02 March

大企業と取引したい!プレゼンコンペに勝つコツ(後編)

掲載日:2023年03月02日   
中小企業おすすめ情報

 

大企業や行政機関などの大きな組織が物品・サービスを調達するとき、既存の取引先に限らず、新しい取引先候補に対しても提案や見積を募ることがあります。このような入札(総合評価方式)やプレゼンコンペに参加するチャンスを得たら、ぜひ受注を狙いたいですね。

このコラムの前編では、大きな組織の調達の特徴や、入札(総合評価方式)やプレゼンコンペに勝つコツの概要(評価項目に丁寧に対応すること)を解説しました。後編の今回は、より理解を深めていただくために発注者側の視点を具体的に例示して解説します。

(ご注意)取引先の選定方法や評価項目は、発注者側がそれぞれ自由に設定するものですので、ここで解説する内容はあくまでも一般論としてご参考程度にお読みください。

発注者側が取引先を選ぶ視点(例)の全体像

このコラムの前編で取り上げた通り、大きな組織が入札(総合評価方式)やプレゼンコンペによって取引先を選ぶ際は、各社からの提案内容に、あらかじめ用意された評価項目・評価基準に則って点数をつけるやり方が一般的です。

評価項目は、その調達案件の商品・サービスの特性、調達の背景などを踏まえて事前に用意されます。評価項目によくある視点としては「品質」「価格」「納期」「信頼性」「担当者の質」の5つが挙げられます。どの視点も軽視できません。審査の際は、総合点の最も高い提案が選ばれるからです。(ただし調達の背景によっては特定の要素の配点が大きく設定される場合があります)

発注者側が取引先候補を比較する場面をイメージしていただくために、ある資料をお見せしましょう。下図は、前述の5つの視点で各社の評点を集計した資料の例です。

実際に、発注者側の組織内で取引先を決定する稟議資料に上図のような資料が添付されることがあります。このようなグラフが作られるかどうかは別ですが、ここでお伝えしたいのは、発注者側が各社の提案を評価する際、このようにさまざまな視点から定量的に評価することが多い、ということです。

上図の例では、価格だけはB社がダントツで高評価ですが、総合1位を獲得したのは総合的に優れた提案をしたA社です。プレゼンコンペに勝つには、つまりA社のような評価を獲得するには、発注者側から示される評価項目すべてを丁寧に読み込んで理解し、すべての項目で出来る限り高得点を狙う努力が欠かせないのです。

それでは、このような評価で実際に使われる評価項目が具体的にどのようなものか、例示してまいりましょう。

「品質」の視点において、よくある評価項目

品質に関してよくある評価項目には、「委託業務の理解度と基本方針」「類似案件の実績」「組織体制」「責任者や従事者の経歴や保有資格」「教育体制」といったものがあります。多くの場合、提案書の記載事項が評価項目に合わせて指定されることになります。

「類似案件の実績」「組織体制」「責任者や従事者の経歴や保有資格」「教育体制」といった項目では、事実をそのまま評価してもらうほかありません。したがって、実績が少ない小規模な事業者が勝つのは、正直厳しいものがあります。

しかし、そのような中小事業者にも食い込める項目があります。それは「委託業務の理解度と基本方針」といった項目です。これは業務委託の案件でよく見られる重要な項目で、発注者側の経営状況や、当該案件の発注に至った経緯・背景に対する理解度が問われます。さらに、その理解を踏まえて当該業務実施上の「基本方針」を端的に述べることを求められます。つかみどころがなく対応が難しい項目ですが、一般的に配点が大きい項目です。経営計画やIR資料などの公開資料をよく読み込んで、発注者や案件に対する深い理解を示し、的を射た基本方針を提示したいところです。それができれば、そのこと自体が得点源になるだけでなく、その基本方針から導かれるその他の個別具体的な提案事項も的を射たものになり、提案書全体の得点力に影響します。「業務を実施する上での基本方針を書いてください」といった項目では教科書的で中身を伴わない記載になりがちですが、ぜひ注力したい項目です。

「価格」の視点において、よくある評価項目

価格に関する評価項目は、当然ですが「見積金額が予算内におさまるか」です。見積金額は、指定の様式に記入する形で提示を求められることが多いです。見積金額の前提条件が詳細に指定されている場合は、発注者側に「各社からの見積金額を同じ条件できちんと比較したい」という思惑があるということです。細かくて難解であっても、よく読み込んで発注者側が求めていることを理解したうえで見積りましょう。指定された前提条件の意味がわかりにくい場合は、遠慮なく発注者側に質問を出しましょう。

「納期」の視点において、よくある評価項目

例えば印刷物や日常的に仕入れる部品、調査業務など、納期の概念がある物・サービスの調達案件では、納期が許容範囲内かを評価するため、「依頼したもの(こと)の納期の短さ」といった項目が設けられることがあります。この場合、発注者側が指定する仮の条件で納期を見積って、提案書の中で提示することになります。各社の提案を比較されますので、提示された条件を正確に理解したうえで見積もりましょう。提示された条件の意味がわかりにくい場合は、遠慮なく発注者側に質問を出しましょう。

「信頼性」の視点において、よくある評価項目

信頼性に関してよくある評価項目は、「財務基盤」「過去の取引実績」「社会貢献への取り組み」です。

提案書と一緒に決算書の提出を求められることが多いのは、「財務基盤」をチェックされるからです。発注者側が決算書で見ることは、提案者側の会社の供給力、つまり「物品・サービスを、安定して確実に供給し続けてくれるのか」です。万が一にも契約期間中に取引先の業務がストップするような事態は避けたいものです。売上高が下降していたり営業赤字が続いていたりすると、業績不振から品質や供給力の低下に繋がる懸念を与えます。経営の安全性を示す指標、たとえば資本構成を示す自己資本比率や流動比率などの資金繰り指標が悪いと、事業の継続性を不安視されます。節税のためにあえて赤字決算にする会社もありますが、プレゼンコンペに勝つためには日ごろから見栄えのよい決算を心がける必要があります。

「過去の取引実績」や「社会貢献への取り組み」は、提案書の中で提示することになります。過去に取引したことがあればそれは発注者側にとって大きな安心材料になります。「社会貢献への取り組み」とは、例えば人権や環境に配慮した取り組みのことです。提案に際してそういったことが問われるのは、大企業や行政機関など大きな組織の調達活動は日本経済に与える影響が大きいことから、取引先選定にあたっては経済合理性だけではなく「社会的責任を果たす」という観点も求められているからです。

「担当者の質」において、よくある評価項目

例えば業務システムの開発を委託する調達案件の場合、発注者とシステム開発会社は、その仕様や開発状況について頻繁に打ち合わせをします。その打ち合わせをする窓口担当者の質は、発注者側にとって大変重要な要素です。例えば、その業務の経験が乏しい担当者には安心して任せることができません。また、担当者のコミュニケーション能力に問題があると、発注者側の依頼がきちんと伝わらなかったり、システム開発会社側の説明を理解できなかったりします。担当者の業務に取り組む姿勢や熱意も重要です。発注者側の業界事情や社内事情に理解を示そうとしない姿勢であると、何か問題が起きた時に協力して乗り越えていく関係を築くことは難しいでしょう。

このことから、「窓口担当者の実績、コミュニケーション能力」といった評価項目が設けられることがあります。この場合、担当者の経歴などを提案書の中で提示することになります。書類による審査に加えてプレゼンテーションの機会がある場合は、そこで担当者のコミュニケーション能力や人柄を見られることがあります。プレゼンテーションの場で担当者の質を見られる場合は、以下のような観点が挙げられます。

  • 人柄のよさ(「この人と仕事をしたい」「この人なら信頼できる」と思わせるような人柄か)
  • コミュニケーション能力の高さ(「一を聞いて十を知る」ような理解力があるか、専門性の高い事柄を分かりやすく話せるか)
  • 熱意ある姿勢(事務的ではなく「この人はわが社の取り組みの重要性を理解してくれて、寄り添ってくれそうだ」と思わせる姿勢があるか)

以上、このコラムでは前編と後編を通して、大きな組織の調達の特徴や、プレゼンコンペに勝つコツを解説しました。入札(総合評価方式)やプレゼンコンペに勝つには、どのような評価項目で審査されるのかを想像しながら提案資料づくりに取り組むことが大切です。初めてのチャレンジであっても果敢に取り組んで、ぜひ大きな仕事の獲得を目指しましょう。

ABOUT執筆者紹介

経営コンサルタント 古市今日子

株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士

外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積み、2016年独立。
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営指導員などを務める。
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件

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