【吉本興業 芸人が解説】フリーランスは自分の仕事の相場を知るべきだ
税務ニュース
ぼくは東京国税局を退職して、吉本興業で芸人になりました。
アルバイトをしていた時期もありましたが、今では日々仕事を頂戴して、人並みの生活を送ることができています。稀に、「吉本興業からお給料をもらっているわけではないんですか」と聞かれますが、そうではありません。働いた分だけ、報酬をいただいています。
ぼくの場合は、記事を書いたり本を書いたり取材を受けたりするので、芸人であると同時にフリーランスであるとも言えます。かけだしの頃は、依頼があればどんな条件でも承諾していました。呼ばれれば伺ったし、過度な修正も「勉強になります」などと訳のわからないことを言って対応していました。
しかし、そんなことをしても仕事は増えないし単価も上がりません。平気でフリーランスを呼び出すような人間は良い仕事をくれないし、快く修正しても感謝しない。こちらの単位時間あたりの単価が下がるうえに、相手はこちらを軽んじます。下請けに徹するのではなく、互いに敬意を払う関係を築くことが、フリーランスとして長く生きていくためには必要だと確信しています。
また、相場感を持って、値下げの依頼に断固たる決意で対応することも重要です。
ぼくも自分の行う業務のしっかりとした相場感を持っています。
フリーランスは自分の仕事の相場を知るべき
例えば、ぼくの主な仕事を報酬の高い順に並べると、
講演会>イベントのMC>動画作成>営業≧取材≧執筆≧テレビ出演 になります。
芸人として売れているわけではないので、テレビ出演の報酬を気にすることはありません。依頼をいただけるだけで、地面に額をつけて感謝しています。むしろ、お金を支払ってでも出演したいくらいですが、そのような機会はありません。
なお、みなさんが家族でご覧になるようなテレビ番組の出演効果は絶大です。以前、大きな番組に出演した翌日に恵比寿の居酒屋で飲んでいたら、隣の大学生がぼくの話をしていたことがありました。
そうやって認知されることで、仕事は増えていきます。認知されていないと、フリーランスとしてどれだけ優秀であっても、依頼はやってきません。また、多くの場合、あなたの能力は客観的に判断できません。ましてや、業界の異なる人間であればなおさらです。だから、認知度があなたの評価やあなたへの好意に繋がります。
認知がなければ、依頼主はあなたの評価を低く見積り、報酬も下がります。それに対抗するためにも、相場を知って自分を守る必要があります。
ただ、相場を掴むまでには、時間がかかります。ぼくも講演料の相場や執筆の相場を把握するまでに、数年を要しました。たくさんの依頼を受け、同業者に報酬を聞いて、少しずつ認識を修正しました。「みんな、この仕事にはこれくらいの報酬を提示してくるな。次からこの価格を下限にしよう」などと考えて、相場感を形成すると良いと思います。
相場感で取引先の良し悪しを判断できる
相場感を持つと、報酬を提示した相手がどんな人間なのか判断することができます。個人的な経験では、著しく低い金額を提示してきた企業の担当者はミスや怠慢が多く、高い金額を提示してきた企業の担当者は対応や準備が丁寧です。報酬と対応は比例します。
「高い報酬を支払う人であれば、多少面倒でもいい」
そう思っていても、高い報酬を支払う人が面倒であることはほとんどありません。高い報酬は、あなたを大切に思い、あなたの仕事に敬意を払っていることを表しています。値切ってきたり、相場と乖離した金額を提示してきたりする人の方が、あなたに負担を強いてくると思います。決して、「低い報酬ですみません」と負い目を感じるようなことはありません。多くの場合、あなたの厚意は裏切られることになります。
「報酬はいくらですか」と聞かれたら
報酬の決定にあたっては、依頼主から報酬を提示される場合と、こちらからの見積もりを要求される場合がありますが、初手でぼくから見積もりを出すことはしていません。相手に「意外と安いな」と思われることがないと考えているからです。あなたが、その業界の一般的な価格より低い金額で仕事をしているのなら、価格を全面に押し出して受注する方法は有効だと思います。
しかし、そうでないならば、依頼主が提示してくれるのを待った方がいいでしょう。そうすれば、相手は可能な限り相場を把握してから、適正な金額を提示してくれます。相場を把握させずにあなたが金額を提示すると、悪い印象を持つ方もいます。
ぼくもフリーランスになったばかりの頃は聞かれれば価格を答えていましたが、それで契約がうまくいったことがありません。価格だけ聞いて、返事すらない方も複数いました。どのようなフリーランスに話を聞いても、「自分から価格を提示した方がいいですよ」と言う方はいないと思います。
なお、相手に価格を提示してもらっても、あなた自身が相場を把握していないと意味がありません。相手の提示額をそのまま受けることになります。もしかしたら、それは同業のフリーランスよりはるかに低い価格かもしれません。
これは依頼主からすれば良いことですが、業界の成長を阻害します。みんなで最低価格を守っていかないと、値崩れを起こして、業界に従事する人々の評価が下がってしまうからです。
以前お会いしたイラストレーターさんは、「自信がないので、相手に言われるがままの金額で契約しています」と言っていました。フリーランスになったばかりだと、自分の仕事に自信が持てず、依頼があるだけで嬉しい。気持ちは理解できます。
能力に見合った価格をつけることは大切ですが、その価格が正しいかどうかの判断は必要です。
フリーランスになったら相場を把握し、自分の能力に見合った価格をつけるようにしましょう。
ABOUT執筆者紹介
さんきゅう倉田
大学卒業後、東京国税局に入局。法人の税務調査などを行った後、吉本興業で芸人となる。著書に『お金の貯め方増やし方』(東洋経済新報社)などがある。
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