交際費になるもの・ならないものの違いは?私費を交際費にしたときのリスクも解説
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「これは会社の交際費になるはず」──そう考える経営者は多いもの。実はそれ以前に「この支払は本当に交際費にしていいのか」という検討が必要です。飲食や贈答で支払ったものすべてが交際費になるわけではありません。
今回は、交際費になるもの・ならないものの違いを確認するとともに、私費を交際費にしたときのリスクも解説します。
交際費とは?定義と1万円基準との関係を確認
「交際費」とは、会社の業務で必要な接待や贈答などで支払う費用を言います。会社の規模によっては、法人税の損金の額に計上できます。
交際費の範囲を確認
交際費の範囲は、税法でおおよそ次のように定義されています。
ポイントは、事業に関係のある者等との関係を円滑にするための接待や贈答などの支出であることです。個人的な飲食費を偽って法人の経費に計上しても交際費にはなりません。
「1万円基準」との関係
交際費というと「1万円基準」が真っ先に思い浮かぶ方が多いかと思います。これは、一人あたり1万円以下の飲食費を交際費等から除いて損金の額に算入するという特例に過ぎません。1万円基準の前に「そもそも交際費になるかどうか」を検討する必要があります。
なお、交際費の1万円基準については、こちらの記事をご参照ください。
交際費になる主なもの
では、どのような費用が交際費になるのでしょうか。主な例は次の通りです。
取引先の接待
取引先との会食や接待は、交際費の代表例です。このほか、ゴルフのプレー代、観劇チケット代なども、取引先への接待等であれば交際費となります。
取引先へのお中元・お歳暮
日頃の感謝や関係維持のために取引先に贈るお中元やお歳暮も交際費です。
自社内の部署での打ち上げ
「営業部のみの打ち上げ」など、必要な慰安や懇親のための費用であれば、交際費となります。 ただし、特定の役員や従業員だけを対象としたものや、個人的な飲食は交際費になりません。
接待の際のタクシー代、往復交通費
取引先の接待のために利用したタクシー代や、接待場所までの往復交通費も交際費となります。ただし、あくまで「接待に付随する費用」です。個人的な移動費は認められません。
交際費以外の必要経費になるもの
飲食や贈答などの支出がすべて交際費になるわけではありません。支出の内容や目的によっては別の勘定科目で損金に計上されるものもあります。次の通りです。
会議費
会議中の軽食や飲み物、昼食代など、会議に関連して支出される飲食費で通常要する費用は会議費となります。
福利厚生費
従業員全員が対象となる社内イベントや健康診断費用などは福利厚生費です。特定の役員や従業員だけを対象としたものは含まれません。
広告宣伝費
不特定多数の顧客に対する商品やサービスの宣伝目的で支出する費用です。ノベルティグッズの配布や試供品の提供などが該当します。
交際費ではなく給与になるもの
交際費として処理したものが、税務調査で「交際費ではない」と否認され、「役員や従業員に対する給与」と認定されることがあります。以下のようなケースです。
個人的な飲食費
役員や従業員が個人的な飲食に使った費用を、取引先との接待であるかのように処理
不適切な私的利用
会社のクレジットカードや経費精算システムを使い、私的な買い物をしたり、旅行費用を支払って交際費とした
特定の役員・従業員への利益供与
事業とは関係なく、特定の役員や従業員だけを優遇する目的で支出され、交際費に計上した
私費を交際費にしたときの3つのリスク
役員や個人の私費を交際費に計上した場合、会社・個人の両方に不利益が生じるおそれがあります。
役員への給与になると3つの税金が増える
交際費が役員への給与と認定されると、以下の3つの税金が増えます。
法人税
交際費として損金算入されていたものが役員への臨時給与となると、いわゆる「役員賞与」となり、損金不算入となります。定期同額給与や事前届け出確定給与など、税法で損金計上が認められる要件を満たさないからです。結果、課税される会社の所得額が増え、法人税の負担が増します。
所得税・個人住民税
役員個人の給与所得が増えるということは、その分、役員に課される所得税と住民税が増加します。源泉所得税が徴収されていなければ、不納付加算税などが課されます。
消費税
交際費であれば消費税の仕入税額控除が認められますが、給与として認定されれば仕入税額控除もなくなります。給与は消費税の対象外取引だからです。そのため、追加で消費税を納めることとなります。
つまり、会社と役員個人の両方で税金が増えるわけです。過少申告加算税や延滞税なども発生すれば、より税負担が重くなります。
従業員も給与課税
従業員に対する支出が給与と認定されるケースもあります。例えば、個人的な飲食費を会社の経費で処理していたケースです。こちらも、従業員個人に所得税と住民税が課され、同時に会社の消費税の追加納付もせざるを得なくなります。給与に課される源泉所得税をあとから納付する場合、不納付加算税や延滞税がかかるリスクがあります。
社内のルールが守られなくなる
自分で立ち上げた会社だと、どうしても私費と会社経費の区分が甘くなりがちです。「自己資金を投じて経営してきた会社なのだから、会社のお金は自分のもの」──そう思いたくなる気持ちは分かります。
しかし法律上、社長という個人と会社という法人は別人格です。そして一般に「会社は社長の器以上に大きくなれない」とも言われます。つまり社長の行動が社内の規律や経営の行き先を左右するのです。
「これくらい大丈夫」と社長が私費を交際費で落としていれば、他の役員や従業員も真似するかもしれません。結果、社内のルールが守られなくなり、会社経営が困難になるおそれが生じます。
まとめ
「レシートさえもらえば、何でもかんでも交際費になるはずだ」という安易な考えは、余計なコストを増やすおそれがあります。経営をむしばむことにもなりかねません。会社経営をよりよくするなら、ルールを守って適切な経費処理を行い、必要に応じて顧問税理士に相談するのがよいでしょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。