2022年問題!都市農地の生産緑地を解説!
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2022年問題!都市農地の生産緑地を解説!
都市農業を営まれる都市農地は一般的に面積が小さく、地方で大規模に農業を営まれている方はどのような印象を受けるのか。
生産緑地は、生産緑地地区の指定から30年を経過すると市町村に買取り申出ができ、2022年に当該農地の8割が指定後30年を迎える。多くの農地が宅地化され都市部の地価が下落するのではないかと懸念され2022年問題として話題になっていた。先頃、国土交通省の調査で生産緑地のうち、少なくとも7割程度は農地として存続する見通しであるとのコメントがあった。
都市部での農業を考えている方は、本稿を読まれ少しでも参考にしていただきたい。記事の記載にあたり国土交通省・財務省・農林水産省の公表資料をもとにわかりやすく説明している部分は、著者の個人的な見解も含むことをあらかじめお断りする。
生産緑地制度とは?
良好な都市環境の形成を図るため、市街化区域内の農地の計画的な保全を図るもの。生産緑地地区内の農地の所有者は税制上の軽減措置を受けることができる一方、自らによる耕作が要件とされている。
用語解説
市街化区域
都市計画法に基づき既に市街地を形成している区域、おおむね10年以内に優先的・計画的に市街化を図るべき区域。
なぜ都市農業は必要なのか?
上図は2011年農林水産省「都市農業に関する実態調査」によるものだが、都市農家の所得内訳は農産物販売による農業所得よりもマンション等の賃貸収入による不動産経営所得が多く、驚かれる方も少なくない。
宅地化促進で都市農業衰退
高度経済成長期(バブル期)の急激な都市化により宅地需要が高まり地価が急上昇すると、都市で大規模な土地を有する都市農業への風当たりが強まり(市街化区域内の農地に対しては宅地化の促進が強く求められ)、保全する農地と宅地化する農地の区分が行われ、保全する農地については生産緑地地区の指定が行われた。
東日本大震災
2011年に発生した東日本大震災を契機に、防災の観点等から都市農業の考え方が変化した。避難場所や食料供給機能を担う都市農業の防災機能が注目。震災の際には物流等もストップし困惑したのは記憶に新しい。
都市農地は「あるべきもの」へ
地価が下落し都市部の人口増加も緩やかになる中で、近年、都市における農地の位置づけが、「宅地化すべきもの」から、都市における防災、良好な景観の形成、農業に関する学習の場、都市住民相互の交流の場の提供、都市住民の農業に対する理解の醸成等の多面的な機能に着目し、都市に「あるべきもの」へと変化。
我が国の農地面積は?
農地面積の現状
都市農業が主に行われている市街化区域内の農地が我が国の農地全体に占める割合は2%にも満たない。
市街化区域内農地面積
市街化区域内の農地面積が一貫して減少する中、生産緑地地区の農地面積はほぼ横ばいで推移している。
生産緑地はどこにあるのか
上図は国土交通省調べによる2021年12月31日現在、生産緑地地区の都市計画決定状況であるが、三大都市圏の特定市以外の面積130.20haと小さく、三大都市圏の特定市では、首都圏の東京都が最大の面積2,951.42haである。近畿圏では大阪府、中部圏では愛知県に生産緑地が多いのがわかる。
都市農地保全に向けて
生産緑地法の改正と都市農地の貸借の円滑化に関する法律(都市農地貸借法)の制定。具体的に見てみよう!
①生産緑地法の改正
2022年には全国で指定された生産緑地地区の8割が指定後30年を迎える。引き続き都市における農地を保全するため2018年4月に生産緑地法が改正され、買取りの申出期間を10年延長できる特定生産緑地制度が創設された。
ここがポイント
- 生産緑地地区の面積要件の緩和によりこれまでの一律500㎡から市町村の条例で300㎡まで引下げ可能。
- 特定生産緑地制度の導入で生産緑地の買取り申出できる時期が、30年経過後は10年ごとに延長可能。
- 特定生産緑地に指定されると固定資産税等の農地課税が継続され、相続税納税猶予制度の適用を受けることが可能。
②都市農地貸借法の制定
生産緑地地区内の農地の所有者は自らによる耕作を要件に税制上の軽減措置を受けることができたが、農業者の減少や高齢化が進行する中、都市の農地の有効な活用に向けて2018年9月に都市農地貸借法が施行された。都市農地の所有者が、意欲ある農業者等に安心して農地を貸付けすることができるようになった。
都市農地の税負担
都市農業は固定資産税と相続税の税負担が大きく、都市部で農業経営していても継続が困難とされていた。
①固定資産税
農地の固定資産税
特定生産緑地に指定した場合、上記解説したように生産緑地と同様の扱いになり農地評価・農地課税となり税負担が軽減される。
用語解説
農地評価
農地利用を目的とした売買実例価格を基準として評価。
宅地並評価
近傍の宅地の売買実例価格を基準として評価した価格から造成費相当額を控除した価格。
②相続税
納税猶予額のイメージ
都市部で農業を営んでいると相続税について疑問を抱く方は多い。相続税納税猶予制度を利用し、本来の相続税額と農業投資価格で計算した相続税額についての差額について納税猶予される。あくまでも猶予であって、その時点で納税免除ではないので要注意。
用語解説
農業投資価格
農地等が恒久的に農業の用に供される土地として自由な取引がされるとした場合に通常成立すると認められる価格として国税局長が決定した価格。東京都(2021年分)では10a当たり、田900千円、畑840千円となっている。
例えば東京都にある農地(畑)の路線価1㎡当たり100千円、面積1,000㎡の場合1億円と評価されるが、東京都の農業投資価格10a(1,000㎡)当たり840千円と評価されるので差が大きいことがわかる。
都市農地の活用
他の農業者に直接農地を貸し付ける場合だけでなく、これまでは企業やNPO等が都市農地において市民農園を開設する場合には、地方公共団体等を経由して農地を借り受ける必要があったが、都市農地貸借法により都市農地所有者から直接農地を借り受けることができるようになった。
- 地方公共団体や農業協同組合が農業委員会の承認を受けて開設する市民農園の用に供するために、これらの開設者に農地を貸し付けるケース。
- 農地の所有者が農業委員会の承認を受けて市民農園を開設し、利用者に直接農地を貸し付けるケース。
- 地方公共団体や農業協同組合以外の者(株式会社など)が農業委員会の承認を受けて開設する市民農園の用に供するために、開設者に農地を貸し付けるケース。
都市農地利用で活性化へ!
都市農地の所有者は高齢により農地の維持に苦慮していたが、上図の中央部で分かるよう選択肢が増え先祖代々の農地を手放すことなく存続が可能となる。
最後に
都市農業は都市という消費地に近接する特徴から、新鮮な農産物の供給に加えて農業体験・学習の場や災害時避難場所の提供、住民生活への安らぎ提供等の多様な機能を有している。
上記解説で示したように法制度創設により税制上の軽減措置を維持しつつ、営農や農地の活用が容易になった。いずれにしても都市であろうと地方であろうと農地を有効活用して、国産農産物の消費拡大を図り、農業の持続的発展を実現していかなければならないのは不変である。
ABOUT執筆者紹介
佐藤宏章
公認会計士/税理士
公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所 代表
秋田県農家出身(酪農・メロン・水稲)。東京農業大学農学部農学科卒業後、農業経営者に的確なアドバイスをと一念発起し、公認会計士資格取得。監査法人勤務を経て、「日本初の農業に特化した専門家」として独立開業。
農業経営者に会計・税務・経営をわかりやすく伝えることをモットーに、全国各地で活動中。企業・自治体・大学・税理士会等向けに講演、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「めざましテレビ」(フジテレビ)その他メディア出演も多数。かつてないスタイルで唯一無二の存在と信頼を集める。
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