【創業ガイド Vol.11】専門家に報酬を支払ったりするときに発生する法人の源泉徴収手続きとは?
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法人設立して事業が開始したら従業員に給与を払ったり、専門家に報酬を支払ったりすることになります。この時に必ず知っておくべき手続きに、「源泉徴収」があります。
源泉徴収の手続きは、個人事業の方も一定の場合に必要となりますが、今回は、法人が源泉徴収を行う場合に限定して、その手続きや流れ、注意点をまとめています。
源泉徴収制度とは?
源泉徴収制度とは、給与や報酬を支払う事業者(法人)が給与や報酬を支払う際に、所得税を差し引いて、給与や報酬を支払う事業者(法人)が代わりに国に納付をする制度です。
源泉徴収の対象は?
源泉徴収の対象は、支払先が「個人」の場合と「法人」の場合で異なります。
たとえば以下の場合などで源泉徴収が必要となります。
- 法人が個人のライターさんに原稿料を支払った場合
- 大学教授に講演会を御願いした場合
個人に対して支払う場合の源泉徴収の対象
源泉徴収の対象となるものは、下記の通りです。
- 給与所得
- 原稿料や講演料
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
- 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
- ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
- プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
法人に対して支払う場合の源泉徴収の対象
- 馬主である法人に支払う競馬の賞金
源泉徴収の計算方法
源泉徴収の計算方法は、給与と報酬とで異なります。
給与
役員や従業員に支払う給与・賞与については、”国税庁の給与所得の源泉徴収税額表”に当てはめ、源泉徴収額を計算します。
報酬
士業(弁護士、税理士、社労士等)への報酬やデザイン料や原稿料などの報酬を支払った場合は、下記の表で源泉徴収する所得税と復興特別税の計算を行います。
支払金額(=A) | 源泉徴収税額 |
---|---|
100万円以下 | A×10.21% |
100万円超 | (A-100万円)×20.42%+102,100円 |
(注)求めた税額に1円未満の端数があるときは、切り捨てます。
源泉徴収のよくある注意点
消費税
源泉徴収は、原則として消費税も含めた税込金額を対象に源泉徴収額の計算を行います。しかし、請求書上で報酬金額と消費税額が明確に区分されている場合に限り、消費税抜の報酬金額を源泉徴収の対象とすることができます。
例えば、請求書に原稿料165,000円と記載があるとき⇒源泉徴収税額は、165,000×10.21%=16,846円となります。しかし、請求書に原稿料150,000円と消費税15,000円と分かれて記載されていた場合は、源泉徴収税額は 税抜150,000円×10.21%=15,315円にすることができます。
源泉徴収が必要な報酬か否かの判断が必要に
源泉徴収を行うか行わないかの判断は、相手が発行している請求書を基準に考えることはできません。支払先が源泉徴収制度を理解しておらず、本来源泉徴収の対象であるにもかかわらず、源泉徴収額が考慮されていないこともよくあります。
報酬を払う者(法人)は、「源泉徴収義務者」です。もし、源泉徴収義務者が源泉徴収すべき報酬に対して、源泉徴収をしていなかった場合に、納付すべき源泉所得税額の10%の不納付加算税や延滞税が課されるのは、「支払者」である法人になります。
つまり、法人は、報酬を支払う際には以下をを正しく判断を行う必要があります。
- その報酬は源泉徴収の対象か判断
- 正しい源泉徴収金額を計算
納付方法 原則
源泉徴収を行った源泉所得税は、支払月の翌月10日までに納付を行います。例えば、1月20日に給与を支払った場合、その源泉所得税は、翌月2月10日までに納付を行わなければなりません。
納付方法 納期の特例
例外として、従業員10名未満の会社の場合は、源泉所得税の納付を年2回に変更することが可能です。これを「納期の特例」と言います。納期の特例を適用した場合の納期限は表の通りです。
報酬の支払月 | 納期限(納期の特例) |
---|---|
1月~6月の支払分 | 7月10日まで |
7月~12月の支払分 | 翌年1月20日まで |
ただし、この特例を適用できるのは、給与の源泉分(給与の支払人数が9人以下の場合のみ)と税理士・弁護士等に対する報酬の源泉分のみです。その他の給与と報酬の支払いについては、納期の特例は適用できませんのでご注意ください。
※納期の特例の適用を受けるためには「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」の提出が必要です。
まとめ
法人の「源泉徴収」の手続きに必要となる前提知識や納付について解説してきました。基本的には、法人が個人に対して外注費や報酬を支払う際には、必ず考慮しなくてはならない論点となりますのでこの機会にしっかりおさえてください。
ABOUT執筆者紹介
税理士 吉村知子
ビジネス拡大のため、開業してから法人化を目指す個人事業主や法人のための税理士として、ともにビジネスの飛躍を目指す経営のサポートを行う。また、法人や個人事業主の顧問契約だけでなく、個人事業主向けの講座を開講。確定申告をゴールとしながら、経営者として必要となるお金の知識を学ぶオンラインプログラムが大好評。
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