29 September

非エンジニアこそ知るべき「バイブコーディング」とは?自然言語で始めるツール開発の第一歩

掲載日:2025年09月29日   
IT・ガジェット情報

「日々の業務で、こんなツールがあったら便利なのに」。あるいは、「自分の趣味や活動に、こんなアプリがあればもっと楽しくなるのに」。そう考えたことはないだろうか。かつて、こうしたアイデアを形にするには、プログラミングという専門的で高い壁を乗り越える必要があった。しかし今、AIの進化によって、その常識が根本から覆されようとしている。

この記事で解説するのは、「バイブコーディング」という、私たちの未来を大きく変える可能性を秘めた新しい概念である。これは、一部の技術者だけが持つ特殊なスキルではない。この記事を読み終える頃には、専門知識がなくとも、自らの言葉だけでアイデアを形にできる時代の到来を、きっとあなたも実感できるはずだ。

バイブコーディングとは何か?プログラミングの世界で起きている変化

これまで、コンピューターに何かを実行させるための「プログラミング」とは、極めて厳密な作業であった。コンピューターが理解できる特定の言語(プログラミング言語)を学び、少しの間違いも許されない厳格な文法に従って、命令書を記述する必要があった。それは、外国の言語を正確に書き上げるようなもので、習得には多くの時間と努力を要するものであった。

これに対し、「バイブコーディング」は、そのアプローチが全く異なる。緻密な設計書や専門的なプログラミング言語は必要ない。必要なのは、「こんな感じのものを作りたい」「こういう機能が欲しい」といった、私たちの“雰囲気(Vibe)”や“ニュアンス”を伝える、ごく自然な言葉(もちろん日本語で)だけである。

この曖昧な言葉をAIが受け取り、その意図を汲み取って、裏側で動く複雑なプログラム(コード)を自動で生成する。そして、私たちの目の前に、ツールとして形にしてくれるのだ。それはまるで、人間とコンピューターの間に、極めて優秀な通訳者が現れたようなものである。私たちは通訳者(AI)にやりたいことを伝えるだけで、あとはよしなにコンピューターと対話を進めてくれる。これが、今まさに起きている変化の正体であり、バイブコーディングというものなのだ。

自然言語だけでツールは作れるのか?

では、実際にどれほど簡単なのだろうか。ここでは、多くの人が日常的に使えるであろう、具体的なツールの作成事例を見ていきたい。これは筆者がChatGPTを使って作成したものだ。筆者は生成AI活用の専門家として活動はしているものの、エンジニアではないため、普段から仕事でコードを書く機会はない。つまり、この記事を読んでいる大半の人と同じで、プログラミングについては完全に素人である。それでも以下のようなツールを簡単に作り上げ、エラーを起こすこともなく、思った通りに動作し、便利に使用できているのだ。

事例 複数のPDFを連結するツール

これは実際につい最近、筆者が必要に駆られて作ったツールである。2つ3つのPDF資料を1枚にまとめるのは少々面倒な作業だ。通常はそれなりのソフトを購入する必要があり、お金がかかる。また、オンラインのサービスで無料のものも存在するが、自社の資料を社外のオンラインサービスに渡すのは、セキュリティ上の懸念も否めないものだ。

そこでAIに指示を出し、ローカルで動くPDF連結ツールを作成してもらった。指示した内容は以下の文章のみである。まさに雰囲気のみの指示だ。

「ブラウザで動くPDF連結ツールを作成してください。ローカル環境で動作し、ドラッグ&ドロップでPDFを自動連結するツールです。」

この指示だけでAIはどんどんコードを書いていく。

12秒でAIはコードを書き終えた。私はAIが作ったHTMLファイルをダウンロードしてクリックするだけだ。PDF連結ツールは既に完成していた。

2つ、3つのPDFを連結してみたが、全く問題なく動く。完成して実際に稼働するまでの時間でも5分ほどだろうか。あっという間に、欲しかったツールが手に入ってしまったのだ。十分実用に耐えうる性能だった。筆者はこのツールをいまでも便利に使っている。

読み込んだPDFはサーバーに送信されず、ブラウザ(自分のPC)のメモリ上だけで処理される。外部サービスを使う際のセキュリティ面での心配も無ければ、有料のソフトを購入する必要もない。欲しいツールは自分で作る。そんな時代がやってきたのだ。

どうだろう?想像以上の手軽さではないだろうか?

「対話」を重ねて精度を上げる

バイブコーディングの真に驚くべき点は、最初の指示が完璧である必要がないことだ。むしろ、人間同士のコミュニケーションのように、「対話」を重ねることで精度を上げていく点にこそ、その本質がある。AIが生成した内容に対して、追加の指示や修正ができるのだ。先ほどのPDF連結ツールにも追加指示を出してみよう。

「もう少し明るい色合いのデザインにできますか?他は変える必要はありません。 明るく見やすいようにしてください。」

すぐに修正してくれた。

デザインや機能に不満があったり、指示通りに仕上がっていなければ、追加の指示、修正を命じていけばいい。このような追加の指示、修正を与えることで、AIの出力はより理想のイメージに近づいていく。この試行錯誤のプロセスは、難解なプログラミングコードとにらめっこする作業とは全く違う。それは、目的を共有するパートナーとの「対話」そのものである。この手軽さと柔軟性こそが、バイブコーディングの魅力なのだ。

バイブコーディングが拓く未来

誰もが「開発者」になれる時代

バイブコーディングは今後広く普及していくだろう。それは、社会にどのような変化をもたらすのだろうか。最も大きなインパクトは、プログラミングの専門知識を持たない全ての個人が、自分のためだけの「開発者」になれる時代の到来である。

例えば、営業担当者が、顧客とのやり取りを記録し、次のアプローチ日を通知してくれる自分専用の簡易的な顧客管理ツールを作る。研究者の学生が、集めた論文データを自動で分類し、タグ付けしてくれるツールを作る。家庭内でも、冷蔵庫の残り物から作れるレシピを提案してくれる献立ツールを作るなど、さまざまなツールを自由に作る時代になるのだ。

これまで外部の業者に発注するか、既製品で我慢するしかなかった領域(そして開発には高額な費用が伴うことも多かった)で、一人ひとりが自分の課題を解決するオーダーメイドのツールを自由に、かつ即座に開発できるようになる。これは、社会全体の生産性を飛躍的に向上させるだけでなく、人々の創造性を解放し、無数の新しいアイデアやビジネスチャンスを生み出す土壌となるだろう。

注意すべき点と今後の展望

もちろん、バイブコーディングは万能ではない。現状では、銀行の勘定系システムのような、極めて高い信頼性と安全性が求められる大規模で複雑なシステムの開発は、依然として専門家による緻密な設計とプログラミングが必要である。また、AIの生成するコードが常に正しいとは限らず、意図しない動作をする可能性も考慮しなくてはならない。

しかし、AI技術はまさに日進月歩で進化している。今日不可能であることが、明日には可能になっているかもしれない。将来的には、より高度で専門的なアプリケーション開発でさえ、人間が自然言語でコンセプトを語り、AIがそれを形にするというスタイルが主流になる可能性は十分にある。

まとめ

本記事は、新しい概念である「バイブコーディング」について解説してきた。それは、専門的なプログラミング言語の代わりに、私たちの日常的な言葉(自然言語)を使ってAIと対話し、アイデアを形にする、画期的で新しいアプローチである。

業務効率化から趣味、家庭内の便利ツールまで、その応用範囲は広く、私たちの仕事や生活をより豊かにする絶大なポテンシャルを秘めている。重要なのは、これが特別なスキルではなく、誰もがAIとの対話だけで実現できる開発であるという点だ。

コンピューターの登場が、そしてインターネットの登場がそうであったように、AIとの対話能力は、これからの時代を生きる上で不可欠な素養となるかもしれない。恐れる必要はない。まずは簡単な指示からでいい。あなたもAIとの対話を始めてみてはどうだろうか。その先には、あなたのアイデアが形になるという、かつてない感動が待っているはずだ。

ABOUT執筆者紹介

Webメディア評論家 落合正和

Webメディア評論家/Webマーケティングコンサルタント

株式会社office ZERO-STYLE 代表取締役
一般社団法人 一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員

SNSを中心としたWebメディアを専門とし、インターネットトラブルやサイバーセキュリティ、IT業界情勢などの解説でメディア出演多数。ブログやSNSの活用法や集客術、Webマーケティング、リスク管理等の講演のほか、民間シンクタンクにて調査・研究なども行う。

<著 書>
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