相続時精算課税制度の再確認(制度の概要と改正内容)
税務ニュース
令和5年度の税制改正により、相続時精算課税制度の見直しが行われました。相続時精算課税制度は平成15年に創設されたものですが、一度選択すると撤回することができず、また必ずしも有利になる訳ではないため、制度を選択するには慎重な判断が必要で、あまり活用されていませんでした。
改正により、相続対策として使いやすくなりましたので、相続時精算課税制度のおさらいとその活用方法をお伝えいたします。
暦年課税贈与と相続時精算課税制度の概要
贈与税の計算方法は、「暦年課税贈与」が原則となります。暦年課税贈与の場合、年間110万円の基礎控除額があるため、贈与でもらった財産の額が110万円を超えなければ申告不要、超えた場合は超えた額に応じた贈与税率を乗じて贈与税を算出します。また、相続税の計算上「生前贈与加算」の規定があり、相続開始前7年以内(令和6年1月1日以降の贈与の場合)の贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算します。
それに対し、相続時精算課税制度は、選択した場合に適用がある特例制度です。特別控除額2,500万円がありますので、贈与税の負担なく次世代に大きく財産を移転することが可能です。累積で特別控除額2,500万円を超えた場合は、一律20%で贈与税を計算します。また、相続税の計算上、相続時精算課税制度を選択した年分以降の贈与財産は、すべて相続財産に足し戻して相続税を計算します。
相続時精算課税制度のまとめ(改正前)
- 贈与者:原則、60歳以上のである父母、祖父母等
- 受贈者:贈与者の直系卑属(子や孫)で、18歳以上の推定相続人等
- 贈与税の計算上、2,500万円の特別控除あり(累積で2,500万円を超えた場合は、一律20%の贈与税)
- 相続時精算課税制度を一度選択すると、撤回することができない
- 選択した年分以降、少額の贈与であったとしても贈与税の申告が必要
- 相続時精算課税制度を選択した年分以降の贈与財産は、すべて相続税計算時の相続財産に加算する
- 上記の相続財産に加算するときは「贈与時の価額」で加算
- 相続時精算課税適用財産について、支払った贈与税がある場合は、相続税の計算において控除・還付する
制限が多い制度のため、相続対策として活用するには限定的でした。また、ネックになっていたのが「贈与時の価額で加算」されることでした。将来的に(相続発生時までに)価値が上がっていけば有利となりますが、価値が下がってしまった場合は不利になります。将来、確実に価値が上がると保証された財産はないため、価値が下がるリスクを負ったうえで選択することとなります。
令和5年の改正内容
- 相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が創設されました。また、こちらの110万円は、「相続税計算時に加算不要」となります。(暦年課税贈与の場合は、年間110万円以下であったとしても生前贈与加算対象となります。)
- 相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産が「土地又は建物」である場合において、その土地又は建物が災害等の被害を受けたときは、相続税の計算において、その土地又は建物の評価額を再計算することができることとなりました。(改正前は災害を受けて価値が下落したとしても、贈与時の価額で加算)
相続対策としての活用方法
相続時精算課税制度の基礎控除額110万円は、相続時に加算する必要がないため、贈与者から完全に財産を切り離すことができます。従いまして、毎年コンスタントに110万円の贈与を行っている場合には、相続時精算課税制度を選択した方が有利になります。また、例えばですが、父親からの贈与は「相続時精算課税制度」、母親からの贈与は「暦年課税贈与」とした場合には、相続時精算課税制度の基礎控除額110万円と暦年課税贈与の基礎控除額110万円と合わせて、年間220万円まで贈与税の負担なく贈与を受けることができるようになります。※
相続時精算課税制度は撤回ができないので十分検討をしたうえで選択する必要がありますが、こちらの110万円の基礎控除をうまく活用できると、相続対策の選択肢が増えると考えます。
最後に余談ではありますが、相続税申告業務を行っていますと、「相続時精算課税制度を選択しているかどうか忘れた」と言う方が少なくありません。もし、忘れてしまった場合には、所轄税務署に「申告書等閲覧申請サービス」を利用して確認することができますので、そちらをご利用ください。また、東京国税局管内に限られますが、「相続時精算課税制度適用者に対するお知らせ」が送付されるサービスが開始されています。ただし、こちらの書面には「相続時精算課税制度の適用を受ける財産を申告した年」の記載しかありませんので、贈与額、贈与税額が不明な場合には、閲覧申請サービスをご利用ください。
※ 父・母ともに相続時精算課税制度を選択した場合は、相続時精算課税制度の基礎控除額110万円のみとなります。合算して220万円にはなりませんのでご注意ください。
ABOUT執筆者紹介
代表社員税理士 筒井亮次
会計事務所勤務を経て大手税理士法人に入社。資産税、財務・税務デューデリジェンス業務を中心に従事。2011年4月に税理士法人 経世会に入社。2018年より現職。愛知県半田市・名古屋・東京の3拠点体制でお客様の幅広いニーズをカバーしている。スタッフ目線を大事にした業務改善・働き方改革を実行し、ワンチームで事務所拡大へ向けた挑戦を続けている。