インフルエンザは今年こそ流行する!?その原因と対策について
社会保険ワンポイントコラム
2022年8月9日、日本感染症学会は今シーズンのインフルエンザに関する提言を出しました。今年はインフルエンザ、それもA香港型と言われる毒性が強いタイプが流行する危険が高く、下手をすると大流行するというものです。
そもそもインフルエンザとは
ここでインフルエンザについて復習しておきましょう。インフルエンザは広い意味での風邪の一種で冬(12月~3月)に流行しインフルエンザウイルスがのどや鼻から体内に入ることで感染します。通常の風邪と違って、急に39度を超えるような非常に高い熱が出てつらいというのが特徴です。
また高齢者においてはインフルエンザが治った後に肺が「荒れて」おり、そのあとに別の菌が入って肺炎を起こして命に関わることが知られています。また小児においては稀にけいれん、意識障害などの症状を起こし命に関わることや後遺症が残ることが知られています。これはインフルエンザ脳症と言われるものです。
なぜ今年は流行する?
さてなぜインフルエンザは今年流行する危険が高いと言われているのでしょう。いくつかの原因があります。第一にこの2年、新型コロナに対して世界中の人がマスクや対人距離をとる、手洗いなどの防御対策を行ってきました。その結果として同じような経路で人に感染するインフルエンザも流行しなくなりました。実際去年、一昨年のシーズンにおいては皆さんの周囲でインフルエンザに罹ったという方は極めて少ないはずです。これだけ聞くとよいことのようにも聞こえますが、副作用としてインフルエンザに対して免疫がある人がほとんどいなくなりました。
それだけならばいいのですが、3年にも及ぶ「コロナ疲れ」でマスクを外す局面や、大勢での会合も増えてきました。こういったときにインフルエンザが入ってくると大流行を起こす危険があります。海外に例があります。オーストラリアは南半球にあるので日本と夏冬が逆になります。昨年一昨年と患者はやはりほとんど0でした。しかし新型コロナに対する防御が徐々に甘くなり、その結果オーストラリアの冬に当たる今年6月、この5年間で最大の流行を引き起こしています。
もう一つの原因は人の移動、特に海外からの移動が10月に完全緩和されたことです。その中にはインフルエンザウイルスを体内に保有している人が一定数いると考えられ、その方々からの感染が増える可能性が大きいと考えられています。
対策のポイントは予防策と社内規定の整備
では流行することを前提として我々はどうすればいいのでしょう。
基本は新型コロナに対する予防策と変わりません。マスク、手洗い、発熱していたら休む、インフルエンザと診断されたら休む、そしてワクチン接種による予防です。
インフルエンザワクチンの予防効果はそれほど強いものではなく、接種しないときに比べ接種すると発症を半分程度に抑える程度です。つまり接種してもインフルエンザになる人は多くいらっしゃいます。ただし重症化は80%程度抑制することが知られているため特に子供や高齢者には接種が勧められます。インフルエンザの罹患者に対しては自宅待機を命じる法律がありません。従って罹患者の就業についてあらかじめ社内ルールを決めておく必要があります。一般的には発症した日を0日目として5日目(新型コロナは7日間)、また解熱して48時間(新型コロナは24時間)経つまでは自宅待機で次の日から出勤可能としているところが多いです。
この間の賃金についても決めておく必要があります。一般に新型コロナの場合は、法律による就業停止ですからその間の賃金を払う必要はありません。しかし、インフルエンザの場合会社都合による自宅待機命令とみなされますので、賃金を支払う義務があると考えられます。このあたり、社労士の先生の力を借りるなどして規程を整備しておくことが望まれます。
ABOUT執筆者紹介
神田橋 宏治
総合内科医/血液腫瘍内科医/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルタント/合同会社DB-SeeD代表
東京大学医学部医学科卒。東京大学血液内科助教等を経て合同会社DB-SeeD代表。
がんを専門としつつ内科医として訪問診療まで幅広く活動しており、また産業医として幅広く活躍中。
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