2024年問題とは?物流・建設・医療の各業界の影響と解決策を解説
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2022年頃から「2024年問題で各業界が大変なことになる」と騒がれるようになりました。特に影響が大きいとされているのが、物流・建設・医療の業界です。今の日本の産業では人手が足りていないと言われている中、2024年問題で深刻な問題が出るのではないかと言われています。
この記事では、2024年問題の内容と、物流・建設・医療の各業界への影響、解決策についてお伝えします。
1.2024年問題とは何か?背景も確認
2024年問題とは、2024年4月から時間外労働が規制されることで生じる問題を言います。2024年問題の背景と内容を以下、確認していきましょう。
1-1.2024年問題の背景
2024年問題の背景には、働き方改革関連法の成立があります。「職場環境を改善して、魅力的な職場づくりをしよう。そして人手不足を解消しよう」という号令の下、さまざまな法改正が行われました。
その1つが労働基準法の改正です。これにより、次のように時間外労働に上限が設けられることとなりました。大企業では2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されています。
ただし、建設・物流(運送)・医療といった一部の業界は、新たな規制に早期に対応するのが困難でした。もともと人手不足が深刻である上、ITなどによる効率化が難しかったからです。そこで、こういった業界については、5年間の猶予期間が設けられたのです。結果、2024年4月から時間外労働が規制されることとなります。
なお、具体的な時間外労働の規制は次のようになっています。
こういった上限時間を超えて従業員に労働をさせると労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があるのです。
1-2.2024年問題で考えられる悪影響
時間外労働が規制されれば、確かに長時間労働によるストレスや睡眠不足が解消され、ワークライフバランスを維持しやすくなります。しかし一方、一人あたりの仕事時間が減るため、業務が滞りやすくなる可能性があります。結果、次のようなことが起きるのではないかと言われています。
- サービスの質の低下
- 労働者の収入の減少
- 売上・利益の減少
- サービス価格の上昇
2.物流(運送)・建設・医療における2024年問題
2024年4月からの時間外労働規制で直接影響を受けるのは物流(運送)・建設・医療の各業界です。それぞれ、2024年問題が次のような形で現れるのではないかとされています。
2-1.物流(運送)業界
物流(運送)業界では、次の2つの点で2024年問題が顕在化するのではないかとみられています。
- 輸送力の低下とそれに伴う収益の減少
- 労働時間の減少に伴うドライバーの収入減
まず1です。物流・運送は社会の血液と言われます。つまり、輸送力が低下することは他の産業すべての停滞につながるわけです。また、当然ながら、運送業界全体の売上と利益も圧迫されると予想されます。
次に2です。これまで、物流(運送)業界の担い手であるドライバーたちには「長時間労働で稼ぎを少しでも増やす」という傾向がありました。しかし、労働時間の総量が規制されれば、必然的にドライバーの収入は落ち込んでしまいます。収入増の源である長時間の時間外労働がしにくくなるからです。
2-2.建設業界
建設業界では、次の点が懸念されています。
- 建設計画の進捗の大幅な遅れ
- さらなる人手不足
まず1です。時間外労働が960時間に規制されれば、労働時間は当然減少します。結果、多くの建設計画が進まなくなるのは必定です。個人の家や民間企業のビルの建設だけでなく、公共事業にも影響します。
特に現在、懸念されているのは大阪・関西万博のパビリオン建設です。2025年に開催を控え、建設計画が進められています。しかし、時間外労働が規制されれば進捗が遅れ、開催に間に合わなくなるかもしれません。実際、万博の運営母体である日本国際博覧会協会は昨年政府に対し「大阪・関西万博については時間外労働規制の対象から外してほしい」と要請したことが明らかとなっています。
次の2です。以前から建設業界は深刻な人手不足に見舞われていました。背景には若年層の労働者不足、低賃金、建設業の需要増大があります。それでも物流(運送)業界と同様「長くたくさん働いて稼ぐ」層に支えられていました。
しかし、時間外労働が規制されれば当然、稼ぎたくても稼げない状況に陥ります。結果、人手不足が一層深刻化することが懸念されるのです。
2-3.医療業界
医療業界では医師の時間外労働により、次のような形で2024年問題が顕在化すると言われています。
- 労働力不足
- 医療サービスの質の低下
まず1です。すでに医療の世界では医師不足が叫ばれていました。それでも診療や急患対応ができていたのは医師たちの長時間労働のおかげがあったからです。しかしここで時間外労働が規制されてしまうと「いてほしいときに医者がいない」という状態が頻発するおそれがあります。
次に2です。医師の労働時間が減れば、診療や手術、急患対応がしにくくなります。つまり、医療サービスそれ自体の質が低下するおそれがあるのです。
3.2024年問題における3つの解決策
2024年問題を最小限に抑える解決策として、次の3つが考えられます。
3-1.業務の効率化
物流(運送)ならば、貨客混載による過疎地域での輸送効率の向上、共同配送による配送効率の向上、フェリー便の利用や中継輸送による労働環境の改善などが考えられます。
3-2.業務の平準化
建設業界だと、ひとり親方の従事率が高いため、業務が属人的になりがちです。綿密な労務管理だけでなく、各工程における必要な労働力を再検証し、業務内容をできるだけマニュアル化するようにすれば、労働力が減ってもある程度の合理化は図れます。
3-3.離職しにくく復帰しやすい職場づくり
医療業界では、女性医師の離職が問題視されています。人手が少ないため、妊娠しても産休・育休を言いにくい環境にあることが一因とされているのです。こういった環境を改善し、安心して産休・育休を言いやすい職場になれば、時間外労働規制があっても医師の数を確保しやすくなるかもしれません。
4.まとめ
時間外労働規制でさまざまな影響が懸念されます。しかし一方「ピンチはチャンス」とも言います。2024年問題を逆手に、DXによる事業の効率化を図るなどをすれば、さらなる事業の発展や新たな商機につながるかもしれません。
ABOUT執筆者紹介
行政書士 鈴木良洋
1974年生まれ。1996年行政書士試験合格、1998年中央大学法学部政治学科卒業。2002年行政書士登録。建設業、司法書士事務所、行政事務所勤務を経て2004年独立開業。20年超、外国人の在留手続を専門に外国人の起業・経営支援を行う。これまでの取扱件数4000件超。元ドリームゲートアドバイザー。