18 April

インボイス制度で美容師の収入は変わるのか?~業務委託美容師と業務委託サロンの場合~

掲載日:2022年04月18日   
税務ニュース

みなさま、こんにちは。税理士の脇田です。最近よく耳にする「インボイス制度」。来年の10月から始まります。インボイスって登録した方がいいのかしない方がいいのか、しないといけないものなのかしなくてもいいのか…?徹底解説していきます!

消費税の仕組み

消費税を負担するのは消費者ですが、実際に税務署に納付するのは事業者です。これを読んでいるあなたは、消費者でもあり、事業者でもあるので混乱するかもしれません。

例えば、あなたがスーパーで家庭の夕飯の買い物をしているときは「消費者」、事業のための文具を買うときには「事業者」の立場です。スーパーでの買い物では消費税を払い、その負担もします。つまり、払いっぱなしです。事業のために文具を買うときには消費税を払っても(「事業者なんで払いません!」と言うわけにはいかないのでいったん払う)、それを負担する必要はありません。その分の消費税はあとで返してもらえるのです。

 

 

一方、事業で売上げた時にもらう消費税は、あとで税務署に納めることになります。結論から言うと、原則はこのようになります。

事業者が納める消費税 = お客様や取引先からもらった消費税 ― 経費を払ったときに払った消費税

 

文具を買うときに払った消費税は、文房具屋さんが後で納付するため、あなたが負担する必要はありません。事業者全員がこの式で求められる金額を納付することで、消費者が負担した消費税は、きちんと国に治められることになります。

インボイスってなに?

現在は、2年前の課税売上が1,000万円以下の事業者は、消費税を納めなくていいことになっています。これを「免税事業者」と言います。もらった消費税と払った消費税の差額分、利益が増えるのです。なんだかズルい気もしますが、法律でそうなっているので問題ありません。免税事業者は、お客様から堂々と消費税を受け取って良いのです。

つまり、消費者が払った消費税のうち一部が国に届かず、事業者のところで止まってしまっています。そこで、解決策が考えられました。

事業者が納める消費税 = お客様や取引先からもらった消費税 ― 経費を払ったときに払った消費税

 

「経費を払ったときに払った消費税」を、相手側(売った人、お金をもらった人)が消費税を納めない事業者なら、差し引けないようにする。これが「インボイス制度」です。

先の例で言えば、あなたが文具を買ったときに払った消費税は、文房具屋さんがあとでその分納めてくれるから、あなたは負担する必要がなく返してもらえる(売上に係る消費税から差し引ける)わけです。逆に文房具屋さんが消費税を納めないのなら、あなたがその分を負担します。「経費を払ったときに払った消費税」分、損することになります。つまり、売上に係る消費税から払った消費税を差し引くためには、相手側(売った人、お金をもらった人)から、「あとでちゃんと消費税を納めるよ」と書いてある領収書や請求書をもらう必要があります。それが「インボイス」で、これまでの領収書等の内容に加えて、「登録番号」と、税率ごとに合計した消費税額と税率が書かれています。

インボイスは「あなたから頂いたお金のうち消費税はいくらで、この消費税をあとで私は納付します」というものですから、免税事業者は発行することができません。課税事業者(消費税を納める事業者)で、「インボイス発行事業者」に登録した事業者だけが発行できます。

「インボイス発行事業者」に登録しないと、どうなる?

そうすると、免税事業者は領収書や請求書に「消費税額」を載せにくくなりますね。「11,000円(内消費税1,000円)」と書いてある領収書を渡された方は、それがインボイスでなければ、「え、消費税をあとで納めないのに、私から消費税をもらうの?」という気持ちになるかもしれません。

具体例として、業務委託型の美容師と、業務委託サロンを経営するオーナーについて考えてみましょう。

業務委託サロンでは、雇用関係で美容師を雇うのではなく、サロン側で集客やシャンプー等の在庫管理などの店舗運営を行って、美容師は業務を委託される形でお客様に施術します。サロンは、お客様からの売上のうち、何割かを美容師に払います。その他、店舗の家賃やシャンプー、水道光熱費など様々な経費を差し引いた分が利益となります。美容師は、サロンへ売上を請求し、お金をもらいます。自分で持ち込んだシャンプーやハサミ、ドライヤーなどの経費を差し引いた分が利益となります。

美容師は免税事業者、サロン経営者は課税事業者だった場合を考えます。現在は、美容師はサロンから消費税をもらい(でも国に納めない)、サロン経営者は美容師に払った消費税をあとで返してもらえます(消費税を納めるときに、お客様からもらった消費税から差し引ける)。お客様が払った消費税のうち一部は、美容師の利益となっていますが、サロンが損するわけではないので問題ありません。

インボイス開始前

ケース1 自分が登録しない場合(あなたが美容師の場合)

あなたが美容師だとしましょう。免税事業者のままでインボイスの登録をしない場合、サロン側に「消費税を納めないんなら、消費税分を払わなくてもいいでしょ」とか「インボイスを発行してくれる美容師にしか業務委託しないことにしました」と言われる可能性があります。ケース2で説明するように、サロン側がその分損してしまうのだから、仕方ない…。でも登録すれば、今までもらえていた消費税分、利益が減っちゃうし、消費税の申告もしないといけない…。(難しそう)どうしよう…。

ケース2 取引先が登録しない場合(あなたがサロン経営者の場合)

あなたがサロン経営者だとしましょう。納める消費税の計算をするとき、お客様からいただいた消費税から、家賃や水道光熱費で払った消費税は差し引けるけど、インボイスを発行してくれない美容師に払う消費税は差し引けなくなります。美容師が得してる消費税分、自分がかぶることになるのです。う~~ん、〇〇さんはいいヤツだし腕もいいしお客の評判もいいけど…インボイス発行してほしいよなぁ。「いや、僕は免税事業者なんでインボイス発行しません」って言われたけど、それなら消費税は受け取らないでほしいと言ってみるか…。ほかにインボイスを発行する腕のいい美容師と契約するか…。

インボイス開始後

どちらの立場も気持ちは理解できますが、多くの場合、現在は免税事業者である事業者も、課税事業者になって(売上1,000万円以下でも課税事業者を選択することはできます)、インボイス発行の登録をすることになるでしょう。インボイス制度が始まると、売上が少ない事業者や副業で事業をしている人も、消費税を申告して納税しないといけなくなるケースが増えます。課税事業者も、これからは相手からの領収書等がインボイスなのかどうか確認するという手間が増えます。

どちらにしても全事業者に大きな影響があるインボイス制度。自分が登録するかしないか、取引先が登録しない場合どうするか考えなくてはいけません。

ABOUT執筆者紹介

税理士 脇田弥輝

脇田弥輝税理士事務所は、脇田弥輝氏が代表を務める税理士事務所。脇田氏はセミナー活動、子育てをしながら働く女性を応援するブログ発信、租税教育などの多方面で活躍している。
脇田弥輝税理士事務所

 
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