リーダーに必要なのは「自己認識力」と「思いやり」
社会保険ワンポイントコラム
組織のリーダーが身につけるべき最も重要な能力は「自己認識力」だと言われています。この「自己認識力」ですが、具体的には自分の思考や感情、強みや弱み、志向性、価値観などを指します。これらをしっかり認識することで、他者を導けるようになるのです。部下の目線で考えてみてください。自分が何を考えているか、どう生きたいかも分かっておらず、自分の言動が他者にどんな影響を与えるかも理解していないリーダーには誰も仕えたくありませんし、近寄りたくもないでしょう。ですから、リーダーに必要なのは、まずは「自己認識力」なのです。
「自己認識力」を高めるために最も有効な方法は、マインドフルネスです。これは、「今、この瞬間」に注意を向けた心のあり方のことです。また、そうした心の状態を保ちながら「目の前のことに集中して取り組む力」とも表現できます。「瞑想」「ボディスキャン」「ジャーナリング」「傾聴」など多くの方法がありますが、これを継続して行うことによって、様々な刺激に対して衝動的だった反応が思慮深く選択的になります。つまり、自己を客観視して冷静に行動できるようになるわけです。
自己認識力が高まったリーダーは、それを活かして、自分が発している「ムード」や「自分そのもの」に気づき続けなければなりません。役職が上がれば上がるほど周りに意見してくれる人が少なくなるため、多くのリーダーは「裸の王様」になってしまいます。さらに、「自分は強くあるべきで、弱さや迷いを見せてはならない」という思い込みが強くなります。そうすると、身の丈以上の根拠のない意思決定をしてしまいます。人間は職位に関係なく、誰もが不完全な存在であることを自覚しないと失敗するのです。自分をさらけ出す勇気を持つことこそ真の強さです。そうしたリーダーの姿勢に部下は共感するようになるでしょう。
リーダーシップに欠かせないものとして、「自己認識力」の他に重要なのが「思いやり」です。英語では「コンパッション」といいます。人間に生まれつき備わっている「困っている人、苦しんでいる人を助けたい、役に立ちたい」という純粋な思いです。この「思いやり」を持っていると、困っている部下の存在に気づくことができ、その抱えている問題を解決するための率先垂範行動がとれるようになります。こうした行動がリーダーの求心力に繋がるわけです。
残念ながら、仕事ができると評価されている人ほど、自己批判精神が強いものです。そのようなリーダーに他者への「共感」や「思いやり」を期待することは困難です。自己批判が強いと、自分が困っているのは自分の努力が足りないからだ、と考えますから、他者にも同様のことを求めがちなのです。つまり、どのような部下に対しても、「仕事に厳しい上司」となってしまうのです。パワハラの源といっても過言ではないでしょう。
「思いやり」というのは、リーダーがあるがままの弱い自分を受け入れることから始める必要があります。自分の苦しみを認識できない人に他者の苦しみが理解できるはずがありません。ここでも有効な方法は「マインドフルネス」です。これを継続すると、自分の弱点や欠点も自然と受け入れられるようになり、他者の弱点や欠点も受け止められるようになります。結果として、「今、部下はこういう問題を抱えて困っているんだな。いつかの自分と同じだ。建設的に向き合っていこう。」と心持ちが変化するのです。
ぜひ、リーダーに限らず、すべての社員で「マインドフルネス」を活用した「自己認識力」と「思いやり」を身につけ、信頼関係で結ばれた、心理的安全性の高い強いチーム作りに取り組んでみてください。
ABOUT執筆者紹介
大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役
大曲義典 社会保険労務士事務所 所長
関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。