「インボイス制度」ココがわからない…ソリマチメルマガ読者の疑問に答えるQ&A
税務ニュース
Contents
- Q1. インボイス制度そのものの基本のキがよくわからないので教えていただきたい。(課税事業者・原則課税)
- Q2.「弊社のような小さな会社でもインボイスが必要なのかが分からない。(課税事業者・原則課税)」「インボイスに関係する業種なのか知りたい 個人の電気主任技術者ですが(免税事業者)」
- Q3:適格請求書発行事業者以外の者からの仕入でインボイス制度実施後6年間は仕入税額相当額の一定割合を控除可能とあります。その際、適格請求書発行事業者以外の者から酒類を除く飲食料品を購入した際に、インボイス制度の要件を満たさない領収書で、軽減税率対象品か判然としない領収書を受領した場合、軽減税率8%の一定割合を控除可能なのか、標準税率10%とみなして控除可能なのか、どちらの扱いとなるのでしょうか。もしくは、まったく仕入税額控除できないのでしょうか。
今回は、インボイスについての疑問についてQ&A形式で解説します。ソリマチ株式会社「メールマガジン」からアンケートに寄せられた読者からの質問の一部に答えました。
Q1. インボイス制度そのものの基本のキがよくわからないので教えていただきたい。(課税事業者・原則課税)
【A】インボイス制度は「消費税法が定める請求書や領収書の記載事項の新ルール」です。このルールを守った請求書や領収書等(インボイス)がないと、買った側は本則課税での仕入税額控除ができません。そしてインボイスは、消費税を納めている課税事業者しか発行できません。
解説
インボイス制度は「仕入税額控除をするのに必要な請求書の記載事項」の新ルールのことです。仕入税額控除とは、納める消費税を計算する際、支払った消費税をさしひくことをいいます。
インボイス制度開始後、もらった請求書の記載事項が増える
これまでも仕入税額控除をするには、帳簿や請求書等に一定事項が書かれている必要がありました。インボイス制度が始まる2023年10月1日以降、もらった請求書に書かれているべき事項がさらに増えます。次の通りです。
- 適格請求書(インボイス)発行事業者の氏名または名称
- 適格請求書(インボイス)発行事業者の登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨も記載)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率
- 税率ごとの消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
黄色アンダーラインの部分は、新たに加わった記載事項です。請求書イメージだと、次のようになります。
登録番号はインボイスの発行事業者にのみ与えられます。消費税を納めている課税事業者なら発行事業者に登録できますが、免税事業者にはできません。
免税事業者が発行事業者になるなら、同時に消費税を申告・納付する選択をしなくてはならないのです。免税事業者にとっては増税に感じられますね。しかし、消費税は本来、多段階控除の結果、納税額を計算するものです。売手は受け取った消費税を「預かり消費税」として、買手は支払った消費税を「支払消費税」として、納税額の計算にくみこむのが本来あるべき姿です。
これまでは消費税の納税を免除されている事業者に支払った消費税も納税額の計算上、さしひいてよいとされていました。しかし複数税率になり、より正しく計算することが求められるようになりました。
多段階控除をきちんと行うには「消費税を納めている事業者に支払った分のみ、預かり消費税から控除する」しくみが必要です。ここで納税証明書のような役割を果たし、正しく納税額を計算できるようにするのがインボイスです。
免税事業者のままだと売上や取引が減ることも
インボイスの登録は義務ではありません。インボイスを発行しなくてもペナルティが科されるわけでもありません。ただし、取引先が本則課税で消費税を計算している課税事業者なら、回りまわって困る可能性があります。
基準期間の課税売上高が5000万円を超えると、この本則課税でしか納める消費税を計算できません。買い手は「この取引先、インボイスを発行しないのか…消費税で損をするくらいなら考え直そうかな」と思う可能性があります。「インボイスを発行するかどうか」で、自社の商取引そのものが変わるかもしれないのです。
Q2.「弊社のような小さな会社でもインボイスが必要なのかが分からない。(課税事業者・原則課税)」「インボイスに関係する業種なのか知りたい 個人の電気主任技術者ですが(免税事業者)」
【A】インボイスに登録した方がいいかどうかは「お客様次第」です。
解説
インボイスの発行事業者への登録は義務ではありませんが、登録しなければ売上が減る可能性があります。ただしすべてそうだとは限りません。お客様がインボイスなしでも困らないのなら、無理に登録する必要はありません。
登録の判断をするポイントが2つあります。1つは「BtoBかどうか」、もう1つは「お客様の消費税の計算方法」です。
1. BtoBかどうか
インボイスが必要なのは「事業者」つまり会社や個人の事業主です。主婦や子どもなどの一般消費者は、インボイスがなくても困りません。小売業、飲食業、おけいこごと、塾、美容院などはインボイスがなくてもよさそうです。
ただ、一見BtoCでも実はBtoBということもあります。ビジネス街にあるレストランやカフェは、企業の打ち合わせに使うことが多いでしょう。こういったところは、インボイスに登録した方が安心かもしれません。
2. お客様の消費税の計算方法
インボイスが必要なのは本則課税で計算する課税事業者です。簡易課税を選んでいる課税事業者や免税事業者はインボイスがなくても困りません。
この他「競合が少ない」「ブランド力に自信がある」など、インボイスがなくても選ばれる可能性が高いなら発行事業者に登録しなくてもよさそうです。
まとめると、次のようになります。あくまで判断のしかたの一例です。
Q3:適格請求書発行事業者以外の者からの仕入でインボイス制度実施後6年間は仕入税額相当額の一定割合を控除可能とあります。その際、適格請求書発行事業者以外の者から酒類を除く飲食料品を購入した際に、インボイス制度の要件を満たさない領収書で、軽減税率対象品か判然としない領収書を受領した場合、軽減税率8%の一定割合を控除可能なのか、標準税率10%とみなして控除可能なのか、どちらの扱いとなるのでしょうか。もしくは、まったく仕入税額控除できないのでしょうか。
【A】原則、仕入税額控除できません。内容がはっきりしないのなら控除の要件を満たしていないからです。ただし、例外的に控除できるケースがあります。
解説
インボイス制度の開始にともなって設けられた経過措置の1つに「適格請求書発行事業者以外からの仕入でも消費税相当額の一部を仕入税額控除にできる」制度があります。控除できる割合と期間は、次の通りです。
期間 | 割合 |
---|---|
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% |
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% |
一見、インボイスでなくても何でも仕入税額控除ができるかのようです。しかしそんなことはありません。8割あるいは5割を控除するなら「インボイス制度開始前のルール」を守る必要があります。つまり、請求書も帳簿も保存しなくてはなりませんし、現行の区分記載請求書等保存方式とほぼ同じ事項を書かなくてはなりません。
80%・50%の経過措置を受けるのに必要な帳簿・請求書等の記載事項は次のようになります。
ご質問にある「軽減税率対象品か判然としない領収書」は、課税取引の内容がはっきりしない点で帳簿・請求書等それぞれの記載要件を満たしません。したがって、仕入税額控除はできません。
ただし、買手が自分で請求書や領収書に追記して保存するなら控除してもかまわないとされるケースもあります。次の2つのどちらかの記載が欠けているケースです。
- ③資産の内容と軽減対象資産の譲渡等である旨
- ④税率ごとに区分して合計した課税資産の譲渡等の対価の額(税込み)
なお、帳簿の記載事項は、インボイス制度開始後も求められます。インボイスだけに気を取られて帳簿の記載を怠らないようにしたいところです。
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。
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