先手必勝!農業者向け農業所得の確定申告
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はじめに
所得税の確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間に生じた全ての所得の金額とそれに対する所得税の額を計算し、申告期限2月16日から3月15日までに確定申告書を提出する一連の手続のことだ。農業者はぜひ本稿を読んでさらなる知識を深めていただきたい。記事の記載にあたり国税庁の公表資料をもとにわかりやすく説明している部分は、著者の個人的な見解も含むことをあらかじめお断りしておく。
農家の収入(農業収入)
農家の収入は大きく分けて4つに分類される。1販売金額、2家事消費・事業消費金額、3雑収入、4農産物の棚卸高が農家の主な収入金額となる。収支内訳書(青色申告決算書)の収入金額は、どの番号に記載するのか確認していただきたい。
収支内訳書(青色申告決算書)の収入金額
販売金額
販売金額とは、米、麦、野菜、花、果実、種苗、まゆ、肉畜、牛乳、卵、その他農畜産物を販売した金額の合計額をいう。農協や市場への手数料などを差し引かれる前の総額で計上する。複合経営をされている農家は、それぞれの販売金額の計上漏れに注意が必要だ。
家事消費・事業消費金額
農産物の販売だけでなく、家事消費として収穫した農産物を自分で食べたり贈答した場合や、事業消費として収穫した農産物を自己の生産のために消費した場合は、家事消費・事業消費金額として収入金額に含める。計算式は次のとおりである。
<計算式>(農産物の販売金額-出荷にかかった経費)÷販売数量×家事消費等の数量
例えば、本年中に 10,000㎏の農産物を販売、販売金額が500万円、出荷にかかった経費が40万円、200㎏家事消費した場合、計算式にあてはめると、(500万円− 40万円)÷ 10,000㎏× 200㎏=92,000円となる。
ここがポイント!
- 家事消費金額の計算は、市場手数料や包装費用などの出荷にかかった経費を含まない農産物の価額(裸値)とされている。
- 事業消費の場合、収入金額と同額を該当する科目の必要経費とする(飼料費など)。
- 家事消費などの金額は、原則としてその消費などをした時の価額によるが、その収穫年分の収穫時の価額の平均額又は販売価額(出荷価額)の平均額によって計算できる。
- 家事消費・事業消費金額の帳簿記載については、その都度、帳簿の収入欄に記載するのが原則だが、その都度記載することを省略して、年末において、消費等したものの種類別に合計を見積もり、それぞれの合計数量、合計金額を一括記載することができる。
雑収入
農産物の販売金額や家事消費・事業消費金額以外は雑収入として収入金額に計上する。例えば、①収益の補償として受け取る補助金等、②水稲・野菜・果樹共済の受取共済金等、③わら、もみ、家畜排せつ物など副産物の販売収入等、④農作業を請け負った場合の受託作業料、⑤収入保険制度(青色申告者)補てん収入の見積金額、⑥農事組合法人からの従事分量配当などがある。
農産物の棚卸高(収穫基準)
米や麦などの農産物については、収穫基準が適用される(収穫した時の生産者販売価額(農産物の裸値)により計算)ので、その年の販売高に、販売していない年末の農産物の在庫高を加え、前年に繰り越された在庫高の差引される金額を計上する。
ここがポイント!
- 農産物の棚卸高を記載することにより、収穫基準に基づく収入金額が算出される。
- 養蚕や畜産など農産物以外に係る収入金額の計算については、販売した時(引き渡した時)の価格が収入金額となる。農産物以外については、収穫基準の適用は受けないので注意すること。
農家の経費(必要経費)
農業収入を得るためにかかった費用を必要経費(農業経費)といい、農業の収支計算をするうえでとても重要なものだ。例えば、農具費や肥料費などはもちろん、農業用の土地を借りた場合の借入金の利子なども必要経費となる。
必要経費となる金額は、その年において債務の確定した金額である。つまり、その年に支払った場合でも、債務の確定していないものはその年の必要経費にはならない。また支払っていない場合でも、その年に債務が確定しているものであれば、その年の必要経費となる。
必要経費の基本的な考え方
例えば上図の肥料で考えてみる。当期に購入した金額を、そのまま必要経費として計上するのではなく、前年から繰り越された期首の棚卸高を加え、年末に残っている期末の棚卸高を差し引いた金額を必要経費に計上する。肥料について期末の棚卸高は、年末に最も近い日の購入単価に、年末の棚卸数量をかけて計算する。そのため決算のときには 12月末の在庫(棚卸高)を調べる。
家事関連費
農業用建物兼住宅について支払った賃借料や固定資産税、修繕費などのうち住宅部分に対応する費用や水道料や電気料、燃料費などに含まれている家事分の費用などは必要経費とはならず、家事関連費となる。
家事関連費の家事分と事業分との区分は、使用(貸付)面積や保険金額、点灯時間などの適切な基準によって按分し計算する。
農業用建物兼住宅について支払った電気料
支払った100,000円全額が必要経費になるわけではなく、100,000円×40%(事業分)=40,000円が必要経費の対象となる。つまり、事業分である農業に関連する部分のみ経費に計上する。
必要経費の具体例
農業経営にかかる経費にはどのようなものがあるかを具体的に説明する。この経費をいかに漏らさず計上できるかが節税の大きなポイントになる。そのためには領収書などの資料はしっかり保管し、きちんと記帳する。なお帳簿には7年間の保存義務がある。必要経費として計上すべき金額は、収入金額と同様に、本年中に経費として確定した金額となる。
本年中に支払った経費の中に、翌年分以後の期間に対応する部分が含まれている場合には、その部分の金額は、本年分の経費とはならず、翌年分以降の経費として計上する(例:農作業場として翌年1月分の地代家賃を当年12月に前払いした場合など)。
必要経費の各科目の具体例
雇人費 | 農産物等の生産及び販売のための雇人労賃、雇人への賄費・交通費をいう。 |
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地代・賃借料 | 小作料、賃耕料、機械等の借料などをいう。 |
減価償却費 | 農業用建物、農機具、車両、搾乳牛などの償却費をいう。 |
貸倒引当金 | 売掛金などについて、その将来の貸倒れによる損失に備えるため、一定の金額以下の金額を繰り入れることができる(青色申告の場合)。 |
利子割引料 | 農業用の土地建物・農機具購入のための借入金利子、手形割引料をいう。農業用の建物などの資産を取得するための借入金の利子も必要経費になるが、借入金の返済額のうち元本に相当する部分の金額は必要経費とはならない。 |
租税公課 | 農業用の土地建物の固定資産税、自動車税、農業協同組合費などをいう。所得税及び復興特別所得税、相続税、住民税、国民健康保険税、国民年金の保険料、国税の延滞税・加算税、罰金、交通反則金などは必要経費にならない。固定資産税や自動車税のように家事上の費用が含まれる場合は、全額経費に計上できないので、面積等により家事費部分と必要経費部分を適切に按分する。 |
種苗費 | 種もみ、苗類、種いもなどの購入費用をいう。 |
素畜費 | 子牛、子豚、ひななどの取得費及び種付料をいう。 |
肥料費 | 化学肥料や堆肥用わらの購入費用をいう。 |
飼料費 | 飼料の購入費用をいう。 |
農具費 | くわ、かま、バケツ、スコップなどの小農具の購入費用をいう。必要経費に算入できるものは、使用可能期間が 1 年未満のものや、取得価額が 10 万円未満のものに限られる。 |
農薬衛生費 | 農薬の購入費用、共同防除の負担金をいう。 |
諸材料費 | 農畜産物の生産に直接必要なビニール、わら、むしろ、支柱などの購入費用をいう。出荷資材や包装資材などは荷造運賃手数料の科目になる。また、ハウスのビニールについては、今あるものを張り替える場合は修繕費の科目となるが、新設する場合は、減価償却資産となる。 |
修繕費 | 農具、農業用車両・建物等の修理に要した費用など、資産の通常の維持管理費・原状回復のために支出した費用をいう。生活用資産の修理は、家事費のため必要経費とはならない。また、固定資産の価値を高めたり、耐久性を増す場合には資本的支出となり、減価償却資産として計上する。 |
動力光熱費 | 農業用機械・施設に要した水道料・電気料、農業用車両に要した軽油・ガソリン・オイル、ハウス施設の重油などの購入費用をいう。家事上の費用に関する部分の金額は必要経費とはならない。 |
作業用衣料費 | 作業衣、地下たび、長靴、帽子などの購入費用をいう。 |
農業共済掛金 | 水稲・家畜・果樹等にかかる共済掛金、農業用資産に対する火災保険料などの掛金をいう。家事上の費用に関する部分は、必要経費とはならない。また、建物更生共済・農機具更新共済等の掛金のうち、貯蓄部分に相当する金額も必要経費とはならない。 |
荷造運賃手数料 | 農畜産物の販売に要した袋・箱などの包装資材・出荷資材の購入費用、販売に要した市場手数料、農協手数料などで、出荷先の売上から控除された手数料も含む。なお生産資材は諸材料費となる。 |
果樹・牛馬等の育成費用 | 農業の用に供する目的で飼育する乳牛、果樹などについては、種類ごとに、家畜は 1 頭当たり、果樹は 1 単位当たり(樹齢別、所在地別等)により成熟の年齢または樹齢になるまでの間の育成費用を計算する。この金額は、必要経費から除いて累積し、減価償却費の基礎となる取得価額に算入する。 |
土地改良費 | 土地改良事業の費用や客土費用をいう。 |
委託費用 | 農機具等を使用して行う農作業などの委託費用をいう。 |
固定資産等の損失 | 農業用固定資産等の取壊しや災害による滅失などの場合の損失をいう。 |
雑費 | 農業経営上の費用で、他の科目に当てはまらない経費をいう。 |
農産物以外の棚卸高 | 未収穫農産物(収穫していない農作物について要した費用)、肥料・農薬など(年末に未使用で残っているもの)をいう。 |
まとめ
所得は、その性質によって次表の10種類に分かれ、それぞれの所得について、収入や必要経費の範囲あるいは所得の計算方法などが定められている。
農業経営から生じる所得の種類の例
利子所得 | 預貯金、公社債の利子など。 |
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配当所得 | 農協等から受ける出資配当金など。 |
不動産所得 | 農地・建物の賃貸収入、小作契約に基づく小作料収入・電柱の敷地料など。 |
事業所得 | 農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業など。 |
給与所得 | 農業法人からの給料・賞与など。 |
退職所得 | 農業法人からの退職金など。 |
山林所得 | 所有期間が 5 年を超える山林(立木)を伐採して譲渡することによって生ずる所得など。 |
譲渡所得 | 農地・建物などの譲渡による所得。 |
一時所得 | 建物更生共済の満期共済金など。 |
雑所得 | 農業者年金による所得など。 |
農業所得は事業所得の一種であり、農産物の生産、果樹などの栽培や養蚕、農家が兼営する家畜・家きんの飼育や酪農品の生産などから生ずる所得をいう。これらの農業所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算する。
おわりに
農業収入-必要経費=農業所得
農業収入は、必要経費を差し引く前の1月1日から12月31日までの1年間に得た収入金額をいう。収入と所得の違いを正しく理解することが重要だ。
今回は農業収入と必要経費を中心にまとめてきたが、基本的な事から理解して、スマートな確定申告に臨んでいただけたら幸いである。
ABOUT執筆者紹介
佐藤宏章
公認会計士/税理士
公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所 代表
秋田県農家出身(酪農・メロン・水稲)。東京農業大学農学部農学科卒業後、農業経営者に的確なアドバイスをと一念発起し、公認会計士資格取得。監査法人勤務を経て、「日本初の農業に特化した専門家」として独立開業。
農業経営者に会計・税務・経営をわかりやすく伝えることをモットーに、全国各地で活動中。企業・自治体・大学・税理士会等向けに講演、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「めざましテレビ」(フジテレビ)その他メディア出演も多数。かつてないスタイルで唯一無二の存在と信頼を集める。