06 March

インボイス制度のスタート後、売り手負担の振込手数料にどう対応する?少額の返還インボイスには交付義務の免除措置も予定。

掲載日:2023年03月06日   
税務ニュース

振込手数料とインボイス制度

本コラムでは、インボイス制度開始後において、売り手が振込手数料を負担した場合の対応方法について解説します。

ビジネスを行ううえで頻繁に発生するのが、銀行等の振込手数料です。インボイス制度がスタートすると、売り手が振込手数料を負担する場合には、原則として返還インボイスの交付が必要です。しかし、今後は簡易的な取扱いが認められ、少額の返還インボイスの交付義務が免除される予定です。

振込手数料は買い手と売り手のどちらが負担?

原則は買い手負担の振込手数料

銀行などの振込手数料は、買い手が負担するパターンと売り手が負担するパターンの2つが商習慣として存在します。

振込手数料は、買い手と売り手の双方に「振込手数料を売り手負担とする」という契約などの別段の取り決め(合意)がない限り、買い手負担が原則です。これは、買掛金や未払金といった買い手の債務は、債権者である売り手の口座に振込入金することにより弁済がされたことになり、加えて、振込手数料も弁済の費用に該当するためです(民法484条、485条)。

また、振込サービスという役務提供を受けているのは振込側である買い手であり、振込手数料は金融機関に振込を依頼した買い手側が負担すべきとも考えられます。

売り手が振込手数料を負担する場合

実際には、売り手が振込手数料を負担するケース(つまり、買い手が振込手数料を差し引いて振り込むケース)も少なくありません。その場合、上記のような理由から、振込手数料の取扱いは請求書で明示されていることがほとんどです。

しかし、インボイス制度がスタートすると、売り手負担の振込手数料をどのように処理するかによって、インボイスの保存などの対応方法が異なるため注意が必要です。以下では、売り手負担の振込手数料の処理方法とインボイス制度との関係性について解説します。

売り手負担の振込手数料の処理方法には2つのパターン

売り手負担の振込手数料について、インボイス制度開始後に売り手が消費税の「仕入税額控除」を行うためには、以下の(1)と(2)の2つの方法が考えられます。

(1)売上値引きとして処理する
(2)買い手の立替として処理する

(1)売上値引きとして処理する方法

一つ目は、振込手数料相当額を売上値引きとして処理する方法です。これは、振込手数料を売り手が負担するという事前の取り決め(合意)がある場合、振込手数料相当額の値引きをしたのと同様だと考えられるためです。また、事前の取り決め(合意)がないにもかかわらず振込手数料を差し引いて入金され、振込手数料分の債権の入金不足分について請求が行われなかった場合には、結果的に値引きを行うことと同じであると考えられます。

その場合、売り手から買い手に対して「適格返還請求書(返還インボイス)」を交付することが必要です。インボイス制度の登録を受けた事業者が、課税事業者に売上返品、値引き、割引き、割戻し又は販売奨励金などの「売上げに係る対価の返還」を行った場合には、返還インボイスの交付義務が課されているためです。

したがって、振込手数料相当額を、売り手側が値引きなどとして処理する場合には、書類の作成・保存などの事務負担が新たに生じることになります。

なお、返還インボイスの記載事項は、次のとおりです。

① インボイス事業者の氏名または名称および登録番号
② 対価の返還等を行う年月日
③ 対価の返還等の基となった取引を行った年月日(期間の記載でもよい)
④ 対価の返還等の取引内容(軽減税率の対象品目である旨も)
⑤ 税率ごとに区分して合計した対価の返還等の金額
⑥ 対価の返還等の金額に係る消費税額等または適用税率

「返還インボイス」は、都度交付するか、月単位などまとめて交付することができます。また、継続的な取引がされている場合、返還インボイスは売上請求の際のインボイスに含めて(一枚の書類で)交付することもできるほか、所定の事項を記載したメール等で代用することもできます。

(2)振込手数料の立替として処理する方法

二つ目は、本来売り手が負担すべき振込手数料を、いったん買い手が立て替えたものとして処理する方法です。つまり、振込入金時に立替金の精算が行われることになります。

この場合、売り手は、インボイスと立替金精算書の2つの書類を買い手から受領し保存することで、「仕入税額控除」が認められます。買い手が銀行等の金融機関から受領した振込手数料に係るインボイスを売り手がそのまま受領したとしても、これをもって売り手宛に交付されたインボイスとすることはできません。「仕入税額控除」が認められるためには、前述した両方の書類の保存が必要となるため注意しましょう。

なお、買い手がATMで振込を行った場合には、インボイスの受領は必要ありません。3万円未満のATMの振込手数料については、インボイスの交付義務が免除されているためです。インボイスの保存の代わりに「××銀行□□支店ATM」などの一定事項を記載した帳簿を保存することにより、「仕入税額控除」が認められます。

少額な返還インボイスは対応不要に

このように、売り手負担の振込手数料は、従来の商慣習も絡んでくるとともに、インボイス制度の開始により事務負担が煩雑化する可能性があるという厄介な問題です。数百円という振込手数料の金額に見合わない事務負担の増加が懸念されていました。

この点、今後は簡易的な取扱いが認められる予定です。事務負担を軽減する観点から、すべての事業者を対象として、少額(税込1万円未満)の返還インボイスの交付義務が免除されます。この措置は、令和5年10月1日(インボイス制度のスタート時)から開始される予定です。

(免責事項)本コラムの内容は、投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令等に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本コラムに基づく情報により実務や判断を行う場合には、専門家に相談し、または十分に内容を検討のうえ実行してください。本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。なお、当事務所では本コラムに関する個別のご質問は受け付けておりません。予めご了承ください。
ABOUT執筆者紹介

税理士 武田紀仁

たけだ税理士事務所

クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。

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