18 July

仮装・隠蔽と税務調査における7年遡及

掲載日:2024年07月18日   
税務ニュース

税務調査が行われ、誤りや不正が見つかるとほとんどの場合修正申告をすることになります。反対に、誤りや不正がなければ是認、軽微であれば指導に留められ、修正申告は必要ありません。

修正申告をして新たに納めるべき税金が発生すれば、その本税だけでなく、過少申告加算税や重加算税といった罰金のような税が賦課され、利息として延滞税も発生します。

税務調査による本税の増加が単なる誤りであれば過少申告加算税、仮装・隠蔽に基づくものであれば重加算税の対象となり、税務調査を担当する税務職員は重加算税をより重視しているため、調査中は必至に不正を発見しようとします。

ここでの「不正」とはほとんどの場合「仮装・隠蔽」と同義です。実務上もその違いはほとんど意識されません。

仮装・隠蔽とは

その前に、仮装・隠蔽について書かれた国税通則法68条を見てみましょう。

第六十八条 「(前略)納税者が・・・事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは・・・過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。」

仮装・隠蔽して確定申告をしたときは、過少申告加算税に代えて、35%の重加算税を課しますよ、と書いてあります。

「仮装」とは、例えば、ないものをあるように見せることで、架空の経費を計上するような不正があります。また、「隠蔽」とはあるものをないように見せることで、売上を除外するような不正があります。

領収証を友達からもらってきたり、スーパーのレシート用ゴミ箱を漁ってきたりして、支払っていない経費をさも支払ったかのように見せる浅はかなものから、脱税請負人の設立したペーパーカンパニーを使った浅はかなものまで、さまざまな浅はかな「仮装」の話を聞きます。

また、社長が受け取った現金売上を経理に伝え忘れてしまう意図的なのかどうか判断が難しいものから、帳簿に載せていない簿外口座に売上を入金する悪質なものまで、さまざまな「隠蔽」が日本中で行われています。

さて、これらは社長だけが行うわけではありません。役員や従業員が会社のため、あるいは私腹を肥やすために行うこともあるでしょう。そのような場合でも、仮装・隠蔽があったとして、法人は重加算税を納めなければならないのでしょうか。

役員や従業員の不正も重加算税の対象なのか

従業員が売上の一部を着服していたら、裏切られた会社や社長は被害者です。それなのに不正を行なっていたと認定されてしまうのでしょうか。

ここで、通則法68条の「納税者」に誰が該当するのかを考える必要があります。

過去の事例を見ると、法人の経営者以外も「納税者」とされ、重加算税の要件を満たすとされています。

例えば、社内で重要な役割を担っていた常務が納税者と認められた地方裁判所の判決や横領を行った一従業員が納税者と認められた税務調査があります。

従業員を自己の手足として経済活動を行なっている法人において、その行為が法人の行為と認められるなら、従業員が不正を行い社長がその不正を知らなくとも重加算税を課すことができると考えられます。

申告所得税に係る重加算税通達には、「納税者本人が当該行為を行っている場合だけでなく、配偶者又はその他の親族等が当該行為を行っている場合であっても納税者本人が当該行為を行っているものとして取り扱う。」とあります。

税に関する各種の通達は、税理士や一般納税者が税の取扱いを知るために用いられますが、「通達は税務職員が従うべき内部の方針であって法ではないから、納税者に対する強制力はない」と考える税理士もいます。しかし、実際の調査で通達に書かれている取扱いに抵抗することは滅多にないように思います。

税理士の不正も重加算税の対象なのか

さて、納税者の確定申告を行う税理士が不正を仮装・隠蔽を行った場合はどうでしょうか。M税理士事件の平成18年最高裁判決では税理士が行った仮装・隠蔽が納税者本人の行為と同一視されませんでした。しかし、最高裁で判決が下るまでには、当然税務調査も行われています。税務署の調査担当職員、その上司、法人課税部門で税務調査における税法の適用や解釈に誤りがないか精査する審理担当、副署長ないし署長が当該税理士の仮装・隠蔽によって法人に重加算税を賦課することを問題ないと判断したはずです。

納税者からすると、自分は税金のプロである税理士に金を払って正しく申告したつもりであるのに、税理士が勝手に仮装・隠蔽を行い、その責任を負わされることに納得ができるはずがない。この話を聞いた第三者でも納税者側に立って考え、税務署の処理は酷であると考えるのではないでしょうか。

仮装・隠蔽と「不正」

まず、国税通則法70条1項を示します。

「次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から五年を経過した日以後においては、することができない。」

「更正決定」とは国が納税者の税額を決定する手続きです。税務調査の結果、納税者が修正申告を行わない場合、あるいは、納税者が求めた場合、更正が行われます。上記のように、遡及できるのは5年分ですが、「偽りその他不正の行為」がある場合は、7年遡及することができます。

国税通則法70条5
「(前略)更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。」
同一号
「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ・・・」

ここには「納税者」という記載がありません。よって、納税者以外の者が仮装・隠蔽などの不正を行った場合でも、7年遡及することができます。一般に、不正を行うのは納税者ですからこの違いは特段問題となりませんが、これまでの議論を踏まえると「納税者」という表記の有無が税務調査の結果に影響する場合があることがわかります。

もし、あなたが受けた税務調査において7年遡及することとなった場合は、不正が納税者によってなされたものなのかどうかを必ず確認しましょう。

ABOUT執筆者紹介

さんきゅう倉田

吉本興業

大学卒業後、東京国税局に入局。法人の税務調査などを行った後、吉本興業で芸人となる。著書に『お金の貯め方増やし方』(東洋経済新報社)などがある。

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