06 June

地震や台風など多発..災害時に事業者を救済する税制度について

掲載日:2022年06月06日   
税務ニュース

近年は地震や台風などの災害が多発しており、いつどこで自身が被災してもおかしくない状況です。そのため、被災したときにどのような税務上の救済措置があるのか気になる方は多いのではないでしょうか?そこでこの記事では、災害で被害を受けたときに受けられる税制上の救済措置をご紹介します。

所得税の救済措置―災害減免法と雑損控除―

災害で損害を受けてしまったときに利用できる所得税の制度として、災害減免法と雑損控除があります。

災害減免法について

災害減免法とは、地震や台風、火災などの災害により資産に損害が生じたときに、税金を減免することを定めた法律です。その年の所得税が最大で全額免除されます。

災害減免法の対象は、納税者やその配偶者などの居住する住宅および、生活を営むうえで必要な家具や衣服、什器などです。日常生活で必要な範囲を超えると思われる家財、たとえば別荘や骨とう品、娯楽品などは含まれません。

災害減免法には適用条件があり、家財の損害金額が時価の2分の1以上で、かつその年の所得金額が1,000万円以下の場合に税の減免が認められます。ここで言う「時価」とは、その家財を今買うと仮定した場合の値段です。

以下に示すように、税が減免される割合はその年の所得金額によって異なります。

所得金額の合計 軽減又は免除される所得税の額
500万円以下 全額
500万円を超え750万円以下 2分の1
750万円を超え1,000万円以下 4分の1

なお、災害減免法の適用を受けるには申請が必要です。確定申告書等に適用を受ける旨と被害の状況および損害金額を記載して、所轄の税務署長に提出する必要があります。

雑損控除について

雑損控除とは、地震や風水害、火災、盗難、横領などで所有する資産が損害を受けたとき、一定の計算式で算出された金額を所得から控除する仕組みのことです。

雑損控除の対象は、納税者やその配偶者等が生活するうえで必要な住宅や家具、衣類、現金などです。災害減免法と同様、別荘や骨とう品、貴金属など、日常生活で必要な範囲を超えるものは対象になりません。また、事業用の資産も対象外です。

雑損控除では、次の計算式のうち多い方の金額が適用されます。

  • 差引損失額 - 総所得金額等 × 10%
  • 差引損失額のうち災害関連支出の金額 - 5万円

ここで言う「災害関連支出の金額」とは、災害により滅失した住宅、家財などを取り壊すか除去するために支出した金額などです。

差引損失額は、以下の式で算出します。

差し引き損失額=損害金額+災害等に関連したやむを得ない支出の金額-保険金などにより補てんされる金額

なお、損失額が大きいためにその年の所得金額から控除しきれない場合は、翌年以後(3年間が限度)に繰り越して、各年の所得金額から控除できます。

 

災害減免法と雑損控除の違い

災害減免法と雑損控除にはいくつかの違いがあります。

1つ目は控除の仕組みです。災害減免法は税額そのものの控除であるのに対し、雑損控除は所得控除(税額算定のもととなる所得額から控除)となっています。

2つ目は控除対象となる損失の原因です。災害減免法では風水害や地震など自然災害が対象ですが、雑損控除では災害に加え盗難や横領も含まれます(ただし、恐喝や詐欺は対象外です)。

3つ目は所得制限の有無です。災害減免法では所得が1,000万円以下という制限がありますが、雑損控除では所得制限はありません。

4つ目は翌年以降への繰り越しの可否です。災害減免法は翌年以降繰り越しできませんが、雑損控除なら3年間の繰り越しが可能です。

災害減免法と雑損控除、どちらを申請すべき?

災害減免法と雑損控除は同時に適用を受けることはできません。そのため、損害の規模や所得の大小を考慮し、より税負担が小さくなる方を選ぶ必要があります。

それぞれの制度を比べると、まず所得が500万円以下の場合は災害減免法を受けた方が得になる傾向があります。災害減免法なら所得税が全額免除になるからです。

一方、所得が1,000万円を超える場合は災害減免法の対象外であるため、必然的に雑損控除を受けることになります。

では、所得が500万円を超え1000万円以下の場合はどうでしょうか?ケースバイケースとなりますが、災害による損失額が所得金額を超える場合は雑損控除の方が有利と考えられます。なぜなら、損失額が所得を超えた分、翌年以降も繰り越して控除できるからです。

どちらが有利か判断に迷う場合は、税務署などに相談しましょう。

法人税の救済措置

以上で説明したのは所得税の救済措置ですが、法人税の救済措置もあります。

法人が自然災害により被災した場合、滅失・損壊した資産の額や、資産の取り壊し・除去にかかった費用、土砂など障害物の除去にかかった費用などを全額損金に算入できます。

また、復旧のために要する費用も、以下に示すように修繕費として区分されるものは損金への算入が可能です。

内容 区分
被災資産についてその原状を回復するための費用 修繕費
被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のために支出する費用 修繕費
被災資産について支出する費用(上記2つに該当するものを除く)のうち、資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合 修繕費:30%相当
資本的支出:残額

また、従業員への災害見舞品や、災害見舞金に充てるために拠出する分担金なども損金として算入できます。

さらに、申告・納付期限の延長や納税の猶予(相当の被害を受けた場合)、災害損失欠損金の繰戻しによる法人税額の還付なども利用できます。

おわりに

この記事では、災害による被害を受けたときに利用できる税制上の救済措置について紹介しました。
今回は所得税や法人税の制度について解説しましたが、このほかにも多くの制度が整備されているため、より詳しく知りたい場合には税務署に問い合わせるなどして把握しておきましょう。

ABOUT執筆者紹介

税理士 うばとしこ

税理士。大学卒業後、大手リース会社の営業職、税理士事務所への転職、結婚、出産を経て、2016年4月に税理士登録、2017年11月に独立開業。主に法人税務顧問のほか個人事業主を対象とした経理サポートのオンラインサロン「ゆるふわ経理部」を主宰。YouTube「ゆるふわチャンネル」での発信活動、全国各地の商工会議所や法人会、その他上場企業からの直接オファーで年間約50本のセミナー講師を務める。各種媒体への執筆活動は多数実績あり。2022年6月「経理マインドの強化書」出版/中央経済社、2023年5月「図解と会話でまるわかり!インボイスと消費税がすべてわかる本」出版/ソーテック社

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「経理マインドの強化書」出版/2022年6 中央経済社
「図解と会話でまるわかり!インボイスと消費税がすべてわかる本」出版/2023.5 ソーテック社

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