新型コロナウイルスの相続税対策への影響
税務ニュース
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新型コロナウイルスにまだまだ油断はできませんが、GO TOキャンペーンなどの経済対策が実施され、街中や観光地に人の流れが戻ってきたように感じます。上場株式の日経平均も1月以降、大幅に下落しましたが、最近はコロナ禍前の水準で推移しています。そのような中、相続税対策にどのような影響があるのか、取引相場のない株式(自社株式)の評価と物納についてお伝えします。
【取引相場のない株式】
取引相場のない株式の価額は、評価会社(自社)の業種や規模に応じて評価方法が決定されます。一般の会社の場合、「類似業種比準価額方式」「純資産価額方式」または、その折衷法となります。基本的に会社規模の大きい方が、類似業種比準価額方式で算定した株価の影響度が高くなります。(なお、少数株主等については、「配当還元方式」で算定します。)
<類似業種比準価額方式の計算方法と新型コロナウイルスの影響>
類似業種比準価額方式は、評価会社(自社)と同業種の上場会社の株価(類似業種の株価)をベースに、評価会社と類似業種の配当・利益・純資産の3要素を考慮して株価を算定する方法です。
類似業種の配当・利益・純資産の算定要素は、新型コロナウイルスの影響は、一部しか考慮されていない状況です。従いまして、評価会社の直近期の業績が、新型コロナウイルスの影響で悪化している場合、現時点では、類似業種の算定要素の数値が高い状態になります。そのため分母が大きくなり、計算理論上、算定される株価は低くなります。類似業種の数値は、上場会社の公表データをベースにしているため、評価会社とタイムラグが生じ、このような状況となります。来年以降の場合、上場会社の業績悪化により分母が小さくなると予測されます。しかしながら、それでもなお、類似業種比準価額が大幅に上昇する可能性は低いと考えます。
<純資産価額方式の計算方法と新型コロナウイルスの影響>
純資産価額方式は、評価会社の貸借対照表をベースに保有している資産・負債等を、相続税評価で評価し直して、株価を算定する方法です。評価会社の貸借対照表がベースとなりますので、新型コロナウイルスの影響を受けている場合には、直接的に影響します。その中でもご注意頂きたいのが、土地になります。土地を路線価で評価する場合、令和2年7月1日に公表された相続税路線価は、令和2年1月1日時点のもののため、新型コロナウイルスの影響は反映されていません。そのため、新型コロナウイルスの影響で時価が下落している場合、時価よりも路線価評価額の方が高くなる可能性があります。土地を多く保有されている場合には、特にご注意ください。
<まとめ>
現時点では、国税庁などから公表されている数値に、新型コロナウイルスの影響が考慮されていないものが多くあります。また、自社の業界が新型コロナウイルスの影響を、すぐに受ける業界なのか、それとも、しばらく経ってから影響がある業界なのかも注意が必要です。相続対策として、自社株の贈与を検討される場合、株価算定の算式を理解したうえで、株価を構成する数値がどのタイミングで下がるのか、下がる見込みなのかを判断していただく必要があります。経済全体がダメージを受けたリーマンショックの時とは異なり、直接的な影響を受ける業界については、甚大な損害を被っている一方で、全く影響がない業界や、むしろ伸びている業界もあり、個別に慎重な判断が求められます。
【物納対策】
相続税は、現金一括納付が原則ですが、延納によっても金銭で納税することが困難な場合には、物納が認められます。物納の際、金銭の代わりに収納される財産の価額は「相続開始日時点」の価額となります。上記にも記載しましたが、土地を物納する場合、令和2年の路線価は新型コロナウイルスの影響が考慮されていないため、評価額が高くなっています。そのため、高い評価額の土地を物納で相続税の納税ができれば、土地を売却して現金化したうえで納税するよりも有利となります。また、上場株式についても、相続発生後にコロナ禍の影響で株価が大幅に下落した場合も、物納が有利となる場合があります。ただし、物納が認められるには要件が厳しく、また事務手続きに時間が要するため、予め対策をしておく必要があります。
ABOUT執筆者紹介
代表社員税理士 筒井亮次
会計事務所勤務を経て大手税理士法人に入社。資産税、財務・税務デューデリジェンス業務を中心に従事。2011年4月に税理士法人 経世会に入社。2018年より現職。愛知県半田市・名古屋・東京の3拠点体制でお客様の幅広いニーズをカバーしている。スタッフ目線を大事にした業務改善・働き方改革を実行し、ワンチームで事務所拡大へ向けた挑戦を続けている。
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