャルWEBサイト
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