2021年インフルエンザの予防接種-今年もワクチンを打つことが推奨されます。それはなぜでしょうか?
社会保険ワンポイントコラム
インフルエンザは直接死因になる場合があるほか、特に高齢者ではインフルエンザ罹患後に他の種類の肺炎にかかって死につながることも多く、決して侮ることのできない疾患です。新型コロナウイルス感染症対策が功を奏したのか、昨シーズンすなわち2020年終わりから2021年初めにかけてインフルエンザは全く流行しませんでした。今年も同様の可能性があります。でも、今年もワクチンを打つことが推奨されます。それはなぜでしょうか?
インフルエンザ大流行の可能性は否定できません!
インフルエンザは広い意味での風邪の一種ですが、急な高熱や関節痛等が特徴的な冬に起きる疾患です。多い年では日本人の約1割が感染すると考えられています。ワクチンはあるのですが効果は確実ではなく、誰も接種しなければ100人が感染するところを50人に抑える程度です。そのうえウイルスに型が多く、4種類くらいの型に合わせて混合して作られるのですが、それ以外の型が流行する場合もあります。さらに効果が持続せず、翌年にはまた打つ必要があります。三種混合ワクチンなどが一生に1~3回打てば強い予防効果を持つことを考えると、インフルエンザワクチンは”劣等生”と言ってもいいかもしれません。
インフルエンザは、昨シーズン全く流行しませんでした。私も冬場に多ければ一日10人以上診療するインフルエンザの患者を昨シーズンはとうとう一人もみませんでした。これは新型コロナウイルス感染症の影響と考えられています。すなわち、社会的距離の確保、マスク着用、手指の消毒、発熱したら会社を休む、などの対策がインフルエンザにも有効であったことや、またヒトの移動が極端に減ったために冬(つまり8月ごろ)の南半球から日本にウイルスが輸入されなかったことです。
今年も新型コロナ対策は同様に行われています。だから昨年同様今年もインフルエンザは流行らないと断言していいのでしょうか。1つのシナリオとしてはあり得ます。しかし別の可能性も考えられます。
RSウイルスという小児の風邪ウイルスがあります。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスと同様にのどや鼻から感染するウイルスで、1歳以下の小児がかかった場合重症化することがあります。RSウイルスも昨年全く流行しなかったのですが、今年の夏にかつてない大流行を起こしました。昨年流行らなかったことで免疫を持たない子供がたくさん存在したためだと考えられています。
同様なことがインフルエンザでも起きるかもしれません。またたとえ今年起きなくても、来年以降に起きることも考えられます。インフルエンザワクチンは優等生ではないとはいえ効果はあるので、大流行した時罹患しにくくなります。また、たとえ罹患したとしても症状が軽くて済みます。
早めの接種がお勧め
今年は多くの医療機関から「インフルエンザワクチンの入荷量が平年の7割程度になっている」という声が聞こえています。後になるとワクチン不足により打てない状況に陥る危険性があります。
さらに、新型コロナウイルスワクチンの3回目接種の問題があります。新型コロナウイルスワクチンの効果はどうやら半年程度を過ぎるとかなり落ちてくるようで、3回目の接種が必要という話になりつつあります。イスラエル等ではすでに3回目の接種が行われその有効性が証明され、日本でも12月から導入される予定です。新型コロナウイルスワクチン接種は他のワクチン接種から2週間あけて行うことになっています。新型コロナワクチン接種の時期を上手に確保するためにも、インフルエンザワクチン接種を早めに済ませることがお勧めです。
懸念される会社のダメージ
最悪のシナリオの一つは、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの大流行が同時に襲ってくることでしょう。
インフルエンザ患者の出勤は法的には決まりが無く、自社ルールで発症後5日、解熱して2日後に出勤させているところが多いです。一方新型コロナウイルス感染者は発症から10日間は出勤することが法律上禁止されています。また診断のはっきりしない発熱患者は発症後8日間出勤させないことが日本産業衛生学会等のガイドラインで推奨されています。
さて、ここに発熱した従業員がいたとします。近所の医療機関を受診し検査を受けます。しかし、インフルエンザの抗原検査は発熱して半日以上しないとインフルエンザに罹っていても陽性にならない可能性があります。さらに新型コロナの抗原検査はもっと精度が低いです。この結果、診断がついていない発熱の従業員が大量に発生し出勤させることができず、会社の業務が滞る危険すらあります。発熱者が少なければ少ないほどこのようなダメージを抑えることができます。
以上のようなことを色々考慮すると、今年もインフルエンザワクチンを打つことが推奨されます。もちろん僕自身も打ちます。
ABOUT執筆者紹介
神田橋 宏治
総合内科医/血液腫瘍内科医/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルタント/合同会社DB-SeeD代表
東京大学医学部医学科卒。東京大学血液内科助教等を経て合同会社DB-SeeD代表。
がんを専門としつつ内科医として訪問診療まで幅広く活動しており、また産業医として幅広く活躍中。
[democracy id=”146″]