固定資産税の節税策?住宅街の土地に栗の木が生えているワケ
税務ニュース
郊外の住宅街で栗の木しか植えられていない畑を目にすることがあります。少量の栗の販売だけで生活が成り立つとは思えません。なぜこのような土地があるのでしょうか。理由の一つは、固定資産税にあるようです。
固定資産税とは何か
固定資産税は、土地や建物、償却資産と呼ばれる事業用資産に課される税金です。都道府県や市区町村が課税します。納めるのはその年の1月1日において固定資産の所有者として固定資産課税台帳に登録されている人です。税額は、原則、次の式で計算します。
農地の固定資産税は4区分で課税
農地も土地なので固定資産税がかかります。ただし、農地法で利用が制限されている分、収益性は宅地より劣ります。そのため、農地の固定資産税は宅地よりも低く設定されます。
ただ、農地と言っても様々です。農業向きなところもあれば、宅地向きなところもあります。固定資産税の課税にあたっては、農地は「一般農地」「生産緑地」「一般市街化区域農地」「特定市街化区域農地」に分けた上で計算します。
一般農地
都市計画区域内の調整区域内の農地や生産緑地としての農地、都市計画外の農地のことです。長期にわたって農業を営むことが前提となっています。農業は宅地よりも活用余地がなく収益性が低いため、固定資産税評価額は「農地として利用する場合の売買価額」が基準となります。結果、評価額は宅地よりかなり低くなります。
税額は「評価額×1.4%」で計算します。ただし、次の農地調整固定資産税額が上限です。
農地調整固定資産税額=前年度分の課税標準額×今年度の負担調整率×税率
一般農地は、税負担の調整措置が講じられています。固定資産税が急激に上がっても、影響が小さくなるようにするためです。負担調整率は1.025から1.10の4段階で設定されています。
一般市街化区域農地
特定市街化区域農地以外の市街化区域内の農地のことです。市街化区域とは「すでに市街地が作られている土地」「約10年以内に市街化を進めていく土地」を言います。
この農地は宅地並みの評価がされます。ただし、宅地並みの価値があるといっても、実際に農業を行っているなら話は別です。宅地ほどの収益性はありません。そのため、固定資産税の計算は、次のようになります。
固定資産税評価額=固定資産税評価額×1/3×1.4%
ただし、この税額が農地調整固定資産税額を上回るなら、一般農地と同じく農地調整固定資産税額が納税額となります。
特定市街化区域農地
三大都市圏内の特定都市における市街化区域内の農地のことです。三大都市圏とは「首都圏」「近畿圏」「中部圏」の3つの都市圏を指します。
先ほどの一般市街化区域農地以上に宅地転用の可能性が高いため、宅地並みの評価で宅地並みの課税がされます。
生産緑地
市街化区域内にある農地の一つです。よりよい都市を作るべく緑地を活用するための農地として1992年に一部の都市農地が指定を受けました。生産緑地法第3条第1項の条件を満たしたものが生産緑地です。
積極的に保護されるべき農地であるため、固定資産税も一般農地と同じです。農地として評価され、農地並みの課税となります。
栗の木を植える3つの理由
栗の木しかない土地の多くは昔、農業がおこなわれていました。「耕作が難しくなったがゆえの植樹」だったのです。なぜ栗の木なのでしょうか。野菜を育ててもいいはずです。また、なぜ更地ではダメなのでしょうか。
背景には、次の3つの理由があります。
面倒な転用手続きをせずに済む
農地の上に自宅や賃貸物件を建てるなら、農地転用の手続きが必要です。農業委員会を通じて都道府県の許可が得られれば、農地を宅地に転用し、自宅や賃貸物件を建てられます。
しかし、農地転用には手間だけでなく時間とお金がかかります。手続きだけでなく、宅地造成や建物建築にも膨大なコストがかかるのです。「土地活用したい」など具体的な目的がないなら、あまりいい選択ではありません。
宅地の節税には限界がある
居住用なら、土地も建物も固定資産税を抑えられます。自宅や居住用アパートの敷地ならば、課税標準額は評価額の1/3か1/6です。また、新築住宅の固定資産税は通常の半額になります。
それでも限界があります。軽減措置があっても、農地の方が固定資産税は安いのです。また、住宅の固定資産税の軽減は長くても5年間しか受けられません。特定市街化区域農地以外なら農地のままの方が得だと言えます。
栗の木は手間がかからない
更地にしておくわけにはいきません。農地に何の作物を植えないでおくと、更地として高い固定資産税が課されます。かといって、野菜や果物を育てるのは大変です。
そこで選ばれるのが栗の木です。水やりはいりません。多少の手入れで間に合います。栗の木なら、手間暇かけずに固定資産税を抑えられるのです。
栗の木農地の多くは「生産緑地」
栗の木のある農地の多くは生産緑地です。生産緑地は、市街地の中にありながらも農地並みの課税で済んでいます。営農義務が課されていても、農業の後継者がいないので耕せないのが現実です。だからといって宅地化できるわけでもありません。やむを得ない選択として残ったのが栗の木だった、と言えます。
ただ、栗の木を植えているだけでは生産緑地の目的を果たせているとは言えません。今後は、賃貸などの活用が重要性を増してくると見られます。
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。
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