31 May

お酒の転売、シロウトがやると違法になる?法務・税務のリスクを解説①法務編

掲載日:2024年05月31日   
税務ニュース

コロナ以降、お酒の転売が急増しました。ネットのフリーマーケットで売り買いが行われているほか、街中でも買取業者の店舗を目にします。「飲まないお酒をたまに売る」くらいならいいのですが、頻繁に売買を繰り返すときは注意です。お酒の転売についての注意点を、2回にわたって解説します。今回は法務編です。

登場人物

よっちゃん(以下「よ」):まゆこの夫。行政書士。仕事はできるが税金はくわしくない。特技は料理と釣り。夢は釣り三昧の日々。 


まゆこ(以下「ま」):税理士・税務ライター。「こむずかしい税金をいかに分かりやすく表現するか」ばかり考えている。趣味は、よっちゃんのごはんを食べること。

酒の繰り返し転売で行政処分が下る

「まゆこ、このニュース知ってる?」
「どれどれ…えっ、酒の買取販売で逮捕されたの?びっくり」
「高級ウイスキー1500本、2500万円相当を繰り返し転売してたんだって」

「でもさ、最近、お酒の買取業者って増えているじゃない?一般人からウイスキーとか買うところ。あと、フリマサイトでもお酒とか酒瓶の売買をよく目にするよ」
「うん」
「ちょっと売っただけで行政処分って…私だって、無意識にためこんじゃったお酒を売ろうかなと考えているくらいなのに」
「『飲むつもりだったお酒を業者に買い取ってもらった』『もらった酒で飲まないのをフリマサイトで売った』くらいだったら問題ない」
「じゃあ、今回のニュースで行政処分を受けた人は何が問題だったの?」
「『繰り返し』。繰り返し売る、ということは『業務として売っていた』ということだから」
「営利目的でなくても?」
「そう。営利目的かどうかは関係ない。『お酒を売る』『中古品を売る』。これを繰り返し継続して行うなら、それぞれ免許が必要なわけ」

繰り返し酒の転売をするときに必要なもの①酒販売の免許

「まず、酒販売の免許だけど、これは酒税法で決められているんだよね。まゆ子、税理士だから知っているでしょ?」
「聞いたことがあるレベルよ(汗)。くわしくは知らない」
「お酒を作るのも売るのも、継続して行うのなら事前に税務署から許可を得ないとダメなんだよ」

酒販売に免許が必要な理由

「酒税って所得税や消費税に比べると税収の割合は小さいけど、毎年1兆円超の税収にはなるのよね」
「安定税収なのは、まゆ子みたいな飲兵衛が世の中にたくさんいるからだよ。お酒なくても人間生きていけるのにね。昔から酒飲みが絶滅したことはない」
「うっ」
「そんな重要な税収減である酒税なのに、勝手にお酒を個人同士で売買されちゃうと国の財政に影響する」
「課税できないしね」
「個人が勝手にいい加減な酒を作って売り買いすると、国民の健康にも影響するでしょ。税収の確保、いい加減な業者の濫立の防止、お酒による社会的な損失の抑制の3つの点から免許制度で管理しているわけ」

酒免許は申請すれば通るとは限らない

「誰でも申請すれば許可してもらえるの?」
「そうでもない。過去に法律違反をして『ルールを守れない人だ』と思われたり、滞納税金があるとかで資力や経営基盤がイマイチだと見られたりしたら、許可が下りないこともある」

「酒税って高いでしょ。高い税金を納めるだけの資力がないとダメ。あと、お酒については酒税法以外にも法律がたくさんあるから、ルールを守れる人でないと許可が出ないんだよ」
「なるほどねぇ」
「これ以外の条件も厳しいよ。ネットのフリマで売るなら通販に該当するけど、通販でも販売場の所在地を決めないといけない。酒類販売管理者を選んで研修を受けさせないといけない」
「20歳未満にお酒を売らないようにしないといけないしね。お酒はルールが厳しいよね」

繰り返し中古品の転売をするときに必要なもの②古物商の免許

「お酒の売買の内容によっては、古物営業法に違反していることもあるかもね」
「古物営業法…?」
「中古品売買に関する法律。中古品も、継続的な売買だと無免許ではできないの」

中古品売買で免許が必要な理由

「買い取り業者に買ってもらったり、ネットのフリマで売り買いするモノって、たいていはどこかのお店で買ったり、誰かからもらったりしたものでしょ。そういうのは中古品扱いになるの。で『中古品を継続的に売るなら行政機関からの許可が必要』と古物営業法に定められているんだよ」

「許可申請先は都道府県の公安委員会。でも、通常は警察署が窓口。免許が必要なのは、ビジネスとして継続的に中古品を売買するとき」
「なんで免許が必要なのかしら」
「盗品売買を防ぐためだよ。中古品を自由に継続的に売買できるようにしてしまうと、匿名で盗んだもので利益を稼げるようになっちゃうでしょ。そうさせないために、中古品の継続的な売買は許可制にしているの」
「なるほど」
「免許を持った後でもいろいろ厳しいよ。営業所ごとに許可を取らないといけないし、管理者を1人選ばないといけない」

お酒そのものの売買に古物商免許はいらないが

「古物営業法って厳しいのねぇ」
「ただ、お酒そのものの売買は古物営業法の規制の対象にはなってないんだよ」
「なぜ?」
「古物営業法の第2条で古物の定義がある。その中にお酒が入っていないから」
「ただ最近、ネットのフリマでお酒のついでに空き瓶とかグラスを売る人がいるよね」
「そういうのはダメだね。古物になるから規制の対象だもん」

「高級ウイスキーのくりかえし転売は、税金の問題もあるよね」
「税金の話は次回、私からするね」

ABOUT執筆者紹介

税理士 鈴木まゆ子

税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。

 
ABOUT執筆者紹介

行政書士 鈴木良洋

1974年生まれ。1996年行政書士試験合格、1998年中央大学法学部政治学科卒業。2002年行政書士登録。建設業、司法書士事務所、行政事務所勤務を経て2004年独立開業。20年超、外国人の在留手続を専門に外国人の起業・経営支援を行う。これまでの取扱件数4000件超。元ドリームゲートアドバイザー。

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