経営相談の現場から[シリーズ第13回]創業したら、どんな補助金をもらえますか
起業応援・創業ガイド
Contents
筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。
今回は、飲食店勤務で独立準備中のKさんからのご相談を取り上げます。
創業を目指す方から一番多いご相談
Kさん 「イタリアンレストランで雇われ店長をしています。半年後くらいの独立を目指して準備しています。」
筆 者 「店長のご経験は独立に向けて強力な武器ですね。」
Kさん 「いやあ、それでもやはり自分のお店を持つとなるとわからないことばかりで、情報を集めているところです。国は創業を支援していると聞くので、何らかの補助をいただけるのではと思うのですが・・・何かありますか?」
筆 者 「よくあるご質問です。『創業するとき何かと必要になるお金を、国から支援していただけるのではないか』というふうに想像される方が多いですね。」
Kさん 「やっぱりそういうお金の補助というのは、ないものでしょうか。」
「創業したら無条件でもらえるお金」はないけれど、様々な優遇を受けられる仕組みがある
筆 者 「創業するだけでもらえるお金は残念ながらありませんが、Kさんのおっしゃる通り国は創業を後押ししているので、様々な支援メニューが用意されています。ただ、ちょっと分かりにくいと言われることが多いですね。あまり知られていないんですよ。」
Kさん 「そうなんです。自分でも少し調べて、インターネット上でそれらしい情報にはたどり着くんですけど、慣れない言葉が多いですし、どれが自分に使えるのかよく分からなくて。」
筆 者 「そうですよね。創業の支援メニューはいくつかありますが、これだけは是非知っておいていただきたいというのがひとつあります。市区町村が国の認定に基づいて実施する『特定創業支援等事業』です。」
セミナー等で知識・スキルを習得すると、様々な優遇を受けられる
Kさん 「『特定創業支援等事業』ですか。どんな支援を受けられるのですか?」
筆 者 「『特定創業支援等事業』自体は、創業に必要な知識・スキルを身につけていただくための支援で、具体的には創業者向けの創業塾、創業セミナー、個別相談といった支援です(注1)。各市区町村がそれぞれの地域の特性を踏まえて工夫を凝らした内容になっています。」
(注1)市区町村が「特定創業支援等事業」として用意しているセミナーや個別相談。
Kさん 「セミナーや相談対応もありがたいんですが、補助金とか、何かお金の面の支援はないのでしょうか?」
筆 者 「はい、資金面の支援もあります。そのセミナー等を修了して、市区町村から『特定創業支援等事業』を受けたことの証明書(注2)をもらうと、資金面を含むさまざまな優遇が受けられます。」
(注2)市区町村が発行する、「特定創業支援等事業」を受けたことの証明書。
Kさん 「なるほど、その優遇を受けるためにもまずはセミナー等を受けることが最初の一歩なんですね。」
筆 者 「多くの方が探していらっしゃるお金の面の支援は『特定創業支援等事業』自体にはなくて、その証明書を取った後の優遇策として実施されているわけです。この点が、分かりにくいと言われる背景のひとつでしょうね。」
Kさん 「そうだったのか・・・。その優遇策の内容を具体的に知りたいです。」
筆 者 「では、代表的な優遇策を3つ、ご紹介しましょう。」
代表的な優遇策① 法人設立にかかる法定費用の軽減
筆 者 「最も代表的な優遇策は、法人をつくるときにかかる法定費用(※3)の軽減です。Kさんは個人事業で独立しますか?法人を設立しますか?」
(注3)登録免許税、定款の認証手数料や収入印紙代など。
Kさん 「法人です。株式会社を設立するつもりです。資本金100万円程度の小さい会社ですが。」
筆 者 「株式会社を設立するときにかかる法定費用は全部でおよそ25万円ですが、『特定創業支援等事業』を受けたことの証明書があれば、この法定費用のうち登録免許税の部分が軽減されます。Kさんのケースだと7万5千円の軽減になります。資本金が大きい場合はもっと大きく軽減されますが、多くの方は7万5千円の軽減ですね。」
※詳しくはこちら
Kさん 「実は合同会社にするかもしれないのですが、合同会社の場合も軽減されますか?」
筆 者 「はい、軽減されますが、合同会社の場合はKさんのケースだと3万円の軽減になります。合同会社の設立にかかる法定費用はおよそ10万円と小さいので、軽減される額も株式会社より小さくなります。」
Kさん 「なるほど。それにしても法定費用が軽減されるとは知りませんでした。これは嬉しいですね。」
筆 者 「はい。先ほど申し上げた『特定創業支援等事業』を受けたことの証明書があれば優遇を受けられますから、法人の設立に着手する前に証明書をもらっておきたいですね。」
代表的な優遇策② 公的融資の金利の優遇
筆 者 「もうひとつ代表的な優遇策が、日本政策金融公庫の融資の利率の優遇です。『特定創業支援等事業』の証明書があれば、通常より低い利率が適用されます。」
Kさん 「融資を利用するかどうかはまだ決めていませんが、いざ利用するとなったら大きなメリットですね。」
筆 者 「はい。融資を利用するかどうか決めていなくても、『特定創業支援等事業』の証明書はもらっておくことをお勧めします。」
Kさん 「融資を利用しようと思ってから証明書を手に入れるのでは、遅いですか?」
筆 者 「間に合うケースもあるかもしれませんが、いざ融資を利用しようと思ってから『特定創業支援等事業』の対象セミナーを探しても、タイミングよくセミナーが開催されるとは限りません。開催されたとしても、受講して修了して証明書の発行を申請する、という一連の流れに時間がかかりますから、資金調達のタイミングを逸してしまいます。」
Kさん 「なるほど。」
代表的な優遇策③ 国の補助金の補助上限額の増額
筆 者 「もうひとつご紹介したい優遇策が、国の補助金『小規模事業者持続化補助金』の補助上限額の増額です。通常50万円までの補助金の上限金額が、200万円に増額されます(注4)。」
Kさん 「これはどういった補助金ですか?」
筆 者 「メジャーな補助金のひとつで、販路開拓、集客にかかる費用の3分の2が補助されるものです。たとえば広告費やお店の改装費などが補助の対象になります。審査がありますので、補助金を獲得できるかどうかは申請書の内容次第です。」
Kさん 「通常50万円の上限額が200万円に増額されるとは、大きいですね。私はまだ創業前ですが、申請できますか?」
筆 者 「申請の時点で創業していれば申請できます。申請書を今から準備しておけば、創業直後にでも申請できます。また、この補助金は小規模事業者が対象で、Kさんの飲食店なら従業員数が5人以下であれば申請できます。詳細は公募要領などを確認しましょう(注4)。」
(注4)令和7年6月時点の公募内容。
3つの優遇を全て利用することもできる
筆 者 「ご利用が多い代表的な優遇策3つを紹介しましたが、これ以外にも市区町村が独自の優遇を設けていることがありますので、詳しく知りたい場合は創業予定の市区町村に問い合わせてみましょう。」
Kさん 「どの優遇策も大きなメリットですね。ところで、3つ全部利用することも可能でしょうか。どれかひとつを選ばなければならないのでしょうか?」
筆 者 「ひとつだけでなく複数利用することもできます。どの優遇も『特定創業支援等事業』を受けたことの証明書があれば利用できますから、
- 法人設立時に、証明書を提出して法定費用を軽減してもらう。
- 公的融資利用時にも、証明書を提出して特別利率を適用してもらう。
- 補助金申請時にも、証明書を添えて上限額を増額してもらう。
ということが可能です。この場合は証明書が3枚必要になりますから、市区町村で証明を申請する際に『証明書が3枚欲しい』と相談してみてください。」
Kさん 「この証明書を受け取るのは難しいですか?誰でも取れるものでしょうか。」
筆 者 「証明の要件は市区町村ごとに定められていますが、セミナー等をきちんと受講すれば基本的にはどなたでも受け取れるというご認識で良いかと思います。どの優遇を利用するか分からなくても、ぜひもらっておきましょう。たとえどの優遇も使わなかったとしても、創業の知識やスキルを身につけておくことは後々きっと役に立ちます。」
創業準備段階で「特定創業支援等事業」を利用して証明書を取っておこう
「特定創業支援等事業」は、開業率の向上を目指す国の取り組みです。創業後でも利用できますが、基本的には準備段階で利用いただくことを想定されています。「開業届を出してから」「会社を設立してから」ではなく、できるだけ準備期間のうちに具体的に動いてセミナー等に参加しましょう。目安としては、創業の半年前ごろのタイミングがベストでしょう。創業準備段階のうちに「特定創業支援等事業」のセミナー等で知識・スキルを身につけて、証明書を受け取っておけば、いざというときにスムーズにメリットを享受できます。
(注)「特定創業支援等事業」は、一部実施していない市区町村があります。ご自身の創業予定の市区町村が実施しているかどうかをまずはご確認ください。令和6年末時点ではおよそ9割の市区町村が国の認定を受けた『特定創業支援等事業』を実施しています。
(注)本記事の内容は実際にあったご相談内容をもとにしていますが、事業者様を特定できないように多少のアレンジを加えております。
ABOUT執筆者紹介
経営コンサルタント 古市今日子
株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士
外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件