12 January

美術品やアート作品で節税?絵画や彫刻などの減価償却について解説。

掲載日:2024年01月12日   
税務ニュース

美術品やアート作品の購入が節税対策につながることはあまり知られていません。実は2015年から美術品等に関する税金のルールが大きく変わっているのです。本コラムでは、美術品やアート作品の購入が会社の税金に与える影響と注意点について解説します。

大きく変わった美術品の税金ルール

長期間にわたって使用する高額な資産を購入した場合、その購入価額の全額を購入時点の事業経費とせずに、法令で定められた耐用年数にわたって事業の経費にしていきます。これを「減価償却」といいます。一方で、時の経過により価値が減少しない資産は「減価償却」の対象になりません。つまり、税金の計算に影響を及ぼさないのです。

さて、高額な資産といっても、絵画や彫刻などの美術品やアート作品についてはどのように考えたらよいのでしょうか?多くの人が鑑賞したからといって美術品等の価値が損なわれるわけではありません。また、美術品等の価値が時間の経過によって減少するともいえず、加えて、美術品等の評価は嗜好や作品の人気の動向などにより一様ではありません。客観的な基準が求められる税金のルールとしては、悩ましい問題だといえるでしょう。

この点、美術品やアート作品が「減価償却」の対象になるかどうかの判断については、必ずしも明確なルールが存在しているとはいえない状況にありました。いままでは、美術関係の年鑑などに登載されているか、購入価格が20万円以上かなどにより判断されていたのです。

しかし、平成27年(2015年)1月1日以降、購入価額が100万円未満の美術品やアート作品は、原則として「減価償却」の対象になるという税金のルールができました。また、購入価額が100万円以上であっても、時の経過によりその価値が減少することが明らかなものも「減価償却」の対象として取り扱われることになりました。そのため、美術品やアート作品の購入が節税対策の手段の一つになる可能性があるのです。

美術品による節税対策で考慮すべきポイント4つ

美術品やアート作品の購入による節税対策は、たとえば以下のように、いくつか考慮すべきポイントがあります。

① 美術品等の購入価額(額縁代や配送料などを含む)は100万円未満か
② 美術品等は歴史的価値や希少価値を有し、代替性のないものか
③ 美術品等は時間の経過によって価値が減少することが明らかなものか
④ 美術品等は事業の用に供されているか

以下では、これらのポイントについて具体的にみてみましょう。

減価償却の対象になる美術品等

美術品やアート作品の購入価額が100万円未満の場合は、原則として「減価償却」の対象になる資産として取り扱われます。購入価額が100万円未満かどうかは、額縁代、配送料、運送保険料、関税、据付費などの購入に伴う諸経費も含めた金額で判定します。

しかし、古美術品、古文書、出土品、遺物等のように、歴史的価値または希少価値を有し、代替性のないものは「減価償却」の対象とならないため注意が必要です。

購入価額が100万円以上のものは、原則として「減価償却」の対象となる資産には該当しませんが、「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」については、「減価償却」の対象となる資産として取り扱われます。たとえば、以下のすべてを満たすものが該当します。

① 会館のロビーや葬祭場のホールのような不特定多数の者が利用する場所の装飾用や展示用(有料で公開するものを除く)として取得したもの
② 移設することが困難で当該用途にのみ使用されることが明らかなもの
③ 他の用途に転用すると仮定した場合にその設置状況や使用状況から見て美術品等としての市場価値が見込まれないもの

この例示に該当しない美術品等については、当該例示を参考にしながら、その美術品等の実態を踏まえて判断することになります。

(参照)国税庁法令解釈通達 減価償却資産(第19号関係)2-14(美術品等についての減価償却資産の判定)

 

事業の用に供していることが大前提

美術品やアート作品を「減価償却」の対象となる資産として取り扱うためには、購入目的が私用でないことが前提条件です。事業の用に供していること、すなわち会社のロビーやエントランス、応接室やミーティングルーム、クリニックの待合室などに飾るための購入でなければなりません。

また、美術品やアート作品の展示を季節によって変更している場合は、倉庫に保管されている美術品やアート作品に対して必要な維持管理が行われており、いつでも展示可能な状態であれば「事業の用に供している」ことになります。

このように美術品等を「減価償却」の対象となる資産として取り扱う場合、美術品等の耐用年数にわたって事業の経費にすることができます。耐用年数については、たとえば絵画作品や陶磁器は8年(器具及び備品:室内装飾品のうち主として金属製のもの以外のもの)、金属製の彫刻は15年(器具及び備品:室内装飾品のうち主として金属製のもの)です。つまり、たとえば80万円の絵画を購入した場合は、1年間10万円ずつ、8年かけて事業の経費にしていくことになります。

少額の美術品等の場合は全額が事業経費に

購入価額が1点10万円未満の美術品やアート作品は、全額購入した時点の事業経費にすることができます。もちろん前述のとおり、事業の用に供していることが前提です。

また、購入金額が1点30万円未満の場合は、年間300万円を上限に全額購入した時点の事業経費にできる特例もあります。この特例を利用する場合は、届出などの所定の要件を満たす必要があります。固定資産税(償却資産)の対象にもなるため注意が必要です。

オフィスに美術品やアート作品を飾ることで、クリエイターを支援するだけでなく、節税対策につながる可能性があります。また、心地よい空間づくりやコミュニケーションの円滑化にも活用できるかもしれません。ビジネスにアートを取り入れてみてはいかがでしょうか?

(免責事項)本コラムの内容は、投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令等に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように、原則的な取扱いを簡略化して説明しています。本コラムの情報に基づいて実務や判断を行う場合には、専門家・税務署に相談、または十分に内容を検討のうえ実行してください。本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。なお、当事務所では本コラムに関する個別のご質問は受け付けておりません。予めご了承ください。
ABOUT執筆者紹介

税理士 武田紀仁

たけだ税理士事務所

クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。

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